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『Beep21』真・セガハード列伝-外伝- パソコン通信黎明期と周辺機器開発秘話─戸崎健司
セガの家庭用ゲーム機の開発者が開発者当時者へ直接取材し、当時の裏話を訊いていく「真・セガハード列伝」。今回は本コーナーのナビゲータである戸崎健司氏自らが、パソコン通信黎明期にユーザーとコミュニケーションしながら周辺機器の開発が進められていく様子が語られます。
今回は「外伝」的な回顧録。ぜひ最後までご覧ください。
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密かにユーザーと直接意見交換していた話
今だから言える話。いや、言えない話かもしれない。ユーザーと直接、周辺機器の試作品について意見交換したお話です。今思うと、いろいろとんでもないお話もありますが、いろいろな経緯とご縁がありました。
今回のお話には、メガドライブ用の周辺機器マウス「セガマウス」と、未発売のセガサターン用「マルチコントローラー」の拡張パックの開発秘話も出てきます。
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商品開発にパソコン通信を活かそうとした話
記憶が確かならば…、1992年に家庭用ゲーム機の設計部門であるコンシューマ製品設計部から分離して、商品企画部がセガに発足しました。家庭用ゲーム機の新商品を企画、研究する部門です。とは言っても、CPUやグラフィックスの開発は、開発部門の中枢であるハードウェア研究開発部が行っていたのは変わりません。商品企画部では、センサーや新しいデバイスの応用など、遊びの幅を広げるための研究をしていました。それはすなわち周辺機器の企画開発を意味しています。
私は発足時に、コンシューマ製品設計部から商品企画部に異動しました。
商品企画部の部長には、新たに中途入社された楮修部長が就任されました。
楮部長は面白い経歴の持ち主で、原子力発電所の配管設計に携わっていたことがあり、学術論文、学会などの知見がありました。海外勤務の経験もあり英語も堪能で、アイデアマンでもあり、その頃のセガにはいなかった学術派、インテリタイプの人でした。
なかでも、自宅では技術情報や論文の検索などで、パソコン通信を使っているという、当時の開発部門にはなかった手法を使う人でした。
当時はまだインターネットが使える時代ではありませんでした。通信サービスといえば、CompuServeか、日本ではNIFTY-Serveがメジャーでした。
CompuServeは、1993年頃においてアメリカ最大のパソコン通信会社でした。
日本のNIFTY-Serveはその代理店でもあり、日本最大のパソコン通信サービスNIFTY-Serveを展開していました。
楮部長は、よく海外のCompuServeを使っていたようでした。海外のネットに繋ぐ? 電話代とかどうなっているのかよくわかりません。
あるとき楮部長が言いました。
「CompuServeやNiftyのアカウントはあるのか?会社からアクセスできるのか?」
すみません、何を言ってるのかわかりません。
仕事中、パソコン通信をするなんて、想像もしていませんでした。そういう使い方がまったくイメージできていませんでした。そもそも、なにが便利なのか知りません。未知の世界です。
当然アカウントなんて契約しているはずもありません。専有していい外線電話の回線もありません。
楮部長は通信サービスの活用ができていないことに絶句していました。すぐに総務部に工事を手配し、外線電話回線を引き、NIFTY-Serveと契約し、モデムを用意しました。
NIFTY-Serveを覗いてみた
まずはどんなものなのか、NIFTY-Serveを巡ってみました。初めてのパソコン通信。そこにはフォーラムというかたちでジャンルが分類分けされ、フォーラムの中には細分化された会議室があり、掲示板形式でコミュニケーションが行われていました。
フォーラムの1つにゲームフォーラムがあり、セガゲームファンの会議室がありました。そこでは濃ゆいセガファンが、様々な話題を語り合ってました。そのほとんどはゲームソフトの話ですが、たまにハードウェアに言及した話題も上がることがありました。
ユーザーの直接的な意見は生々しく、とても新鮮で刺激的に感じました。なにせユーザーの声をや意見を聞ける機会なんて、ほとんどありません。たまにお客様相談センターに届いた長文の手紙が、回覧されて来るぐらいでしたでしょう。恐らく回覧される手紙以上に、手紙は届いていたのだと思います。しかしそれは営業部門などで処理され、開発部門まで回ってくるのは、営業部門が「開発の連中にも見てもらおう」と判断したものだけだったろうと思います。
しかしNIFTY-Serveを覗けば、毎日のように意見が投稿されています。特に注目タイトルが発売されたりすると、投稿数が増えて、感想や辛辣な意見などもあがって会議室が活性化します。
ときに、とても建設的で説得力ある意見があがる一方で、誹謗中傷、暴論などもあり、炎上もありました。文字だけのコミュニケーションですが、人柄があらわれ、人物像も浮かび上がってきます。人気のある人もいれば、変な空気にする人もいます。そのようなネットでのコミュニケーションやマナー、距離感などもとても面白いものであり、モニターの中で起こる毎日の文字のやりとりを、興味深くみていました。顔が見えない相手とのコミュニケーションについて、とても勉強になりました。
私は会議室のログを見て、目についたハードウェア関連の意見をコピーして印刷し、部内に回覧することにしました。
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NIFTY-Serveで発言してみた
しばらくはROM(リードオンリーメンバー)っていましたが、様子と雰囲気、パソコン通信のマナーが理解できたので、恐る恐るですが当たり障りのない話題を投稿するようになりました。
最初の投稿がたぶんこれです。会員IDがJDC*****、VTECと名乗ってました。ハンドルネームというものを設定しないといけなかったので、適当に思いつきで3秒で決めました。VTEC(ブイテック)とはホンダが誇る可変バルブタイミング・リフト機構のことです。Variable valve Timing and lift Electronic Control systemの略です。内燃機関の歴史上、重要な発明の一つであります。頭に思い浮かんだワードがそれだったので、本当に適当です。
しばらく様子見で静観していましたが、書き込みというのを体験してみたくなりました。思い切って、初めて投稿してみたのがこれです。
503/510 JDC***** VTEC はじめましてです。
( 9) 93/05/22 21:33
はじめまして、VTECと申します。
パソ通初心者なもんでしばらくROMらせていただきました。
いやー、V.Rがファミ通にでてましたねえ。
セガのレースゲームが好きで期待してしまいます。V.RはスーパーFXチップもどきを搭載してるのでしょうか?
FXチップは通称マリオチップと言うそうですから、セガならソニックチップかな?
「こっちのチップよりソニックチップは早いぞ!」
とかってCMしたりして・・・・。
くだらないこと書いてますね。
いちゲームファンの体で書いてますが、仕事で知り得た情報は切り離して、一般の人が知り得る公知の情報の範囲で書くようにしていました。
NIFTY-Serveの各フォーラムは、そのフォーラムに集う有志たちが運営を仕切っていました。Sys-op(システムオペレータのこと。通称シスオペ)と呼ばれる人が、その代表でした。フォーラムの運営ルールはシスオペが判断していました。原則はメーカーによる商業利用禁止。つまりメーカーの人が出てきて、宣伝したり、その場を経由して販売したり、キャンペーンを行うような行為を禁止していました。
実際、メーカーの人が立場を明かして、公的な立場で投稿しているのを見たことがありません。誰々さんはどこどこのメーカーの人らしい、という話はよく見聞きしましたが、仕事の話をするでも宣伝するでもなく、ただのいち個人として皆さん投稿していました。
なるほど。そうやって治安を維持し、公平さを保っているんですね。
私も会社が契約したアカウントを使って、ただのゲームファンのふりをして投稿していたわけです。
でも恐る恐るですが、ポロリも投稿してみたり...。
419/509 JDC***** VTEC RE:ベアナックル2
( 9) 93/06/30 02:54 412へのコメント
ここだけの話ですが・・・・・・。
「ベアナックル2」は日本版のROMのみ、戦闘中に「ブレイズ」のパンツが見れます。
海外版「ベアナックル2」こと「ストリート オブ レイジ 2」
」では、「ブレイズ」のパンツは拝めません。
日本に生まれたことに感謝、かんしゃ、カンシャ・・・・・。
泊まりで仕事中にちょっと休憩の「VTEC」でした。
たまには他の人の投稿に対して、コメントを返してみたり...。
288/510 JDC***** VTEC RE:改めて問う!ランストは失敗作か!?
( 9) 93/08/31 09:31 274へのコメント
むむむっ!聞き捨てなりませんな。「ランドストーカー」って世間では失敗作と認知されているの?
ここ5年間で遊んだTVゲームでは、もっとも楽しめたのに・・・。
社会人になってから初めてですよ、寝るのも惜しんでゲームしたのは。私にとってはDQ、FFより100万倍も楽しめました。失敗作なのかなあ。これって。
人それぞれ価値観が違うから何とも言えませんが、私好みのゲームであります。思えばRPGらしくないとこが、私にはぴったりだったかもしれません。他に面白いと思ったRPGは「イース2」ぐらいだからなあ。
キャラの経験値よりも、プレイヤーの経験を問うRPGって私は好きです。
「ランドストーカー」、面白かった派に1票!
PS:私、コマンド選択RPGって大嫌いです。どーせなら、最初のコマンド選択肢に「AIゲームクリアする」とでも出して、勝手にエンディグまでAIで操作しなくて進行してくれたらいいといつも思います。>単なるものぐさ
PS2:「ランスト」はアクションRPGではなく、RPG型アクションゲームと思います。今考えるとアクションあってのストーリーであり、ストーリーあってのRPG(うまく言えん!)ではなかったような・・・。
このように、パソ通ライフを楽しんでいました。いや、違いました。よりよい商品を企画するために、お客様の生の声を聞き、部署のみんなにログを回覧していました。
全然脱線しますが、このころからゲームを自動進行でクリアするとか、操作しないで眺めるだけのゲームを望んでました。多分ゲーム実況動画を見る、あの感覚はそれなりにウケるだろうと思ってました。
セガマウスというトラックボールの開発へ
1992年7月14日、任天堂がスーパーファミコン用のマウスソフト「マリオペイント」を発売しました。
当時、PCはWindows3.0の時代です。やっと職場のPCで、マウスで操作をするのが普及してきたころです。それまではマウスはMacの文化でしたが、Windowsの登場でマウスが世の中に認知されていきました。そのマウスを、任天堂がゲーム機に持ち込んだのです。
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