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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第13話 ─踏み外した道を歩み直そう!─Chapter5-6


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▼マサカズの逃避行と新たな局面が描かれる「第10話」はこちらから

▼新たな秘密結社の立ち上げが描かれる「第11話」はこちらから

▼北見が率いるキーレンジャーとの戦いが描かれる「第12話」はこちらから

▼いよいよ最終話! 見逃せない「第13話」はこちらから

【前回までのあらすじ】
ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・30歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑むが惨敗。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは雷轟流らいごうりゅう道場で短期間の修行をし、ある秘策をもってホッパーを撃退する。逃避行の旅に出た先でマサカズは北見という男に出会った後、自らの地元に降り立ち、いまだ自首をしない幼なじみの葉月にあるものを託す。その先にたどり着いた北海道の地でマサカズは異常事態に巻き込まれるが、マスクマンの格好で救出劇をげ、今度は南の地、那覇なはへと降り立ち、そこでマサカズは新たな決意を固める。新たに立ち上げた秘密結社は次々と問題が噴出。無人島から半ば強制送還的に戻ってきたマサカズは自分の部屋の前に倒れているホッパー剛をかくまい、北見とキーレンジャーたちとの戦いを見届ける中、ある秘策をホッパーにさずけるが、ホッパーは致命傷を負い、絶命する。実家に戻ってきたマサカズの元を北見の前で、マサカズはマスターキーを破壊し、日常が戻ったように思えたが、「Y案件」なる事件の裏側で、ある男の影が見え隠れしていた…。

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第13話 ─踏み外した道を歩み直そう!─Chapter5

 東京ビッグシティテレビジョンは、東京都を放送対象地域とする都域のローカル放送局として事業を展開し、公式の略称は『TOKYO BCTV』となっているが、視聴者からはさらに略された『Bテレ』との愛称で親しまれている。一九九三年に開局し、東京都議会の中継や都域のニュース、トークバラエティ番組などを放送しており、二〇〇七年ごろを境に、深夜帯におけるアニメーションの放送に力を入れ始め、他局と比べて安価な電波料を理由にコンテンツが集まりやすかったこともあり、放送枠は年々拡大し、現在では日本で最も多くテレビアニメーションを放送しているテレビ局となっていた。

 『5時が大好き!』はBテレの看板ワイドショーであり、東京に限らず日本全国で起きているブームや現象を、辛口と呼ばれているコメンテーターが世間とは少しばかり異なる切り口で論評するのが話題の、個人視聴率も好調な人気番組となっていた。月曜日から金曜日の夕方に放送している帯番組で、視聴者からは『ゴジスキ』の愛称で親しまれ、放送日によっては他局の視聴率を上回ることもあり、局でも特に制作予算を割くプログラムとなっていた。

 都波武蔵となみ むさしは『ゴジスキ』のディレクターのひとりで、今年二十三歳になる新人テレビマンである。“武蔵”などといったいにしえの剣豪を連想させる名前ではあるものの、性別は女性で、職場では誰からも“ムサシ”と、親しみを込めて呼ばれていた。身長は百七十五センチと女性にしては長身で、足が長くスタイルも整っていて、骨格もしっかりしたスマートな体型をしていた。端正な顔立ちで髪は短く、男性と見間違えられることはなかったが、男装した女性程度に見られることもたまにだがあった。
 高校生のころはバスケットボール部に在籍し、二年生の後半には主将になった。女子からは勝手に“二刀流”などと呼ばれることもあり、三年生のバレンタインデーではチョコレートを持たずに登校したが、帰宅した自室のベッドに放り投げたのはチョコレートがぎっしりと詰まった紙袋だった。この紙袋は、二年生のころの経験に基づき予め用意しておいたものだった。あこがれと好意をいだかれがちな彼女だったが、ムサシ自身は恋愛といったものにほとんど興味が持てず、それは社会人になった今も変わらないままだった。
 部活動があったため、視聴機会はわずかだったが、たまたま見た『ゴジスキ』の、世間の一般論とそれに対して逆張りとも言うべき極端な意見がぶつかり合う過激な番組内容にすっかり圧倒され、やがて毎日録画して楽しむまでになっていった。この視聴をきっかけに、社会の構造に対しての興味が高まり、大学は上智大学文学部に合格し、新聞学科と称されるメディアの様々な領域を学ぶ専門部門に進んだ。大学卒業後は迷わずBテレを就職先に選び、先輩からは「ムサシはうちなんかじゃなくって日テレとかテレ朝とか行けたんじゃない?」などと、東京キー局でも通じる経歴だと言われることもあったが、毎晩学校でのストレスを解消してくれる『ゴジスキ』を放送しているBテレは、ムサシにとって唯一の選択肢だった。そのような彼女が『ゴジスキ』に配属されたのは至極しごく当然とも言え、け出しテレビマンとして充実した日々を送っていた。

 “ルッチャマン”なる隠語がいまのムサシにとって、最も気になるキーワードだった。ルッチャマンとは特定の人物を指し、日本の各地で発生した事件や事故の現場で目撃され、人命救助や犯人の制圧などを非正規で行う善意の第三者と噂されていた。ネットをさかのぼれば、一年前が最古の記録になっているが、今年に入ってから情報の露出が急増し、マスコミにはまったく表に出てこない存在だったので、いまでは都市伝説を代表する固有名詞になっていた。
 取材対象として興味をいだいたムサシはルッチャマンの情報を求め、SNSで目撃者との接触を試みた。彼女が任されていた制作予算はわずかだったが、私費も投じて報酬を提示した結果、証言だけではなく、動画や画像も次々と集まった。ムサシはそれらをもとに、ルッチャマンの実像を自分なりに取りまとめてみた。

 ・ルッチャマンとは、あごまでおおわれたプロレスのマスクをかぶった中肉中背の男。おそらくは日本人の青年。
 ・ルッチャマンとは、人間離れをしたパルクールの達人で、ビルの屋上から屋上へとジャンプして移動するため、防犯カメラには映像がほとんど残っていない。
 ・ルッチャマンとは、おそらくは怪力の持ち主。鉄製の扉など容易に破壊できる。
 ・ルッチャマンは、主にテレビでリアルタイムに報道されている災害、事件に登場。到達時間から逆算したところ、おそらく関東在住と思われる。
 ・ルッチャマンは、現場に現れると人命救助や犯人の無力化に対応し、その超常的な能力によって、救急や警察官では困難な成果を挙げている。
 ・ルッチャマンの存在は常に警察発表には含まれず、報道されることもない。

 ルッチャマンがからんでいるとうわさされる事故、事件はこれまで四つあった。

 『土浦トンネル玉突き衝突事故』は昨年十二月に発生した交通事故で、トンネル内で玉突き衝突が起き、八台もの乗用車、トラックが炎上した。ルッチャマンは事故報道の一時間後、現場に姿を現し、六名の怪我人をトンネルの外まで運び出したとのことだった。ルッチャマンは猛烈な炎と煙の中でも当たり前のように素早く動き、横転したトラックを怪力で元に戻し、ひしゃげたドアをいとも簡単に引きちぎり、車内から乗員を引き出した、とうわさされている。

 『東銀座通り魔事件』は一月に起きた傷害事件で、中央区銀座にて刃物を持った男が暴れ出し、道行く人々を次々と切りつけた。そして現れたルッチャマンにデパート前の交差点で連れ去られ、路地裏の電柱にロープでくくりつけられた姿で発見された。ルッチャマンはその場から立ち去ったが、警察発表は「何者かによって拘束こうそくされた」にとどまり、ルッチャマンへの言及はなかった。この件についてはルッチャマンの動きがあまりにも高速だったので、市民が撮影した映像にもその姿は鮮明には映っていなかった。なお、この事件は発生から沈静化までの時間が短かったため、四つの事件の中でも唯一リアルタイムでの報道はなかった。

 『横浜ビル倒壊事故』は三月、横浜で解体中だったビルが作業ミスによって倒壊した事故で、現場に飛来してきたルッチャマンは、瓦礫がれきに閉じ込められた作業員ひとりを救出した。人の力では排除が不可能な重量の瓦礫をルッチャマンは軽々と持ち上げたとのことだった。

 『四条飲食店立てこもり事件』はつい先月の四月に、京都府四条河原町の飲食店での事件である。突然乱入してきた男が店員のひとりを滅多刺めったざしにし、店員と客を人質に籠城ろうじょうした。到着したルッチャマンはまたたに犯人を制圧し、何も言わずに去ったらしい。

 これら四件の他にも、昨年一月に札幌で発生した、タンクローリー爆発事故にともなう地下街の崩落ほうらくで、瓦礫がれきに閉じ込められた被害者が動画配信サイトに投稿した動画があった。それにはルッチャマンの肉声が一分にわたって記録されていて、今年に入ってルッチャマンが話題になってきたころ投稿されたらしいが、運営から即座に削除され、現在では閲覧できないとのことだった。

 断片的なパズルのような情報をムサシは組み立てた。超人がいる。捜査機関がその存在を公表しない、謎の救済者ルッチャマンは確かに実在する。テレビやアニメに出てくるヒーローのように派手はでなコスチュームを身につけてはいないが、個人を特定されるのを嫌い、プロレスのマスクで人相をおおうこの彼は、いかなる理由で、いかなる事情でこの活動をしているのだろうか。ムサシはゴールデンウイーク明けごろからすっかりこの、覆面ふくめんの超能力者に興味の大半を奪われ、ついには『ゴジスキ』で取り扱う企画書にまでまとめ上げた。

「ムサシさ、君が出した企画、『追跡! ルッチャマンって何者?』アレな、ボツな」
 五月十四日の昼下がり、局の制作室でムサシは上司の制作部長から甲高かんだかい声でそう言われた。デスクをはさんで座っていたワイシャツ姿の中年男性は部長であると同時に『ゴジスキ』のチーフプロデューサーでもあり、番組で放送する内容の全権をにぎっていた。ジャージの上着にデニムパンツ姿のムサシはデスクの側面まで回ると、部長に身を乗り出した。
「理解できません。ネタとしてはオンエアの水準に達しています。それは部長も認めますよね」
「ああ、面白いよな、顔を隠した超人なんて。僕の世代だとそうだなぁ……RXとか?」
「それはわかりませんけど……ルッチャマンはまだどこのメディアも取り扱っていません。ウチの視聴者はネットとの親和性も高い方ですし、うまくいけば今後独占して取り扱えると思うんですよ。それってすごくないですか?」
「あのさぁムサシ。なんで他局や週刊誌が取り扱わないんだと思う?」
 部長にそう問われたムサシは視線をはずし、くちびるに人差し指を当てた。
「信じてないんじゃ? どーせネット上のフェイクだろうって」
「そのネット媒体でも取り扱ってないだろ」
「た、確かに……」
 言われてみればそうだ。ネットを活動基盤とする独自取材のニュースを配信するサイトでもルッチャマンを取り扱う記事はひとつも見つからなかった。ムサシは資料を作る際に感じていた言葉にならない違和感の正体のひとつに、その点もあったのではないかと思い至った。
「こう考えないのか? “取り扱わない”んじゃなくって“取り扱えない”って」
禁忌きんきってことですか? ルッチャマンが」
「情報の拡散を避けるようにお達しが出てるんだけど、まぁ君がここまで調べ上げている以上、有耶無耶うやむやにはできないな。ちょっとあっちで話そう」
 部長にそううながされたムサシは、会議室までやってきた。部長と二人きりになったムサシは、なにやら自分が緊張していることをわかっていた。部長はテーブルの上でひじをつくと、両指を組んだ。
「わっ、なんかヤバめな感じです?」
 ムサシはまだキャリアのない新人だったが、番組のトップに対しても常にざっくばらんな態度で接し、部長もそれをとがめることは一切なかった。
「全国の報道機関に政府機関からルッチャマンに対しての情報規制と箝口令かんこうれいが敷かれている」
「そんなのって、本当にあったんですね」
「もちろん、理由なんて説明してくれない。なんでもあいつらはこの件を“Y案件”って呼んでいるらしい」
「具体的には、どの情報に対して規制がかけられているんですか?」
「いいか、ここから先は君にも守秘義務ってのをってもらうぞ」
「はい。かまいません」
 ルッチャマンの企画は世に出せない。この時点でムサシはそのような結論に至っていた。企画書の行き先は、リアルでもデジタルでもゴミ箱でしかないのだが、彼女はそれに対して負の感情を一切生じさせず、ルッチャマンをめぐってこの国の中で何が起きているのか興味が沸くばかりだった。
「マスクの有無を問わず、人間離れした超常的な能力を示す、あるいは残す事案については、これを取り扱う際には総務省担当部署まで事前の連絡を要する、だ」
随分ずいぶんシンプルなんですね」
「だから厄介やっかいだ。恣意しい的な解釈がいくらでもできる。でな、実際のところ事前連絡したところもあったけど、かたぱしから公開禁止って答えのうえ、場合によっちゃマスターデータの提出要求もあったらしい」
「うーん」
 ムサシはテーブルにし、テーブルを拳で軽く何度もたたいた。指を崩した部長は鼻を鳴らして笑い、それをきっかけにして会議室にはゆるんだ空気がただよった。
「でもこれだけネットで話題になってて、目撃情報や画像とか動画が結構あるんですよ。いつまでも情報規制なんてムリだと思うんですけど」
「そりゃそうだろうな」
 部長の言葉に、ムサシは上体を起こしてジャージのえりを直した。
「じゃあ、この先どうなるって思います? 部長としては?」
「僕もさ、ルッチャマンはなんとなくだけど把握してて、ムサシの企画で理解のレイヤーが一気に高まったんだけど、彼を捕捉することはまずムリでしょ。だから、すべてはルッチャマンしだいだと思うよ。彼が自らその存在を知ってほしいと思うか、政府機関が分厚ぶあついベールをかけてくれるこの状況をヨシとするか。だから僕には予想なんてできないね」
 ムサシはこの職場に配属されて以来、部長の論理的な言葉が好きだった。彼女は何度もあいづちを打つと最後に「ですよねー」と、明るく賛同した。
「近いうちに『ルッチャマンTV』なんてのも動画配信されるかもね。まぁ、すぐにあかバンされるだろうけど」
「それはそうですね。けど、そうだなぁ、ルッチャマンは政府の人間じゃないってことになります?」
「なんでそう考える?」
「あ、テレビ報道があった事件ばかりにからんで……あ、でも銀座の通り魔は違うか」
「読みとしちゃいいと思うよ。だけど実のところ、水面下で彼が関係した案件があるのかも知れないし、この件についちゃわからないことが多すぎるけど、まぁそうだな、ルチャマスクってのは政府機関とのつながりを否定する最も大きい材料かな?」
 部長から出た耳慣れない言葉に、ムサシは何度かまばたきしてほうけてしまった。
「“ルチャマスク”ってなんです?」
「ああ、ムサシは知らないか。メキシコのプロレスのことだよ。ルチャリブレって言うんだ」
「あー! だからルッチャマンなんだ!」
「はは、またひとつ勉強になったんじゃないのか」
「部長ってプロレスとか観るんですか?」
「うん今でも割と行くかな。別業界の観戦仲間もいるし」
「あー、だからこないだの企画会議で女子プロレスの新番組企画のことしてたんですね」
「おずかしい」
「いえいえ、好きこそ名作の原動力ですから」
「言うねぇ」
 部長との流れるような会話をムサシは楽しんでいた。しかし、壁の時計は『ゴジスキ』の事前ミーティングの時間が迫っていることを知らせていた。ムサシは椅子いすから立つと、部長に深々と頭を下げた。
「次の企画立てるので、また見てくださいね」
「楽しみにしてるよ」
 その言葉を受け、新人ディレクターは溌剌はつらつとした笑顔で、会議室から仕事の現場に向かって勢いよく駆け出していった。

第13話 ─踏み外した道を歩み直そう!─Chapter6

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