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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第1話 ─変身!正義のヒーローになろう!─Chapter5-6


前回までの「ひみつく」は

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ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一やまだ まさかず(28歳)。彼はその能力の限界値を確かめながら、その「力の使い道」を模索し始めていたが、ある時、闇金業者達にいきなり拉致らちされ、逃げ場のない事態に。選択の余地もない場面で、マサカズはその力を「解放」して、窮地きゅうちを脱した…。

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第1話 ─変身!正義のヒーローになろう! Chapter5

 これは、映画やドラマでしか見たことがない量の札束だ。マサカズは顔をひそめ、そのひとつをつかみ取った。
 あの、初めて鍵の力を人間に対して使ってしまった夜、アパートまで戻ってきたマサカズは、きっぱなしだった布団に倒れ込み、翌日の夕方になってようやく目を覚ました。せっかくの休日をムダにしてしまった彼が真っ先に試みたのは、ヤミ金から持ち去った金庫の中身の確認であり、それは鍵の力によって強引に達せられた。眼鏡の青年が言っていたように、中には債務契約書が入っていたのだが、同時に大量の札束も保管されていた。正確な総額はわからないが、おそらくは数千万円はあるだろう。傷害の上、大金の強奪という罪を背負ってしまった。理不尽りふじんで圧倒的な暴力にさらされ、あの事態そのものから逃れるために行った結果ではあったが、大金を得た喜びなど全くなく、犯罪者となってしまったことにマサカズは恐れしか感じていなかった。これからどうしよう。警察に自首するという道が最も真っ当ではある。だが、あのダテ先生と呼ばれていた青年が言っていたように、あのような命の扱いを淡々たんたんとやりとりをして暴利をむさぼる連中のせいで刑務所に入れられるのは、今ひとつ納得ができない。それに、あの夜の状況をつまびらかに説明した場合、鍵の秘密についても警察に知られてしまう。いや、刑務所に入れられる時点で鍵も失うのだから、そこは気にする点ではないのか。マサカズはひどく混乱してしまい、その日は一食も口にすることができなかった。
 
 それでも日常は訪れる。どうするべきかの答えは出なかったが、あらかじめ何をするかは決められていたので、マサカズは翌日、アルバイトのため書店に出勤していた。昼の休憩中、マサカズは店長に呼び出され事務室を訪れた。
「山田君、こないだの件ね、アレ白紙ね」
 唐突とうとつな切り出しに、マサカズはうなずくことなく返事の言葉も出なかった。
「だからさ、正社員って件、アレ白紙ね」
 そもそもが正社員採用の可能性についてはマサカズにとって降っていたかのような話だったため、彼は「はぁ」と気の抜けたような言葉しか返せなかった。
「でね、多分なんだけど、今の契約も次ので最後になりそうなの」
 つまり、年内にはここでの職を失う。そう理解したマサカズは目を細め、アパートにある札束を思い浮かべた。
「いやね、チェーン全体の経営がキツくなってきたのよ。今ってみんな電子でしょ? ウチみたいな本屋はどこも苦しくてね。まだ閉店にならないだけマシなんだけどね。ごめんね」
 最後の“ごめんね”がひどく早口で、形式だけの謝罪であることは明らかだった。マサカズは小さく頭を下げ、事務室から休憩きゅうけい室に戻った。
「山田さん、何でした?」
 ソファに座って弁当を手にした後輩の七浦葵ななうらあおいが声をかけてきた。
「正社員の件、なしだって。それと、次の契約で最後になりそうだって」
 マサカズの言葉に、七浦は弁当箱を机に置き、目を丸くした。
「じゃあ、わたしも次でクビ?」
 マサカズは疲れ果てた様子で七浦の対面に座った。
「知らないよ。七浦さんがどうなるかは」
「だって、わたしなんかより全然優秀な山田さんがですよ? わたしみたくポンコツが残れるはずない」
「知らない。店長に聞けば?」
「やです。わたし、店長苦手ですし」
「そうだったの?」
「なんかあの人、わたしをジロジロ見るんです。その目付きがNGって言うか、うぇって言うか」
 嫌悪感けんおかんを隠さぬ表情と口調で、七浦はそう言った。マサカズにしてもあの店長は決して得意な相手ではなかったが、彼女から感じた拒絶きょぜつは想像以上であった。
「ならさ、めてほか行けばいいんじゃない?」
「仕事慣れてきたからダルいなぁ。できれば折り合いつけつつ、このままがラクかも」
「七浦さんは例えば将来の夢とかってないの?」
「あります。すっごい具体的なの」
 今度は目を輝かせ、七浦は腕を組んで胸を張った。
「夢は小説家デビューしてアニメ化されて、しの声優さんがキャスティングされることです」
「確かに、具体的だ」
「山田さんは推しの声優さんとかいます?」
「あ、いや、僕、あんまりアニメとか見ないから」
「えー!? あんなに漫画におくわしいのに?」
「アニメとかドラマって、自分のペースで見れないのが、それこそダルくってさ」
「あー、なるほど。でも最近だと倍速もできますよ」
「僕の場合、遅く読みたいこともあるんだよ」
「はー、さすがに漫画読みの上級者は違いますね」
「小説、書いてるの?」
「ネットの投稿サイトで鋭意連載中です」
「なんての? 読んでみたいな」
「やです。男名義めいぎのペンネームなので身バレNGですし」
 ストレートな拒絶に、マサカズはそれ以上の要求をあきらめた。
「けどけど、興味をもってもらうのはうれしいです」
 後輩の喜びと屈託くったつのないみに、マサカズは犯罪者という重荷と失職という危機から少しだけ気持ちがいやされるのを感じていた。

 夜、仕事を終え書店をあとにしたマサカズは駅近くのラーメン店に入り、カウンターで醤油しょうゆラーメンを注文した。よく使っている店だったが今日は経路を変え、遠回りをしてしまった。いつもの道筋だと交番の前を通らなければならず、一昨日やってしまったことを考えると、なんとなくだがけてしまっていた。
 これからどうすればいいのか、考えがまとまってくれない。店のすみ接地せっちされたテレビではニュースを流していた。内容は、もう一年以上続いている、はるか彼方かなたの外国でり広げられている武力衝突についての報道だった。瓦礫がれきの映像をぼんやりと見つめながら、マサカズはいずれ逮捕され、自分がこの番組で報じられるのではないかと思った。やはり、あの行動は間違いだったのだろうか。ダテ先生を見殺しにし、父に借金の返済をお願いするのが最適解だったのかもしれない。

 ラーメン屋を出たマサカズは、家路いえじにつきながらスマートフォンを手にした。
「もしもし、俺、マサカズ」
 電話した先は、栃木の実家だった。マサカズの実家は栃木県の南東部に位置する芳賀町はがまちという梨を特産品とする農地や工場が建ち並ぶ地域であり、マサカズの父は小さな町工場を営んでいた。
「仕事、年内で変えなくちゃいけないっぽいんだ。まぁ、なんとかするから心配しないで」
 母親に現状を報告したものの、どうしても一昨日の件については打ち明けることができなかった。母と話をしながら、マサカズは段々とどうにでもなれ、という投げやりな気持ちをふくらませていた。

 どうにも気分が悪い。アパートに帰ってきたマサカズは、救いを求めるような気持ちで後輩の彼女の笑顔を思い出した。ハッキリと端的たんてきに自分の気持ちを表してくるあのような子と付き合えたら、毎日はさぞかし起伏があり、精神的に豊かな生活を送れるだろう。しかし、明日にも傷害しょうがい窃盗せっとうの罪で逮捕されるかもしれない。そもそもあの夜の事件については発覚されているのだろうか。そう思ったマサカズはニュースサイトにアクセスしてみた。
 
 歌舞伎町の金融店に強盗、経営者を含め三名が死亡
 
 その見だしに、マサカズはスマートフォンを床に落とした。

 死んでしまった。殺してしまった。自分が、この手で、あの三人を。自分が、殺した。
 マサカズはその晩一睡いっすいもできず、アルバイトも休みをもらい、アパートで布団にくるまりただふるえていた。いや、アレは正当防衛だ。ダテ先生は過剰防衛かじょうぼうえいと言っていたけど、アロハシャツの男のように殺されていた可能性があったはずだし、銃弾を二発も受けたのだ。ああするしかなかったのだ。いや、連帯保証人になったのは事実だし、たとえ法外な金利だったとしてもあの夜はなんとかしのいで、テレビとかでやっている借金専門の法律事務所に相談して正当な金利で返済するという道もあったはずだ。マサカズの中で、二つの相反あいはんする考えが交互にり返し押し寄せていた。

 それでも日常というものはけられない。一日休んだのち、マサカズは書店に出勤し、職務にいていた。そろそろ六月のおすすめ漫画を決めなければならない。今度は違法アップロードではなく、正当な手段で選ぶことにしよう。法を破った強盗殺人犯として、せめてそれぐらいはしなければ。翌日もマサカズは仕事に没頭した。忙しければ考えごとの余裕もなくなる。夜は酒をんで寝てしまう。そんな二日間だった。警察の手はまだ伸びてこない。だが、日本の捜査機関は世界にほこる優秀さだと聞いたことがある。少しずつ覚悟を決めつつあったマサカズだが、それでも自首という勇気はいていなかった。

 その日の仕事を終えたマサカズは、家路についていた。すると目の前にこん色のスーツを着た手ぶらの中年男性がやってきた。髪はオールバックでネクタイはしておらず、黄色のワイシャツは第二ボタンまではずされていた。「山田正一さんですよね」
 見も知らぬ者に名前を呼ばれる。あの地獄の夜のように。マサカズは腰から首まで固まらせ、ひざをガクガクとふるえさせ、「やだ」とらした。

第1話 ─変身!正義のヒーローになろう! Chapter6

 マサカズは九階建てのマンションの屋上に着地した。すぐ近くには首都高があり、あちらに着地していれば誰かの目にとらえられていただろう。だからここは我ながらベストな着地先だと思う。屋上の防犯カメラも自分に対しては明後日あさっての方向を向いている。六本木という繁華街はんかがいにやってきたのは初めてだったが、今夜の目的は飲食や遊びではない。吉田と名乗るオールバックの男から依頼された用事をませるためだ。

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