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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう!─Chapter1-2


鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、いよいよ2話に突入!

魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いを刻ざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。

【遠藤正二朗 (えんどう しょうじろう) 】1970年3月3日生。父親は安部譲二氏。学生時代からその才能を発揮し、中学生にしてコミケデビュー。金子一馬氏と同じアニメ制作会社に在籍し、人気アニメの原画マンも担当。その後、出版社を経て、日本テレネットに入社。「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」などをメガCDで出し、セガサターンで「メタルファイターMIKU」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」などを手がけ、現在も現役として活躍中。今回『Beep21』に完全新作小説を執筆。

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主人公の山田正一やまだ まさかず
は、ある時『鍵』という具現化された大きな力を手に入れる。その力を有効活用するために、主人公と弁護士(伊達隼斗)が取る行動とは? 底辺にいる2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!

前回までの「ひみつく」は

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イラスト:RARE ENGINE

ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその力の使い方に戸惑いながらも、同じ現場で危機を乗り越えた若き弁護士の伊達隼斗(だてはやと)の助言を得て、つけ込まれていた半グレ集団との縁を断つことに成功する。敵との死闘の中、鍵は一部が壊れてしまったが、その使い道について2人は本格的に考えることにした。

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第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter1

 扉を開け、アパートの外廊下に出たマサカズは、外気の様子をうかがうと部屋に戻った。
 六月も後半に入ろうとしているのに、今日は妙に寒い。おかげで昨晩は扇風機をつけることもなく快適に過ごせたのだが、外出となると話は別だ。スマートフォンで天気を確かめてみたところ、夜になるともっと冷え込むらしく、この異常なまでの涼しさ、というか寒さは明日いっぱいまで続くらしい。ここ最近はずっとTシャツ一枚で外出していたのだが、今日、明日はなにか上着が必要だ。マサカズは四月以来となるこんのテイラードジャケットを羽織はおることにした。

 去って行くオートバイを見送ってから二日がっていたが、伊達からの連絡はなかった。「俺に時間をくれ。鍵の使い道について、最適な絵図を描く」そう言っていたから、次に連絡があるとしたら何らかの計画を持ちかけてくるタイミングのはずだ。マサカズは仕事中でも常にスマートフォンを気をかけ、いつ伊達から知らせがあっても即座に対応できるように心がけていた。

 その日のアルバイトを終えたマサカズは、駅のショッピングセンターにある合鍵作製の専門店までやってきた。店主である中年の男とカウンター越しに向き合ったマサカズは、持ち手の部分が折れた鍵を見せ、「これ、直してくれます?」と尋ねた。スーパー銭湯の着替え場で 瓜原うりはらの右ストレートを咄嗟とっさに防ごうとした際、このロッカーキーは折れてしまった。今では抜き差しするのにラジオペンチが必要であり、緊急事態に対応するためにも不便は解消しなければならなかった。店主は鍵を観察し、「それなら、合鍵作った方が早くて安くつきますよ」と言ってきた。
「そうなんですか?」
「ウチの店だと修理の場合、機材の関係で本社に送る必要があるんですよ。だいたい一週間ぐらいはかかりますね。合鍵でしたら今の時間なら十分ぐらいいただけましたら」
「じゃあ、一応お願いします」
 この鍵がどういった理屈で現象を生じさせるのか、マサカズは全くのところわかっていなかった。しかしいくらなんでもコピーでは力はふるえないだろう。あきらめながらそれでもマサカズは鍵を店主に渡し、喫茶店きっさてんで十五分ほど時間をつぶし、再び専門店まで戻り、合鍵と折れた鍵を受け取った。いずれは修理を頼むべきだが、ひとまずこの合鍵を試してみよう。そう考えたマサカズは、ショッピングセンターの公衆トイレの個室に入り、便器に腰を下ろした。
 かばんから南京錠なんきんじょうを取り出したマサカズは、合鍵を差し込み、それをひねった。全身がしびれが入り、力のみなぎりを確かに感じる。「なんなんだよ。これ。デタラメ過ぎるだろ」マサカズは小さくそうつぶやいた。
 合鍵でもあの力は使えてしまう。その事実にマサカズは困惑してしまったが、やるべきことを決め、合鍵の専門店をみたび訪れた。
「すみません、さっきのコレ、もう九本ほどコピーしてもらえませんか?」
「九本? でしたら申込書に記載をお願いします。ウチだと三本以上は必要なんですよ。あと、受け渡しは明日になります」
「わかりました。それでいいです」
 マサカズが答えると、店主はA4大の申込用紙とボールペンを持ってきた。申込用紙の必須項目に『合鍵作製の用途と理由』という項目があったため、マサカズは少しばかり考え、『会社のマスターキーのコピー。従業員に配布するため』と書き込んだ。
 
 翌朝、マサカズは九本の合鍵と折れたオリジナルの鍵を専門店で受け取り、料金を支払った。これで折れたマスターキーが一本、スペアキーが十本となった。力が使えるのなら、鍵の修理は必要ない。一週間もマスターキーをあずけるのはそもそも不安がある。今後はこのスペアの方を使っていこう。そう決めたマサカズは折れた鍵をジャケットのポケットに入れ、十本のスペアキーを腰にげていたポーチにおさめた。

 鍵を受領じゅりょうしたあと仕事にき、書店のレジに立つマサカズはレシートと釣り銭を客に手渡した。すると突然、瓜原の入れ墨だらけの強面こわもてが頭の中をよぎった。

 しばらくして休憩きゅうけい室のソファで休んでいたところ、吐血とけつした登別のぼりべつ断末魔だんまつまが浮かんだ。ここ数日、フラッシュバックとでも言うのだろうか、凄惨せいさんな記憶が何度もよみがえる。自分は人殺しだ。伊達は当局の目が自分たちに向くことはまずない、と断言していたが、今でも交番の前はけるようにしているし、スマートフォンで“カルルス金融”というキーワードで検索をし、事件の捜査状況の進展を見守るようにしていた。だが、“歌舞伎町かぶきちょうヤミ金強殺事件”という名称が付けられていた事件についての報道は、三日ほどが経過してから全く取り扱われなくなり、今では風化してしまっているとも言ってよいほどだ。瓜原うりはらの件については報じられてすらいないが、伊達の話によると入院後スーパー銭湯への不法侵入で逮捕されたらしく、余罪よざいについても事情聴取を受けているらしい。
 山田正一脅迫のため、不法侵入した。そんな真実を瓜原は語らない。依頼主いらいぬしの吉田を守り、今後も彼らから高い利益を享受きょうじゅするためには、不法侵入の理由など酒にったから、などとお茶をにごすのが連中のいつもの手段だ。アパートで伊達はそう言い切った。あれから何日かつが警察からの連絡もないので、彼の予想はおそらくはずれてはいないのだろう。マサカズはソファで背を丸め指を組み、両のかかとを小さく上げ下げした。
貧乏揺びんぼうゆすりは行儀が悪いですよ~」
 軽やかな口調でそう注意をし、目の前のソファに腰を下ろしたのは後輩の同僚、七浦葵ななうらあおいだった。マサカズはあわてて両ひざを押さえ、彼女に顔を上げた。
「最近、山田さんってなんか最近……うーん、なんだ? なんだろ?」
「ボーッとしてたり、考え事して反応がにぶかったり、とか?」
 マサカズがそう言うと、彼女は目を丸くし、人差し指でマサカズを指した。
「うーわー、それそれそれ、自己分析できてるんですね」
「まぁね」
「よければ原因や理由など」
「人、殺しちゃってさ」
 その即答に七浦葵は両手を膝に乗せ、表情を消し横を向いてうつむいた。機嫌をそこねてしまった。そう感じたマサカズは両手を広げて、「冗談、冗談、ちょっと体調悪いだけ」と早口で弁解した。七浦はゆっくりと顔を向けると笑顔になった。
「ですよねー」
「ですよ。ですよ、ですよ」
 冗談としてではあったが、秘密の告白で暗鬱あんうつとした気分が少しは晴れたようにも思えた。しかし、二度と使える手段ではない。マサカズは何度かうなずき、腰を上げ売り場へ戻っていった。

 仕事を終えたマサカズは、アパートの自室であぐらをかいてカップラーメンをすすっていた。腹を満たした彼はスマートフォンを手にし、動画閲覧アプリを立ち上げた。“格闘技入門”、そのようなキーワードで検索してみたところ、いくつもの動画のサムネイルが表示された。
 マサカズは立ち上がると、動画が表示されたスマートフォンをカラーボックスの上に置いた。そして身構みがまえ、横目で腰の高さほどの画面を見た。動画は『初心者にってもらった 熱血指導! これであなたもプロの入り口!!』というタイトルだった。現役のキックボクサーが初心者にキックを教える内容である。概要欄にはそう記されていた。フォームを確かめ、見よう見まねで右足を蹴り上げてみたが、バランスをくずして壁に倒れ込んでしまった。すると「うるせー!」という叫びと同時に、壁を強く叩く音が鳴り響いた。
 伊達からの連絡があるまで、鍵の力をもっと使いこなせるようになっておきたい。そんな思いつきからの格闘技の練習だったが、六畳ろくじょうしかないこのせまさではその環境をたしていない。マサカズは「ごめんなさい!」と叫び、ちりちり頭をかいた。

第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter2

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