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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第13話 ─踏み外した道を歩み直そう!─Chapter3-4
遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第13話 ─踏み外した道を歩み直そう!─Chapter3-4
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【前回までのあらすじ】
ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・30歳)。彼はその大きな力に翻弄される中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露しようとし、最悪の結果を迎えることに。これからは真っ当な道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力を託してしまい、歪んだ暴走の矛先は伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑むが惨敗。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは雷轟流道場で短期間の修行をし、ある秘策をもってホッパーを撃退する。逃避行の旅に出た先でマサカズは北見という男に出会った後、自らの地元に降り立ち、いまだ自首をしない幼なじみの葉月にあるものを託す。その先にたどり着いた北海道の地でマサカズは異常事態に巻き込まれるが、マスクマンの格好で救出劇を遂げ、今度は南の地、那覇へと降り立ち、そこでマサカズは新たな決意を固める。新たに立ち上げた秘密結社は次々と問題が噴出。無人島から半ば強制送還的に戻ってきたマサカズは自分の部屋の前に倒れているホッパー剛を匿い、北見とキーレンジャーたちとの戦いを見届ける中、ある秘策をホッパーに授けるが、ホッパーは致命傷を負い、絶命する。実家に戻ってきたマサカズの元を北見の前で、マサカズはマスターキーを破壊し、日常が戻ったように思えたが、「Y案件」なる事件の裏側で、ある男の影が見え隠れしていた…。
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第13話 ─踏み外した道を歩み直そう!─Chapter3
よくよく考えてみたところ、自分には友達と呼べる存在が、これまでの人生でたったのひとりしかいない。彼とは司法修習生時代から共に検察官を目指し、学び、東京地検に同期で入庁してからも親しい間柄で、プライベートでもビリヤードやダーツなどの遊戯を楽しむ仲だった。佐藤宏和が東京地検を辞め、弁護士になると言い出したのは今から五年前、東京駅近くの居酒屋だった。自分は酒が呑めないのでウーロン茶で喉を潤していたが、佐藤はいつもより速いペースで生ビールを次々と呷り、検察官といった仕事がいかに社会正義に貢献していないかを訴え、今後は弁護士に転向し、人々の幸せを手助けすると宣言した。佐藤と交わした当時のやりとりを、北見史郎は五年経った今でもよく覚えていた。
「僕はさ、北見のことすっげぇ評価してんだよ」
確かこれは、佐藤が三杯目の中ジョッキを注文してからのやりとりだった。佐藤は自分よりずっと背が低く、少々腹の出た肥満体型で丸いフレームの眼鏡をかけ、さして美男という訳でもないが、明朗快活な性格で会話を弾ませる技術に長け、異性から人気のある男だった。
「やめてくれ。お前にくらべたら、僕なんて二流もいいところだよ。こないだだって担当変えられちゃったし」
「起訴できないって判断したからだろ? 容疑不十分で。まぁ、僕だったらそこは不器用なりに勢いとかでなんとかしちまうけど、北見はこの“なんとかしちまう”をやらない点が凄い」
「面倒くさがりなだけだって。検察官としちゃ、向いてないってことだ」
「違うね、北見は司法に対して誠実なんだよ。推定無罪の原則をこれでもかってぐらい守っている。長い付き合いだ、僕にはよ~くわかる」
そうだ。あの案件は起訴できるだけの証拠が足りなかった。捜査官による思い込みと偏見に満ちた送致内容で、差し戻すのが極めて誠実な仕事だ。それにも関わらず、上司は取り調べのやり方でいくらでも証拠固めはできる、との見解から差し戻しを止め、担当検察官を別の同僚に変更した。そして、新たにアサインされた担当は容疑者に対して苛烈な取り調べを行い、それによって証拠を裏付ける証言が次々と出てきたらしい。結局その事件は法廷まで持ち込まれ、被告人には実刑判決が下された。自分から担当を切り替えられた同僚は、組織の中でも高く評価され、今では特捜入りをして社会正義の実現に取り組んでいる。そう、自分は面倒くさがりなだけではなく、融通が利かない朴念仁だということだ。北見はその点をよく自覚していた。しかし、佐藤に対して見抜かれていた自分の本質を肯定してしまうのは、それこそ面倒くさかった。
佐藤は検察官を辞め、ほどなくとある法律事務所に所属した。主に民事面での仕事が多いとのことで、退官後もプライベートで食事をする機会があり、彼はその席で弁護士という仕事に対して不満を漏らすことがしばしばだった。北見はそれを苦笑いで聞き流し、ただ無言のままウーロン茶を飲むのを自分の役割としていた。
そのような佐藤は昨年の九月、担当した案件の会社で受け付けをしていた女性と結婚した。結婚式には参加する予定で友人代表としてスピーチをするはずだったのだが、その日は千葉の式場ではなく、都内にある製薬会社の研究室にいた。予定していなかったそこにいたのは、前の日、栃木県芳賀郡芳賀町で起きてしまったトラブル対応のためだった。唯一無二の友人を祝福することも叶わず、北見は手術台に載せられた、ブルービクトリーなるコードネームをつけたロシア人の男が回復していく経緯を、ガラス越しにずっと見守っていた。研究部の忌むべき狂気によって人間とは形容しがたい化け物にされた彼は、あの“ちりちり頭”のおかげで本来の姿に戻れた。その点については感謝もしたいところだったが、晴れの場で友人代表としてスピーチできなかった悔しさの方が勝ってしまっていた。
佐藤はこの不義理に憤っていることだろう。電話にも出ず、詫びのメールにも返事がなかったから、その推察は裏付けられていると言っていい。ところがつい先月、佐藤から半年ぶりに連絡があった。なんでもいわゆる“できちゃった結婚”とのことだったらしく、式のあとしばらくは新居への引っ越しや出産で忙しく、連絡する余裕がなかったとのことだった。だけどもそうであったところで電話ぐらいは、北見がそう食い下がったところ、佐藤は北見が大切な友人だからこそ、適当な対応はしたくない、と弁明してきた。なるほど、不器用を自称するあいつらしい、迷った末でのスマートではない対応だ。北見がそう強く納得していたところ、佐藤は自宅に食事にでもこないかと誘ってきた。なんでも高級なウーロン茶を既に用意しているらしい。特にウーロン茶好きなわけでもなかったが、佐藤は家族を是非とも紹介したいと言っていたので、北見は二つ返事で招待を快諾した。もしも彼とある程度仕事の付き合いがある者が、「行く行く! 赤ちゃんって男の子だよな。楽しみぃ!」などと、スマートフォンを耳に当て腰を曲げて拳を作り、嬉々とした返答をする北見を見れば、なにかの間違いだと耳目を疑うことだろう。北見にとって佐藤は、親族にしか見せない素の一面をさらけ出せるたったひとりの存在だった。
そして今日、四月二十五日。招待の当日、北見は千駄木の輸入雑貨店で購入した、二万円もする積み木の玩具を持参して、千葉県松戸市の佐藤宅を夕方から訪れる段取りとなっていた。奥さんの“連れ子”となる猫もいるらしい。猫アレルギーの北見はマスクも何枚か用意していた。久しぶりに、家族の団欒に参加できるのは面白くもあり、あるいは自分にも結婚願望がわき上がってくる可能性も大いにありうる。そうなってしまった場合、自分ができる選択肢はなにが残されているのだろうか。この日の朝、文京区湯島の自宅マンションで出かける支度をしながら、北見はいつになく上機嫌だった。
午後三時となった。本来であれば今頃は佐藤宅の最寄り駅となる松戸駅に向かうため、常磐線の車内に揺られているはずだった。だが彼はいま、埼玉県警の用意したパトカーの助手席で、膝の上に置いたノートパソコン向かっていた。
パトカーは秩父山中を目的地として、国道一四〇号線をパトランプも点灯させず、法定速度を保っていた。北見は“シナリオ”のファイルを文章作成アプリケーションで読み込ませると、本文記載スペースに二つの文章を打ち込んだ。二つのうちひとつは『シナリオ』もうひとつには『事実』と表題が付けられていた。
『シナリオ』
・四月二十五日 茨城県竜ヶ崎飛行場を発進した五人乗りのセスナ機が行方不明。
・連絡が取れなくなってから二時間が経過。ニュースでは飛行コースも報じ、おそらくは埼玉県秩父山中に墜落したものと見られる。
・捜索したところ、奇跡的にX名の乗客が救助隊によって救助された。
『事実』
・四月二十五日 茨城県竜ヶ崎飛行場を発進した五人乗りのセスナ機が行方不明。
・連絡が取れなくなってから二時間が経過。ニュースでは飛行コースも報じられ、おそらくは埼玉県秩父山中に墜落したものと見られる。
・佐藤の家に行こうと楽しく支度をしていたところ、クソ野郎、山田正一からメッセージだ。
・「秩父山中までこれから救助に向かいます。ちょうどバイトのシフトが入ってなかったので」とのこと。ふざけんな。もういい加減テレビは事件、事故報道をやめろ。
・いやいやだけど報告したよ、仕事だし。国家公安委員会は、即座にこの件を六度目のY案件と認定しやがった。
・ファッキン山田正一による救助活動によって、X名の乗客が救助され、救急へと引き渡された。そしてアマチュア山田はいつもの様にいくつかの目撃証拠を残しちまってるのでボクはまたまた休日返上で裏工作。
・あーあ、赤ちゃんに癒やされたかった。美人と噂の奥さんから眼福をあやかりたかった。そしてすまん、佐藤。この埋め合わせはいずれ。
“シナリオ”について、今回は無理が少ない内容にまとめられたと思う。これなら、現場で工作まがいの立ち回りを強要される者たちの負担も今までのY案件より軽いだろう。北見はそう満足すると、鼻歌交じりに『事実』の文章をすべて削除した。
「北見さん、墜落現場が特定されたので、そちらに向かいます」
運転席の若い捜査官にそう報告された北見は、ノートパソコンを畳み「あっそ」と素っ気なく返事をした。すると、彼のスマートフォンにメッセージが入った。内容に目を通した北見は、ひとつ大欠伸をした。
「あのさぁ、捜索隊って現地入りしてんだよね」
「はい。現在、墜落現場に急行しているはずです」
「なら、伝言しといて」
「はい」
「本件が絶望的だと思われたとしても生存者の可能性がある。捜索においては、念には念を入れて欲しい。以上」
北見の言葉に、捜査官は何度も瞬きし、言葉にならない声を漏らした。戸惑うのも当然のことだ。なぜ東京の検察官が、埼玉の事故に対して救助についての具体的な指示を出せるのか、命令系統を無視した発言をするしかなかった北見は、顔をくしゃくしゃに顰め、鼻を鳴らした。
「これね、ボクからのお達しじゃなくって、公安のボスからだから」
口を尖らせてそう言うと、北見は白紙の『捜査方針要望書』を運転席に向け、署名捺印部分を何度も指さした。
林の中では大量の煙が立ち上り、ガソリンによく似た匂いと焦げ臭さが混ざり合い強烈な異臭が漂い、到着した北見はたまらずハンカチにコロンを噴き付けると、それで口と鼻を覆った。目の前で横たわる金属の残骸は、数時間前までこの上空を軽やかに飛行していたであろう、セスナ機のなれの果てだった。翼は折れ、胴体は拉げ、ハッチからは赤い体液がしたたり落ち、コクピットの正面窓には大木が突き刺さっている。林は一方方向に木がなぎ倒され、セスナ機がどういったルートでここまで墜落してきたのか航空事故については門外漢である北見にもよくわかった。北見は周囲で消火作業をしている消防隊員や、現場検証を始めている警察官たちに向け、胸を張って左手を挙げた。
「あのさ! 生存者ってどうなの?」
北見が叫ぶと、車の運転を担当してくれた埼玉県警の捜査官が走ってきた。
「五人全員の遺体が発見されたとのことです」
絶望的な報告に北見は視線を落とし、大きく咳き込んでしまった。こうなってしまうと作ったシナリオは必要なくなる。佐藤との予定をドタキャンし、お詫びの電話をしたこともただの無駄だった。陽が落ちようとしている林の中にあって北見は、性質こそ異なるが、あのちりちり頭もいま、悔しさを覚えているのだろうと思った。
墜落現場からパトカーが停められた県道までやってきた北見は、ペットボトルのお茶をごくごくと喉を大きく鳴らせて飲んだ。県道にはテレビ局などマスコミの車が何台も停まっていて、交通規制もかけられているとの話だ。喉を潤した北見は空いたペットボトルをポイっと林に捨てると、パトカーへ向かった。すると、再びスマートフォンにメッセージが着信した。それには「ごめんなさい。誰も助けられませんでした。これから帰ります」と記されていた。北見は目を細めると、返信を打ち込んだ。
「がっかり落ち込んでるのか?」
そのような内容だったが、返答はなかった。
捜査官の運転で秩父駅までやってきた北見は、東京まで送迎するとの捜査官からの申し出を断り、電車で帰宅することにした。秩父鉄道の列車に乗り込んだ彼はノートパソコンを開くと、先ほど作成したファイルを削除した。まだ、返答はない。北見は後頭部をひと掻きし「ぼちぼち、話をするか。山田正一クンと。現場で、直接」と、呟いた。
第13話 ─踏み外した道を歩み直そう!─Chapter4
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二〇二五年のゴールデンウイークは、土曜日と日曜日が祝日で、火曜日こそ振替休日だったが、連続した休みはたったの四日しかなく例年と比べて短いものだった。
穏やかな陽光と爽やかな薫風の中、葉月はひとり、土産物の紙袋を手に公園通りを歩いていた。路面電車が隣を通り過ぎ、見慣れぬそれを葉月は振り返った。あれは確か、おととしの九月に開業した新しい路線だ。地元のことなので、報道にもある程度注目して存在自体は知っていて、たまに宇都宮駅に出かけた際、停留所に止まっているところを目にしたことはあったが、運行しているのを見るのは初めてだった。
ニットの黄色いサマーセーターにコットンのパンツは、よく晴れた五月三日の陽気に対してちょうどいい装いだと思う。量販店のセール品だが、葉月にとって、この春の外出着として頻度の高いセットだった。
葉月は市民プールの前で足を止めた。五月なので現在では休業中のそれを、子供の頃は夏になる度によく利用していた覚えがある。
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