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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう!─Chapter3-4
前回までの「ひみつく」は
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ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその力の使い方に戸惑いながらも、同じ現場で危機を乗り越えた若き弁護士の伊達隼斗(だてはやと)の助言を得て、つけ込まれていた半グレ集団との縁を断つことに成功する。敵との死闘の中、鍵は一部が壊れてしまったが、その使い道について2人は本格的に考えることに。そんな中、マサカズはアルバイト先の後輩、七浦葵との距離が少しずつ近くなりつつあった…。
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第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter3
きのう、隣にいたのは小さな後輩だった。彼女は失職を悲しんでいたのか、悔しかったのか、マサカズにはわからなかった。関係も浅くそもそも心情を察する洞察力も持ち合わせておらず、言葉でそれを探れるほどラーメン店のカウンターは落ち着ける場ではなかった。そして今、隣でコーラのグラスを傾けているのは眉間に皺を寄せた弁護士だった。「すまない。鍵の件だが、まだいい絵図が描けない」彼はそう告げた。
「でしたらなんで?」
「定期的に会っておくべきだと判断した」
日が沈んだころ、バイクで小岩のアパートまでやってきた伊達は、都道沿いのバーまでマサカズを連れてきた。初見だったが、こぢんまりとした落ち着ける雰囲気の店だ。伊達とマサカズは同じ感想を抱いていた。
「そうそう、コレ」
マサカズは腰のポーチを開けると、そこから鍵を一本取りだし、伊達に手渡そうとした。伊達は身を引き、首を振った。
「なんなんだ?」
「駅のお店で修理を頼んだところ、合鍵はどうだって話になったんです。で、作ってみたらオリジナルと同じ様な力が出せたんです。若干パワーは落ちてるっぽいんですけど、全然イケますね」
マサカズの説明に、伊達は人差し指で眼鏡を直し、眉を顰めた。
「理解の必要もないということか。それについては」
「わけ、わかんないですよね」
「ああ」
「で、コレ、十本作ったんで、一本は伊達さんに」
そう言うと、マサカズは合鍵を伊達に突きつけた。
「なんで俺が?」
伊達は嫌悪感を顕わにしてそう言った。
「いやだって、この秘密は僕と伊達さんだけでしょ。僕、気になってることがあって、それを伊達さんに試してみて欲しいんですよ」
常に相手の言葉を注意深く読み取り、先回りしてその意図を探ることを生業としていた伊達だったが、マサカズの試して欲しいことが何であるのか想像ができなかった。
「つまりですね、この力って僕以外でも発現するのかって。伊達さん、お願いします。それって最初はコントロールにコツがあって、最初はバランス崩して転んだりしちゃうんですけど、僕、ちゃんとアドバイスとかしますし」
その説明に、伊達は小さく首を横に振った。
「断る」
「どうしてです?」
「解明できていない、理解できない。有り体に言えば得体の知れないそれを試したくない。なんの副作用が俺に降りかかるかもわからない」
「えー、伊達さんそれってちょっと卑怯じゃないですか?」
「卑怯? 俺が?」
慌てる伊達を横目に、マサカズはウイスキーのロックをひと呑みした。いつもならアルコールはビールかサワーだったのだが、店の雰囲気がいかにも小洒落たバーだったため、いつ以来かも思い出せないほど久しぶりのウイスキーだった。
「だってそーでしょ。僕とこの力で関わりたいっていうのに、副作用の危険は僕だけに押しつけてるって……アレ? 違うかな?」
「いや、そう思うのは間違っていない。確かに運命を共有しようってほどの覚悟はない。ただ、現状お前になにも異常が起きていないことを考えると……」
「結果オーライ?」
「そうそうそれだ。新しい試みに対しては慎重にしていれば、俺たちは成功できる」
「でもでも、これは一本持っておいてください。えーと、可能性ですかね? そういった選択肢は広げておきましょう」
突き出されたロッカーキーを、伊達は受け取った。
「悪くない考え方だ。そうだな、知り得た者として俺は受け取っておくべきだな」
高学歴であり、喋ることを生業にしているため自分よりずっと語彙に富んでいるはずの彼だが、出会ってから常にわかり易い言葉を選んでくれている。これがプロの弁護士というものなのか。鍵を受け取り、それをスーツのポケットに入れる伊達を見ながら、マサカズはそう思った。
「伊達さんって独身ですか?」
コーラのグラスを持った伊達の手を見ながら、マサカズはそう尋ねた。
「キャバクラ通いで借金してたんだぜ。彼女もいないよ」
「えっ、伊達さんイケメンで弁護士なのに?」
「モテ期なんて一度もねーよ。だいたい、付き合ってもすぐに言い合いの喧嘩になって別れちまう」
「あー、だからキャバクラか」
グラスに残っていたウイスキーをあおると、マサカズは喉が焼けるような刺激を感じた。
「だ。彼女たちは男を怒らせるようなトークはしないからな」
「伊達さんは僕のこと調べ済みなんでしょうけど、僕はそっちのことなんも知らないし、今後は色々と教えてくださいね」
「まぁ、おいおいな」
「趣味とか好物とか……、あ、ビールがお好きってのはこないだの温泉でわかりましたけど。今日はなんでコーラなんです?」
「バイクだからな」
「あ、そーか」
「サウナでもあれば、一杯やりながらひと晩のんびりしていくんだけど、小岩ってどうなんだ?」
「どうだっけなぁ。銭湯には行ったことがあるけど、サウナはどうだっけ」
「確か……昔はスーパー銭湯があったって聞いたけど」
「あ、それって僕がこっちに越してきたころにはなくなったっぽいです。建物が老朽化して取り壊したって」
「へぇ」
取り留めのないやりとりをしながら、マサカズは二杯目のロックをバーテンに注文した。
「あ、それとなんですけど、目出し帽ってアレ、どうにかなりませんかね?」
「犯罪者っぽいもんな」
「けど顔はかくしておいた方がいいですし。なんかヒーローっぽい仮面とかって、アキバとかで売ってるのかな?」
「それについちゃ、俺に任せてくれるか?」
「心当たりあるんですか?」
「それこそ俺の趣味の領域でな。適当なマスクを見繕っておく」
「カッコイイのでお願いしますよ。あと、できるだけお安く」
「例のカネは、やっぱり手付けずなのか?」
「ええ、自分で納得できる使い道がまだ見つからないので」
「あのさマサカズ、若干踏み込んでもいいか?」
「はぁ?」
「これまで色々な人間を見てきたけど、あれだけの大金に誘惑されないのって、ハッキリ言って破格だぞ」
「そりゃ、道で拾ったとかだったら、とっくに使ってましたよ。もっといいタワマンに越したりとか、海外旅行とか。けど、アレってアレですよ。あんな形で持ってきたりもらったりしたモノですよ。正直なところ怖さの方が勝ります」
マサカズの言葉に、伊達は歌舞伎町での夜を思い出した。登別たちは次々と命を絶たれ、血溜りに身を沈めた。それをしてしまった当事者であるマサカズの気持ちを、これまで数々の犯罪者の弁護人となりその心に深入りしてきたにも関わらず、ここに至るまで伊達はよくわかっていなかった。
二杯目のロックで気持ちが高揚してきたマサカズは、伊達の肩を人差し指でつついた。
「なんだそれは?」
「力とは全然関係ないんですけど、いいです?」
唐突なマサカズの相談に、伊達は「なに?」と突き放すような早口で返答した。
「バイト先の女の子がですがね、妙に親しげにしてくるんですよ。彼氏いるのに」
「へー」
「素っ気ない返事ですね」
「これっぽっちも興味が沸かないからな」
「まー、モテない伊達さんに相談してみるだけムダか」
「嫌味だな。その子はお前を浮気の対象にしているかどうか、真意を知りたいってことか?」
伊達の指摘に、マサカズはグラスを手にして背筋を張った。
「さすがは伊達さん! 僕、そこまでハッキリとした疑問とかってまだだったんですけど、伊達さんはいつも先回りで答えを出してくれる」
「その子とはどこまでいったんだ?」
「昨日、そこの駅前でラーメン食べました。並んで」
「昼飯?」
「晩メシです」
「ほう……」
伊達は小さく何度か頷いた。
「次の確認段階があるとすれば、酒席だな。サシ呑みに誘って乗ってきたら、脈はかなりある」
「そりゃそうですよね」
「好きなの? その子?」
「わかりません」
「なら、慎重にいかないと。歳の差は?」
「八歳年下です」
マサカズの返答に、伊達は身体を大きく引いてコーラをひと口飲んだ。
「そりゃほんと、慎重に行け」
「兄貴的枠って可能性も残念ながらワンチャンありますよね」
「あのさ、マサカズ」
「なんです?」
「“ワンチャン”の用法、間違ってるぞ。ワンチャンス、それは好機を期待した場合の言葉だ」
伊達の指摘に、マサカズはちりちり頭をひとかきし、「そーでしたっけ?」と間抜けな声で返した。
第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter4
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