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褒めてから、一緒に考える

バークリー音楽院では授業で分からなかったとき、直接質問しにいくシステムがあった。多分いまもあると思う。
ジャズコンポジションの宿題はそれほど難しくなかったけど、西洋伝統作曲と現代作曲の宿題はよく分からなくなることがあり、ちょくちょく質問をしに行った。
現代作曲の先生であるRick Kress氏が、僕は大好きだった。
授業も面白いし、彼の作る曲も壮絶にカッコ良かった。そんな彼にイリーガルモード(メロディックマイナーやハーモニックマイナーの○番目から始まる音階)での作曲について、いくつか質問を用意して赴いたときのことを、よく覚えている。


僕が課題曲のドラフトを再生して聴かせると、彼は驚いたようなキラキラした目で「とてもいい、とてもいいよ・・・!」と褒めてくれた。
「まずリズムのアプローチがいい。ちゃんとモードの美味しいところをハーモナイズできているし、モチーフ展開も申し分ない」
「これで十分だよ、何が聞きたいんだい?」と問われたので、とても抽象的な質問を投げかけた。

「なんだか盛り上がり切らないというか、曲のピークが分からないような印象で」
「なるほど、もう一度聴いてみようか」

そうやって2回聴いたところで、Rickは「なるほど」とうなずいた。ちなみに楽譜を見ながらFinaleで再生していた。
「ここの駆け上がりフレーズのこの音、ここを次へのアプローチノートにしてみたらどうだろう」
そう提案されて、駆け上がりフレーズのその1音だけを修正して聞き返した。
驚くほど端正にまとまった曲になった。たった1音を変えただけなのに、前後のモチーフ展開を統合するような駆け上がりフレーズになったのだった。僕はとても驚いた。

「びっくりしました。自分の曲じゃないみたい」
「いや、君の曲だよ。素晴らしいよ」

とても良い思い出だった。そのクラスは最上級の成績で終了させていただいた。


まず褒める、そして共感する

Rick Kressのその指導は、後に僕がレッスンをやるようになったときの雛形となっていた。何かを作ってきてもらう課題を出した場合、まず褒める。嘘をつくのではなく、新鮮な気持ちで提出課題と接すると言えばいいだろうか。とにかく良いところを探して褒めるようにしている。

それから質問する。
「なにか自分で気になるところは?」
そう質問すると、具体的な課題を答える生徒さんが多い。ここを苦労したとか、ここがいまいち気に入らないだとか。質問がある場合は、それに真摯に一緒に考えて「これはどうだろう、それともこっちかな・・・」とディスカッションする。これが僕の作編曲(DTM)を教える基本的な流れになる。

自分で質問を見出せない生徒さんには、こちらから気になることを伝えてディスカッションする。否定することはない、その人なりに全力でやっていると信じているので、出来上がったものをまず肯定するのはとても大事なことだと思う。
それに自分だって未熟な頃があったし、いまでも未熟だと自覚しているし、生徒さんの作ったもののレベルは(だいたい)自分が通過してきているので心底共感することができる。


一緒に驚く、一緒に考える

このnoteがとてもよかった。

これは子ども教育についての記事だけど、大人になってからの教育でも共通していることが沢山あると思った。特に教える側は、与える側になるのではなく、横にいて一緒に考える役にならなきゃいけない。
それは自分で体験してみなければ分からなかったかもしれない。Rick Kressやバークリーの先生方は皆、一緒に驚いて、一緒に考えてくれた。
David Fiuczynskiにエレキギターのアームを使った三味線フレーズ奏法を披露したときも、「面白いじゃないか、日本の楽器はマイクロトーナルだから研究しがいがありそうだな」と驚きと共にアイデアを共有できた。他の先生にもみんな共通して「一緒に驚く」があったように記憶している。

まず褒める
一緒に驚く
一緒に考える

これらができるのは才能とかではなく、ロジックだ。やり方を守れば必ずできることです。騙されたと思ってやってみるといいですよ。
いきなり否定から入る人の話、聞きたくないですよね?
上から目線で教えてくる人、あんまり仲良くなりたくないですよね?
同じ感覚を共有できる人の方が、一緒にいて楽しいと思いませんか?


これ、教育に限らず、全般的にそうでしょ。

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牛心。
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