私たち、意外に棘もってます。
2022.8.20(土曜日) thorn
わっ、やられたと思う。
水色の涼しげなワンピースにきれいに揃えられたセミロングの髪。
隣には彼女より少し背の高い彼がいる。
夏の暑い道の上で、くっついた腕とその先にある恋人繋ぎの手。
風さえ通らぬくらい隙間なく密着して彼らは私たちの前を歩いていた。
「若いっていいわね」
「暑さなんて気にならないんだろうね」
「ベタベタするほどの汗も好きな人なら平気なんだろうね」
と、私と夫はこそこそと前を歩く二人の噂話をしながら歩いていた。
私たちくらいの年齢になると、何もしなくても見た目がかなり暑苦しいから、いくら仲良し夫婦だったとしても恋人繋ぎとか、ましてや腕組んで...なんて周りの方々に精神的なご迷惑になるんじゃないかとさえ思ってしまう。
爽やか若者カップルを微笑ましく見ながら交差点近くまでやってきた。
赤信号で立ち止まった前を行くカップルとの距離が近くなる。
その距離が近くなるにつれて、私はちょっとした不安が頭をよぎる。夫も同じ不安を持ったようで私の方に目配せする。
私も「だよね」と目で合図する。
私たちとそのカップルは赤信号で横並びになった。
「ねぇ、お昼なに食べる?」
「なんでもいいよ」
「私ピザが食べたいのぉ〜」
カップルは確かに糖度の高い声でそう話している。
信号が青に変わってまたそのカップルが私たちの前を歩き出した。
『水色の涼しげなワンピースにきれいに揃えられたセミロングの髪。
隣には彼女より少し背の高い彼がいる。
この夏の暑い道の上で、くっついた腕とその先にある恋人繋ぎの手。
風さえ通らぬくらい隙間なく密着して彼らは私の前を歩いていた。』
最初に書いたこの状況は先ほどと何も変わってはいない。
でも私たちは、もう「若いっていいわね」とは言わない。
距離が近づいてわかったことは、彼らは私たちと同年代かそれより少し年上の熟年カップルだった。
私たちは急に無口になる。
若作りのおばさんと、若作りのおじさんたちは恋人繋ぎで、時々腕を絡ませ唇が触れるくらい近寄ってお喋りしながら、密着度100%でピザを食べに行くのであろう。
『あぁ、見なきゃよかった』と、私は(たぶん夫も)思う。
他人の幸せをとやかく言うなんて、なんて下衆なことだろうということは重々承知の上で、あるいは誤解されるのを覚悟で言わせて頂く。
年配者カップルの密着度100%は見苦しいと思うのだよ。
「あのカップルはあの年齢になっても、まだ『男』と『女』なんだろうな」
と、夫が言った。
「そうだね、私たちはもう『人間』と『人間』として生きてるからね。ある意味ジェンダーフリーだよね、私たち」
と、私が言って、道を歩きながらふたりして大笑いした。
読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。