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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第12話 ─そろそろ決着をつけてしまおう!─Chapter5-6
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【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄される中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露しようとし、最悪の結果を迎えることに。これからは真っ当な道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力を託してしまい、歪んだ暴走の矛先は伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑むが惨敗。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは雷轟流道場で短期間の修行をし、ある秘策をもってホッパーを撃退する。逃避行の旅に出た先でマサカズはある男と出会った後、自らの地元に降り立ち、いまだ自首をしない幼なじみの葉月にあるものを託す。その先にたどり着いた北海道の地でマサカズは異常事態に巻き込まれるが、マスクマンの格好で救出劇を遂げ、今度は南の地、那覇へと降り立ち、そこでマサカズは新たな決意を固める。新たに立ち上げた秘密結社は次々と問題が噴出。無人島から半ば強制送還的に戻ってきたマサカズは自分の部屋の前に倒れているホッパー剛を匿い、北見とキーレンジャーたちとの戦いを見届ける中、ある秘策をホッパーに授けてしまう。そして北見が再構成した自衛隊の精鋭によるキーレンジャー・ネクストとホッパーの戦いが始まろうとしていた…。
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第12話 ─そろそろ決着をつけてしまおう!─Chapter5
「キーレッド、突入しろ」
北見に命じられた一人がドアノブに手をかけた。施錠はされておらず呆気なく扉は開かれ、五人は次々と素早く機敏な挙動で室内に突入していった。外廊下に残っていたマサカズがあらためてスマートフォンで確認してみたところ、発信器の信号は相変わらずこの周辺を示していた。
「鍵が超能力発動のきっかけってさ、お前さんのおかげで知ったんだよ」
外廊下の壁に背中をつけた北見は、マサカズにそう言った。
「お前が宇都宮で鍵の修理をしただろ? その鍵がさ、以前ホッパーを回収したときに確認したヤツの所持品と種類が一致したんでさ、調べさせてもらった。そしたらビンゴってヤツでさ。ちょい古いか」
「僕はとんだ失敗をしてしまったんですね」
「おいおい、名アシストって言わせてくれよ」
「北見さんたちは、僕の持っている鍵をどうするつもりです?」
「どうもしねーよ。鍵ならこっちだって持ってるし。お前さんが敵にならない限り、なんもしねぇ」
北見がそう告げた次の瞬間、開け放されていた入り口から迷彩服の大柄な男が吹き飛ばされ、外廊下の壁に背中を強く打ちつけ、動力を持たぬ人形の様に崩れ落ちた。どうやら彼は意識を失っているようである。黒い布から赤い体液を垂れ流している男を見下ろしたマサカズは、想像通りに事が運んでいるのだと確信を強めた。二人目、そして三人目が同じように入り口から放り出され、三人は折り重なり、ある者は痙攣し、ある者は泡を吹き、いずれもが昏倒し意識も定かではない。北見はネクタイを握りしめ頭を細かく振り、焦燥を露わにした。すると入り口から、レザースーツ姿のホッパーが姿を現した。両手にはそれぞれ男がひとりずつ襟首から吊り上げられ、ホッパーはその二人を外廊下に放り投げた。突入開始から、時間にして五分とかからぬうちに、キーレンジャーの五人は戦闘能力をホッパーによって奪われ、粗大ゴミのように投棄されてしまった。腰を落とした北見はホッパーを怯えた目で見上げ、うめき声を上げながら階段に向かって駆け出していった。マサカズはホッパーに向かって首を傾げると、鼻を鳴らした。
「ありがとうございます。伊達さんの鍵は、まさしく最強です」
ホッパーはマサカズに向かって深々と頭を下げた。
キーレンジャーたち五人はホッパーによってマンションの外に捨てられ、彼は自室にマサカズを招き入れた。リビングのソファに腰掛けたマサカズは、ホッパーの持ってきた紅茶の入ったティーカップを手にした。ホッパーは椅子を持ってくると、テーブルを挟んでマサカズと対座した。
「山田さんがここを教えたのですか?」
「そうだ。僕はこの件についちゃ、どっちつかずの中立だからね」
「北見とは話をしたのですね?」
「ああ、これで三度目、電話も含めると四度目になるけどさ、なんなんだよ、アイツ」
「食えない人物です。検事と言っていましたが、自分にはコメディアンの様にも見えます」
「だとしたら三流のな」
マサカズがそう付け足すと、ホッパーは静かに微笑み頷き返した。
「お前さ、殺しすぎ」
「死んで当然の悪党です」
「そんなヤツはいない」
「いいえ、それは違います」
「なら、伊達さんもそうなのか?」
「それは……違います」
「けど、殺したときは、死んでもいい悪党だって思ったんだろ」
「それは……」
ティーカップを手にしたホッパーはうな垂れ、歯ぎしりをした。
「どうするんだよ、これから」
「取り返しがつかない以上、自分を貫き通すだけです」
「具体的には?」
「北見どもと戦い続けます。この鍵があれば、自分が負けることはありません」
「お前さ、敵に恵まれてるぞ」
「どういった意味です?」
「北見みたいな怠け者じゃなかったら、お前の両親や妹はとっくに人質にとられてるってことだ」
「なるほど……」
ホッパーはマサカズの目を見ると、紅茶を啜った。その目に意図を察したマサカズも紅茶を口にした。
「僕から提案できることなんて、これっぽっちもない。好き勝手にしろ」
「自分を許してくれるのですか?」
「まさか。誰が許すかよ。お前は伊達さんを殺したんだ」
「ですが、なぜあの山奥で自分を見逃したのです?」
「誤ってもう三人も殺してる。これ以上は嫌なだけだ」
「自分には、山田さんのことがわかりません」
「僕だって、自分ってのがどんななのか、もうよくわからないよ」
「それは、辛いですね」
「ただ普通に暮らしたいだけだ。そうすれば本来の自分に戻れると思っている」
「しかし鍵がある以上、それは叶いませんよ」
「ほとぼりが冷めたら鍵は捨てる」
その言葉に、ホッパーは腰を浮かせた。
「あ、あり得んことです。このような素晴らしい力を捨ててしまうなど。これは全人類にとって、とてつもなく大いなる力なのですよ。これがあれば人生を、いや、世の中を変えられる」
ホッパーの声は震え、眉間には皺が寄せられていた。マサカズは熱弁に感銘を受けることもなく静かに紅茶を飲むと、ティーカップを置いた。
「いい事はひとつもなかった。それは断言できる。持て余して、人に迷惑をかけて、大切な友人を失ってしまった。それに、お前と出会ってしまったこともね」
言い切ると、マサカズは胸の内になにやら清々しく気持ちが晴れるような快感を覚えた。彼は小さく笑い、紅茶を飲みきった。ホッパーは椅子から立ち上がると、大きく咳払いをした。
「それでは、自分はそろそろここを発ちます。鍵は開けっぱなしでいいので、山田さんはお好きにしてください」
「いればいいじゃん。最強なんだろ?」
「いえ、しばらくは身を潜めます。ここの住人に迷惑もかけてしまいますし」
「逃げるのか」
「ええ、しかしそれは反抗の準備のためです。決して永遠の逃避を意味することではありません。態勢を整え、山田さんの様に組織を作ることも視野に入れます」
「逃げるのは、キツいぞ」
「経験に乏しいので、予想もしていません」
「いやそうか、お前なら大丈夫かもな。僕とは違うし」
「自分は、ここに至って山田さんを尊敬さえしています」
「やめてくれ」
「超常に対しても平然とし、力の誘いにも心を動じさせない、立派です」
「いいや、僕にはなにもかもが、“勿体ない”んだよ」
マサカズの言葉にホッパーは返事をせず、彼はボストンバッグを肩に提げるとブーツを履き、ベランダから部屋を出て行った。マサカズはソファに背中を預けると、天井を見上げた。大きく欠伸をした彼は、ちりちり頭をひと掻きし、くしゃみをした。
それから十分ほどマンションで休憩をとったマサカズは、ロビーからエントランスに向かった。
「山田!」
怒りの形相を浮かべた北見が、マサカズを待ち構えていた。その背後には救急車が停まっていて、捨てられたキーレンジャーたちが救急隊員によって応急手当を受けていた。
「説明しろ山田! どうしてこうなる?」
そうまくし立ててきた北見に、マサカズはうんざりとして目を逸らした。
「僕にわかるわけないでしょ」
「陸自でもトップクラスの五人衆なんだぞ? 機動隊員の比じゃない。閉所での戦闘にも長けている。ナイフも通じねぇってあり得ねぇ! まさか三味線弾いてたのか? って、意味わかんねぇか」
「特訓でもしたんじゃないんですか?」
鍵の世代によるパワーダウンの秘密について、北見に伝える気は毛の先ほどもなかった。マサカズは眠そうに目をこすると空腹を覚えた。スマートフォンで確認してみたところ、時刻はそろそろ午後一時になろうとしていた。
「たったの一週間足らずで? んなバカな話があるかよ?」
「なんか、時間がゆっくり進む部屋とか見つけたとか。それじゃなければ……ドーピングしたとか? なんだろ、わかんないしどうでもいいや」
「山田!」
「すみませんけど、今日はまだ何も食べてないんです。本来だったら今頃、それこそ……春山グループのお嬢さんの手作り弁当にありついている頃合いだったんです。北見さんが邪魔するから、すっかり食べそびれた。今日のは特に自信作って言ってたんですよ。僕は腹減りで彼女は涙目で、みんな北見さんの犯行です」
そう告げると、マサカズは道路に出てタクシーを拾い、それに乗り込んだ。サイドミラーを確かめてみると、そこには小さくなっていく北見の姿が映っていた。「最寄りの総武線の駅まで」運転手にそう告げたマサカズはミラーから目を外し、スマートフォンで漫画を読むことにした。
地元の小岩駅近くのラーメン屋でワンタン麺を食べたのち、マサカズは昼過ぎに自宅アパートまで帰ってきた。彼はパソコンを起ち上げると、明日面接を受ける書店の本社Webサイトを閲覧した。面接でどのような質問がくるのかはわからないが、事前に情報を仕入れておいて損はないだろう、との考えからの行動だった。しかしサイトの情報量はそれほど多くもなく、ものの三十分で予習を終えてしまった。敷きっぱなしにしていた布団に倒れ込むと、マサカズは天井に取り付けられた電灯をじっと見つめた。
今日の自分は、これまでにないほどまで的確な判断で行動できたと思う。ホッパーにも北見にも味方をせず、さりとて敵対することもなく、曖昧な立ち位置を保てたはずだ。ホッパーにも言ったように、国家の代理人とも言うべき北見の、面倒を嫌う人間性が自分にとって都合良く作用したと思える。
今後のことは何も予想ができない。今日聞いておくべきだったのだが、ホッパーに勝利したことがある自分について、北見はどういった評価を下しているのだろうか。事と次第によっては今後、ホッパーの無力化を要請してくる可能性もある。無論、断るしかないが、ホッパーが正義の名の下に殺人を繰り返すのなら、永遠に中立を決め込むことは難しいのかもしれない。だが、二代目の鍵を手にしたホッパーに勝つことは難しい。半年ほど学んだ空手で対抗できるはずもなく、世代差はあるとは言え、陸自の精鋭部隊を瞬く間に倒すほどの怪物だ。そして心境に変化が生じたのか、現在のホッパーとは敵対関係も解消され、命を狙われる危険はなくなった。であれば、やはり自分は首を突っ込むことなく現状維持を心がけよう。マサカズは身体を起こすと、再びパソコンに向かった。
次にマサカズが調べたのは、中型二輪免許の取得方法だった。伊達の父親から譲り受けたオートバイは、小岩の駅近くの駐車場に停めているが、免許がないため宝の持ち腐れとなってしまっている。ホッパーとの対決のため長時間の無免許運転を経験していたので、実技面については自信がある。おそらくだがそれほど苦労することなく免許は取得できるだろう。マサカズはネットの記事やハウツー動画で知識を深めていき、気がつけば夕方になっていた。
明日の面接で合格をすれば、徒歩通勤のアルバイト生活だ。その生活においては中型二輪の免許は必要がない。そうではあるが、伊達が遺したあのオートバイを駐車場の肥やしにするのは忍びなく思え、それならばこれを期にツーリングやキャンプを趣味に加えるのも悪くはないような気もする。そのような軽い思いつきでしかなかったが、ホッパーや北見のことを考えるのと比べれば随分と気持ちが軽くなる。暇になればどうしても何かを考え、思ってしまうのは避けられない。それならばできるだけ殺伐とした諍いからは遠ざかり、一般市民としての振る舞いを取り戻し、他人に話しても差し支えないことだけを考えよう。心にそう決めたマサカズは、晩飯の用意をするため立ち上がると台所に向かった。
第12話 ─そろそろ決着をつけてしまおう!─Chapter6
駅のショッピングセンターの共用会議室で行われた面接では、『イマオカ書店』での勤務実績をアピールし、自分が書店員としていかに勤勉で、漫画の知識が豊富であるのかを主張した。小坂店長の事件を聞かれなかったのも幸いだった。面接の相手は穏やかな物腰の中年女性であり、淀みのないやりとりが交わされ、一週間後には合格の知らせが届いた。
夏を迎えた七月からオープニングスタッフの一員として『ブックス本郷』でアルバイトが始まった。三十歳を迎えつつある年齢面と、書店でのアルバイトが二度目ということもあり、マサカズは店長からアルバイトのリーダーとして勤怠管理や実務指導を任されることになった。仲間たちとはしだいに打ち解け、呑み会に誘われたり、花火大会に誘ったりと職場の外でも交流を重ねていった。
オートバイの中型免許は、教習所に通い八月のうちに取得した。ナンバーなどの手続きを終えた伊達のSRXを運転する機会はまだ少なかったが、秋になり涼しくなったらツーリングにでも行こうかと考えていた。
同僚のひとりに小山内美香という二十歳の女子大生がいた。彼女は気が強く物怖じしない性格で、マサカズに対してひっきりなしに業務への質問をしてくる、ショートカットで背が高く細身で、エプロンがよく似合うモデルのようなスタイルの整った女性だった。小山内もバイクを趣味にしているそうだが、話を進めていると彼氏がいることがわかったので、マサカズはツーリングに誘うのを早々に諦めた。
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