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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第6話 ─ジャックされた幼稚園バスを取り戻そう!─Chapter1-2


鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、佳境の第6話が開始!

魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いをきざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。

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主人公の山田正一やまだ まさかず
は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗だてはやと)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいた2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!

鍵の力で圧倒的なパワーを見せつける主人公のマサカズ(左)と、的確な判断で彼に進むべき道を提示する弁護士の伊達(右)。2人は底辺の状況から脱し、信頼するべきパートナーとなっていく。 イラスト : RARE ENGINE

前回までの「ひみつく」は

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【前回までのあらすじ】
ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなしていた。

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第6話 ─ジャックされた幼稚園バスを取り戻そう!─Chapter1

 二十名を越える旧友たちが楽しげに言葉をわし、アルコールをまじえた飲食に興じる。マサカズにとって、それはこれまで経験したことがない規模のうたげだった。
「“ヤンマサ”くんが社長になったなんて、驚いたわぁ」
 “ヤンマサ”。そのあだ名で呼ばれるのは十五年ぶりで、中学校に入ってからはすっかり耳にしなくなった。小学生のいつごろ、そして誰が付けたのかはわからない。山田正一やまだまさかずをもじったことはなんとなくわかるのだが、ここにいる全員にたずねてみたところで、出典について明確な回答は導き出せないだろう。参加者の中でただひとり椅子いすに腰掛け、オレンジジュースの入ったグラスを手にしていた面前の老婦人に、マサカズはちりちり頭をきながら「まぁ、一応は」と返した。

 空手家と地下格闘王者の訪問を受けた二日後、十月二週目の日曜日の夜、マサカズは故郷の栃木県芳賀町はがまちのホテルのレストランで行われている立食パーティーに出席していた。主旨としては小学校の組単位での同窓会で、同じクラスだった三十名のうち、担任教師だった老婦人を含めた二十一名が出席し、旧交を温めていた。マサカズはシャツにデニムのジーンズといったラフな服装だったが、出席者の男性のうち何名かはスーツ姿をしていて、なんとなくではあるが現在の立場がうかがい知れた。
「何人ぐらいが働いてるの?」
 薄い桃色のカーディガンを羽織はおっていた老婦人は、小学校五年生から六年生にかけての担任教師で、当時授業についていけなくなり、段々と精彩せいさいを欠きつつあった小学校生活の終盤をやさしくフォローしてくれた恩師だ。彼女は卒業後すぐに定年退職をしており、現在ではボランティア活動を精力的に行っていると、そのような近況を語ってくれた。
「あ、僕ともう一人と、あとはパートさんが四人です」
すごいのねぇ。立派になって」
「そんなことないですよ。まだまだスタートしたばかりで、もうがむしゃらで」
「ほんと、みんなよく集まったわね」
 恩師がフロアを見渡した。マサカズもそれにならうと、すっかり大人になったクラスメイトが会話をはずませていた。ほとんどが中学校卒業まで同じ学校に通った仲で、高校で同窓だった者もいる。高校卒業後、上京してからはすっかり連絡を取ることもなくなっていて、SNSでのつながりを交わす者もいたのだが、マサカズはアカウント登録をしたものの利用することがほとんどなかったため、彼らの近況などさっぱりわからず、わざわざ検索するほど強い興味や関心もなかった。
「お兄さん、雄大ゆうだいくんは、今どうしてるの?」
 その問いに、マサカズはグラスを持つ力を強めてしまった。
「兄は、わかりません。どうしているのか。どこにいるのか」
 しぼり出すようにかすれた声で、マサカズは返事をした。彼はきびすを返すと、クラスメイトたちの輪に向かった。
 兄についての質問は、全て今の回答で対応してしまおう。当時一緒に遊んだ者もいたので深掘りしてくる可能性もあるが、“わからない”をり返すしかない。
 マサカズは懸念けねんを無理矢理抑え込むと、輪の中で際立った陽気をふりまく一人の女性に注目した。あれは新実葉月にいみ はずきだ。小学校三年生から六年生までの同窓であり、女子の中でもリーダー的な存在感をもった生徒で、気が強く好奇心旺盛こうきしんおうせいで、何事にも首を突っ込んでくる明朗めいろうな人物だった。当時からりんとしたたたずまいをした美少女だったが、今ではすこやかに成長し、うす化粧けしょうと黄色いワンピースがよく似合う美しい大人の女性になっていた。当時、他の男子たちと同じく彼女に対してあわい好意をいだいていたマサカズは、物思いにふけった。

 自分の人生の全盛期は、確か小学校四年生のころだったと思う。成績もよく、足も速く、ギャグもえ渡り、クラスの中心的な存在だった。新実とはよく周囲からカップリングされ、大統領とその夫人などと揶揄やゆされたこともあった。こちらとしては満更まんざらでもない気分だったが、さて彼女は当時、どのような気持ちでその扱いを受け止めていたのだろうか。今の自分は当時の輝きをすっかり失い、それを取り戻そうと懸命けんめい足掻あがいてはいるのだが、現在の彼女は如何いかなる日々を送っているのだろうか。いくつもの疑問はアルコールのまわりを加速させたため、マサカズはテーブルにあった水の入ったグラスを手に取ると、それを一気に飲みした。
 新実のとなりで笑顔を見せてまわりと談笑しているのは、三条哲秋さんじょう てつあきだ。小学校のころは五年生と六年生を共に過ごしたが、性格にはややかげりがあり、クラスでも孤独こどくな存在だった記憶がある。夏休みの自由研究では、地元の産業史についてノート三冊にも及ぶ研究資料をまとめ上げるといった、少々偏執へんしつ的ともいえるこだわりを発揮はっきしたこともあったため、マサカズは彼のことを変わり者だと思っていた。しかし、小柄こがらせていた彼はもういない。三十路みそじむかえようとしていたスーツ姿の“三条君”はすっかりえ太り、恰幅かっぷくの良さとほがらかな様子は別人の様にも感じられる。あれが“三条君”だととわかるのはごくわずかな名残なごりと、胸につけた名札のためだった。
 それにしてもだ。新実と三条の距離が、随分ずいぶんと近いような気がする。二人が同じ方向を向いて周囲と話しているのも違和感がある。マサカズがそういぶかしんでいると、二人は談笑の輪から離れ、彼の前までやってきた。
「やあ、ヤンマサ」
 確か彼からは当時、あだ名で呼ばれたことはなかったはずだ。マサカズは一応は挨拶あいさつを返したものの、なにやら愉快ゆかいならざる不信感を覚えていた。
「ヤンマサ、久しぶり!」
 三条と並ぶ新実が、当時と変わらぬ陽気さをかもし出しながらビールグラスを傾けてきたので、マサカズもそれに笑顔で返して乾杯かんぱいした。
「久しぶりだなぁ、新実さん」
 マサカズにそう言われた新実は、みにずかしさを加えると、となりの三条に視線を移した。決してかんがよい方ではなかったが、マサカズは彼女のあからさまな態度にある事実を察してしまった。
「え、なになに? なんなの?」
 今回の同窓会では、冒頭に現在の自己紹介をすることもなく、乾杯のあとなんとなく始まってしまった。マサカズはわからないふりをしてそう言いながらも目の前の二人がどういった間柄あいだがらであるのか、とうにわかってしまっていた。
「結婚したんだよ。僕たち。三年前」
 新実と三条が三年前に結婚した。クラスの太陽と、かつては日陰ひかげの雑草が。人生とは何がどうなるかわからない。自分も相当でたらめな力を得てしまったが、三条が得たのはそれを上回る破格の伴侶はんりょだ。マサカズは何がどうしてこうなったのか知りたくなったが、同時に生々しさが気味悪くもあり想像したくもなくなった。ただ、あらためて見ると彼女の名札には『新実(三条)』と記されていて、そこに注意が向けられなかったのは、新実があまりにも変わっていなかったからだった。
「じゃあ、しばらく二人でどうぞ。当時の大統領とその夫人だもんな。葉月、キミから色々と話しておいて。僕はちょっと疲れたからすみで座って食べてるよ」
 そう言い残すと、三条はわざとらしく太鼓腹たいこばらたたきながらテーブル席に向かっていった。残された二人は目を向け合ったが、マサカズはなんとも言いがたい気まずさを感じていた。
「説明すっからね。あのね。色々あったんだけど、大学出てからこっちに戻って就職したら、同じ会社で哲秋と一緒になったの。あの通りすっかり見た目も印象も変わってたから、最初は気づかなかったんだけど、彼の方から声をかけてきたの」
「ああ、三条くん、別キャラって感じだ。太ったし、明るいし」
「ヤンマサは、あんまり変わってないね。あ、でも社長なんだよね。サイト見たよ」
「一応だよ。ま、けど法務省から仕事をもらったりしてるかな」
 娘の違法行為で脅迫きょうはくし、やりげたのは今のところ山奥での運搬うんぱん業務だ。これは空虚くうきょ自慢じまんに過ぎない。言ってしまってから、マサカズは軽い自己嫌悪けんおおちいった。
「官からお仕事けてるの? うわっ! ヤンマサ社長、すごいじゃない」
「あー、とは言え……その……あ、新実……さん?」
「今は三条かな?」
 新実こと三条はショートヘアをひとですると、マサカズから視線を外した。
「じゃあ、三条さんかな? ウチはまだまだ小さい零細れいさいだし。そんな大したものじゃないよ」
「けど、スローガンは社会貢献とか人助けなんでしょ?」
「あれは、うちの副社長のアイデアなんだ。元弁護士のすごい人なんだ」
 マサカズの言葉に、三条夫人は目を輝かせた。彼女からあふれんばかりの生気を感じたマサカズは、すっかり気圧けおされてしまい、少しだけ退しりぞいてしまった。思い出してしまう。これは当時の輝きのそのままだ。
「なんだかさ、ヤンマサってすっかりテイスト上げちゃってるんだね! いずれは宇宙とか行っちゃいそう」
 今もやりようと工夫によっては、着の身着のまま宇宙に行けないこともない。想像したものの、あまりにもくだらなく思えてしまったため、マサカズは吹き出してしまった。
「よくこんな風にバカ言い合ってたよね。ウチら」
「だよだよ。そーだった。特に四年生のころは」
「わたし、ヤンマサの家にも遊びに行ったもんね」
「あー、来た来た。三井さんとかと一緒に」
「ヤンマサは、誰かいい人とかいないの?」
唐突とうとつな質問だと思うけど」
「だって、気になるじゃん。やっぱり。ウチら仲良しだったし。今のヤンマサが幸せなのか、すっごく」
 クスクスと笑いを交えながら、彼女はそう言った。マサカズはグラスのビールを少しだけむと、ため息をらした。
「いい人とか誰もいないよ。そしていまの僕は三条さんほど幸せじゃないかな。不幸ではないけど」
「え、わたしって幸せに見える」
「そのものって感じ。旦那だんなといい感じなんだろ?」
「まーねー! バレたかー!」
 屈託くったくのない満面の笑みだった。彼女はあのころから迷い間違わず一直線にけ抜け、この底抜けの幸せを手に入れたのだろう。高校卒業後の進路をあやまり、顧客や従業員への倫理観りんりかん破綻はたんした企業で身も心も摩耗まもうし、すっかりくたびれてしまった自分は、ここから彼女が得たような充実をつかめるのだろうか。笑い返して二度目の乾杯をしつつ、マサカズはすみのテーブル席でフライドチキンをむさぼる同窓生を横目でうかがい、そのうれいの感じない様子を少しばかりうらやましく思った。

第6話 ─ジャックされた幼稚園バスを取り戻そう!─ Chapter2

 十月も中旬に入った水曜日の昼過ぎ、伊達は柏城かしわぎ法律事務所の応接室にいた。応対した後輩の男性弁護士に土産として手渡したのは、新宿のデパートで購入したバームクーヘンだった。地下の食品売り場ではなく、八階のレストランフロアに店舗を構える、銀座の本店が大正時代に創業した老舗しにせの洋菓子店であり、洋菓子では唯一、宮内省御用達のお墨付きを得ている有名店である。それでいて、いちホールあたり二千円を下回るリーズナブルな価格で、柏城のお気に入りの一品だった。
 三ヶ月ほど前まで、自分はこの部屋を顧客対応のため、所属弁護士として使っていた。そして今では仕事の世話を受ける業者として、客として訪れている。変転した立場は、テーブルをはさんで座る位置が反対側になったことでよくわかる。たったひとりで待つことから実感できる。
「おお、バームクーヘン、ありがとうな」
 そう言いながら部屋に入ってきたのは柏城所長だった。彼は伊達の向かいに座ると、口元に笑みを浮かべた。
「どーやったんだ? 庭石にわいしから仕事を取れるなんて、ちょっと驚いたぞ」
「企業秘密です。って、オヤジが意外そうにしてるのが、ちょっと心外です」
「そりゃ、紹介した以上、俺にしてもお前たちに勝算があるって見込みもあったわけなんだが、正直なところその確率は……」
 柏城はあごに手を当て、視線を宙に泳がせた。
「出てこねぇな。いいたとえが。とにかく、お前たちが庭石をぎょせたってのは、俺にとって驚きだったってわけだ」
 娘の覚醒剤かくせいざい購入と使用の情報を入手し、それを以てしての脅迫きょうはくによって、柏城が困難と思っていたミッションは達成された。彼はそういったからめ手の想像をしているのだろうか。伊達は緊張感きんちょうかんを高め、湯呑ゆのみの茶を飲んだ。
「正攻法じゃないんだろ?」
 やはり、そういった筋道を想定するのか。それはそうだろう。このベテラン法律家は、正解に辿たどり着くすべを知り尽くしている。ごまかしの虚言ざれごとでお茶をにごすのも無駄むだだと思った伊達は、柏城の目をしっかりと見据みすえ、両指をテーブルの上で組んだ。
「当たり前です。我々程度の雑魚ざこが、なんの武装もせず法務官僚にまともな取り引きができるはずもありません」
「だろうな。でだ、どんな手かはまぁどうだっていい。好きにすりゃいいんだからな。俺が気になっているのは、山田だ」
「と、言いますと?」
「お前の考えた手、どうせえげつないやつだと思うし、でなけりゃ庭石には勝てねぇ。しかし山田はそれに反対したんじゃねぇのかって思ってな」
「さすがはオヤジさんですね。ええ、その通りですよ。マサカズはいやがりました。けど、最後には賛成し、一緒に立ち向かいました」
「気を付けろ。お前とあいつの相性は最悪だ。お前のやり方が過ぎると、いずれは対立する」
「それはわかっていますよ。でも走り出した以上……」
 これ以上の自己正当化は暴走とも言える。そう思った伊達は言葉を止めた。柏城は笑みを強くすると、目の前にあった湯呑ゆのみを手に取り、音を立てて茶をすすった。

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