遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう!─Chapter1-2
鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、いよいよ2話に突入!
「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いを刻ざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。
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主人公の山田正一は、ある時『鍵』という具現化された大きな力を手に入れる。その力を有効活用するために、主人公と弁護士(伊達隼斗)が取る行動とは? 底辺にいる2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!
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第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter1
扉を開け、アパートの外廊下に出たマサカズは、外気の様子を窺うと部屋に戻った。
六月も後半に入ろうとしているのに、今日は妙に寒い。おかげで昨晩は扇風機をつけることもなく快適に過ごせたのだが、外出となると話は別だ。スマートフォンで天気を確かめてみたところ、夜になるともっと冷え込むらしく、この異常なまでの涼しさ、というか寒さは明日いっぱいまで続くらしい。ここ最近はずっとTシャツ一枚で外出していたのだが、今日、明日はなにか上着が必要だ。マサカズは四月以来となる紺のテイラードジャケットを羽織ることにした。
去って行くオートバイを見送ってから二日が経っていたが、伊達からの連絡はなかった。「俺に時間をくれ。鍵の使い道について、最適な絵図を描く」そう言っていたから、次に連絡があるとしたら何らかの計画を持ちかけてくるタイミングのはずだ。マサカズは仕事中でも常にスマートフォンを気をかけ、いつ伊達から知らせがあっても即座に対応できるように心がけていた。
その日のアルバイトを終えたマサカズは、駅のショッピングセンターにある合鍵作製の専門店までやってきた。店主である中年の男とカウンター越しに向き合ったマサカズは、持ち手の部分が折れた鍵を見せ、「これ、直してくれます?」と尋ねた。スーパー銭湯の着替え場で 瓜原の右ストレートを咄嗟に防ごうとした際、このロッカーキーは折れてしまった。今では抜き差しするのにラジオペンチが必要であり、緊急事態に対応するためにも不便は解消しなければならなかった。店主は鍵を観察し、「それなら、合鍵作った方が早くて安くつきますよ」と言ってきた。
「そうなんですか?」
「ウチの店だと修理の場合、機材の関係で本社に送る必要があるんですよ。だいたい一週間ぐらいはかかりますね。合鍵でしたら今の時間なら十分ぐらいいただけましたら」
「じゃあ、一応お願いします」
この鍵がどういった理屈で現象を生じさせるのか、マサカズは全くのところわかっていなかった。しかしいくらなんでもコピーでは力は奮えないだろう。諦めながらそれでもマサカズは鍵を店主に渡し、喫茶店で十五分ほど時間を潰し、再び専門店まで戻り、合鍵と折れた鍵を受け取った。いずれは修理を頼むべきだが、ひとまずこの合鍵を試してみよう。そう考えたマサカズは、ショッピングセンターの公衆トイレの個室に入り、便器に腰を下ろした。
鞄から南京錠を取り出したマサカズは、合鍵を差し込み、それを捻った。全身が痺れが入り、力の漲りを確かに感じる。「なんなんだよ。これ。デタラメ過ぎるだろ」マサカズは小さくそう呟いた。
合鍵でもあの力は使えてしまう。その事実にマサカズは困惑してしまったが、やるべきことを決め、合鍵の専門店をみたび訪れた。
「すみません、さっきのコレ、もう九本ほどコピーしてもらえませんか?」
「九本? でしたら申込書に記載をお願いします。ウチだと三本以上は必要なんですよ。あと、受け渡しは明日になります」
「わかりました。それでいいです」
マサカズが答えると、店主はA4大の申込用紙とボールペンを持ってきた。申込用紙の必須項目に『合鍵作製の用途と理由』という項目があったため、マサカズは少しばかり考え、『会社のマスターキーのコピー。従業員に配布するため』と書き込んだ。
翌朝、マサカズは九本の合鍵と折れたオリジナルの鍵を専門店で受け取り、料金を支払った。これで折れたマスターキーが一本、スペアキーが十本となった。力が使えるのなら、鍵の修理は必要ない。一週間もマスターキーを預けるのはそもそも不安がある。今後はこのスペアの方を使っていこう。そう決めたマサカズは折れた鍵をジャケットのポケットに入れ、十本のスペアキーを腰に提げていたポーチに納めた。
鍵を受領したあと仕事に就き、書店のレジに立つマサカズはレシートと釣り銭を客に手渡した。すると突然、瓜原の入れ墨だらけの強面が頭の中をよぎった。
しばらくして休憩室のソファで休んでいたところ、吐血した登別の断末魔が浮かんだ。ここ数日、フラッシュバックとでも言うのだろうか、凄惨な記憶が何度も甦る。自分は人殺しだ。伊達は当局の目が自分たちに向くことはまずない、と断言していたが、今でも交番の前は避けるようにしているし、スマートフォンで“カルルス金融”というキーワードで検索をし、事件の捜査状況の進展を見守るようにしていた。だが、“歌舞伎町ヤミ金強殺事件”という名称が付けられていた事件についての報道は、三日ほどが経過してから全く取り扱われなくなり、今では風化してしまっているとも言ってよいほどだ。瓜原の件については報じられてすらいないが、伊達の話によると入院後スーパー銭湯への不法侵入で逮捕されたらしく、余罪についても事情聴取を受けているらしい。
山田正一脅迫のため、不法侵入した。そんな真実を瓜原は語らない。依頼主の吉田を守り、今後も彼らから高い利益を享受するためには、不法侵入の理由など酒に酔ったから、などとお茶を濁すのが連中のいつもの手段だ。アパートで伊達はそう言い切った。あれから何日か経つが警察からの連絡もないので、彼の予想はおそらく外れてはいないのだろう。マサカズはソファで背を丸め指を組み、両の踵を小さく上げ下げした。
「貧乏揺すりは行儀が悪いですよ~」
軽やかな口調でそう注意をし、目の前のソファに腰を下ろしたのは後輩の同僚、七浦葵だった。マサカズは慌てて両膝を押さえ、彼女に顔を上げた。
「最近、山田さんってなんか最近……うーん、なんだ? なんだろ?」
「ボーッとしてたり、考え事して反応が鈍かったり、とか?」
マサカズがそう言うと、彼女は目を丸くし、人差し指でマサカズを指した。
「うーわー、それそれそれ、自己分析できてるんですね」
「まぁね」
「よければ原因や理由など」
「人、殺しちゃってさ」
その即答に七浦葵は両手を膝に乗せ、表情を消し横を向いて俯いた。機嫌を損ねてしまった。そう感じたマサカズは両手を広げて、「冗談、冗談、ちょっと体調悪いだけ」と早口で弁解した。七浦はゆっくりと顔を向けると笑顔になった。
「ですよねー」
「ですよ。ですよ、ですよ」
冗談としてではあったが、秘密の告白で暗鬱とした気分が少しは晴れたようにも思えた。しかし、二度と使える手段ではない。マサカズは何度かうなずき、腰を上げ売り場へ戻っていった。
仕事を終えたマサカズは、アパートの自室であぐらをかいてカップラーメンを啜っていた。腹を満たした彼はスマートフォンを手にし、動画閲覧アプリを立ち上げた。“格闘技入門”、そのようなキーワードで検索してみたところ、いくつもの動画のサムネイルが表示された。
マサカズは立ち上がると、動画が表示されたスマートフォンをカラーボックスの上に置いた。そして身構え、横目で腰の高さほどの画面を見た。動画は『初心者に蹴ってもらった 熱血指導! これであなたもプロの入り口!!』というタイトルだった。現役のキックボクサーが初心者にキックを教える内容である。概要欄にはそう記されていた。フォームを確かめ、見よう見まねで右足を蹴り上げてみたが、バランスを崩して壁に倒れ込んでしまった。すると「うるせー!」という叫びと同時に、壁を強く叩く音が鳴り響いた。
伊達からの連絡があるまで、鍵の力をもっと使いこなせるようになっておきたい。そんな思いつきからの格闘技の練習だったが、六畳しかないこの狭さではその環境を充たしていない。マサカズは「ごめんなさい!」と叫び、ちりちり頭をかいた。
第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter2
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