豆大臣いちにちめ
じいちゃんはすごい。
「庭の手入れのプロ」。
庭木の剪定はプロの腕前だ。あまりにも手慣れた手つきで庭が綺麗になっていくもんだから、物心つく前、じいちゃんのことを庭師さんだと思っていた時期が僅かにある。ごめんじいちゃん。
「ご近所付き合いのプロ」。
気が付けば皆さんと仲良くやっていたり、知らんちびっこが遊びにきていたりする。自分の庭のみならず、ご近所さんの庭をお借りして野菜を育てたりしている。じいちゃんも凄いのだがご近所の方の懐の深さも凄い。
「散歩のプロ」。
ぴーんと伸びた背筋、しっかりとした足腰。齢80を超えているなんて到底思えない。昔から色んなところをぷらーっと散歩して、帰るころにはわらしべ長者か?と思うくらいに何かこさえて帰ってきたりする。
そんなじいちゃんが、数年前に事故に遭った。完全に相手が悪いタイプの事故だ。
大怪我を負った。事故によって首と耳にだいぶ後遺症が残った。
わたしは未だにもやもやしている。
あのときじいちゃんを轢いたタクシー会社に2度と世話になるもんか、と子どものような意地を張って、それでもまだもやもやしている。
じいちゃんは毎年野菜やら花やらを育てている。
豆、トマト。じいちゃんに育てられた野菜は何だか生き生きしている。
ミニトマトなのに細長くてでっかいトマトは、毎年の密かな楽しみでもある。
今日、じいちゃんのとこで豆を植えた。ベゴニアの花も幾つか植えた。
昨日はいい天気だった。負けないくらい今日もいい天気だった。
高校のころのダサイ赤ジャージを着て(ほんとに真っ赤)、タートルネックの長袖を着て、軍手履いて、麦わら帽子被って、総合してほんとにダサいコーディネートだった。しかし背に腹は代えられない。どうしても日焼けしたくない。
小学生のころを思い出した。
1~6年の縦割り班ごとの花壇の手入れをしたり、田植えをして収穫をしたり。自然とふれる機会は多かった。歳を重ねるにつれてどんどん少なくなっていったけれど。
庭の土を耕して、肥料をまいて、小さく掘ったところに豆を3粒ほど、15~20㎝くらいの間隔で植えた。トマトのときはお手伝いできなかったから、今日はお手伝い。何だかすごく懐かしい感覚だった。
「ありがとうなあ。まかせたよ~豆大臣」
「まかせたよ」って何かいいな。だいすきな、自慢のじいちゃんだからなおさらいいなって思うんだろうな。
そんなこんなで、じいちゃん総理大臣によって、本日付けでわたしは豆大臣である!
高校のころ、あまりに枝豆がすきすぎたがゆえにあだ名が「おまめ」だった。お弁当の時間になるとみんな枝豆くれたっけな。
おまめが豆大臣に。
いいじゃないかいいじゃないか。
何だかうきうきしてしまう。太陽の光を浴びて、うんと美味しくなってほしいと思う。
ベゴニアの花言葉を検索してみたら「片想い」「愛の告白」「親切」「幸福な日々」だって。別に花言葉からお花を選んでないだろうけど、チョイスが素敵だなあ。「幸福な日々」だってさ、いいなあ。すげえいいなあ。
じいちゃんあんまり無理せんとね。豆大臣を頼ってくれてもいいんだぜ。