大舘実佐子 Misako Odate

演出家。劇団 東のボルゾイの主宰と演出。 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程在籍。 2022年の仕事『彼方が原』『風-the Wind-』『FUN NIGHT with BORZOIS』『バウワウ』『ユーリンタウン』

大舘実佐子 Misako Odate

演出家。劇団 東のボルゾイの主宰と演出。 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程在籍。 2022年の仕事『彼方が原』『風-the Wind-』『FUN NIGHT with BORZOIS』『バウワウ』『ユーリンタウン』

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特別なまなざし

 テネシー・ウィリアムズと彼の実姉ローズ・ウィリアムズ。  二人の関係に関心を持ったのは『ガラスの動物園』冒頭を読んだ時だった。  照明に関する注意書きの中で、主人公トムの姉ローラに対してのみ、名指しで指定がある。明確に“他の人物とは異なり”と書かれている。何より私が違和感を覚えたのは“聖女や聖母を描いた初期の宗教画に見られるような、独特な素朴な明るさ”という部分だった。  本戯曲では、登場人物の一人「トム」がストーリーテラーの役割を果たしており、ト書きにも彼の主観が強く表

    • うるさくて邪心のある人

       成田山で引いた御神籤が、二回連続で「第二十四番 凶」だった。  一度目は年始のお参りで。二度目はゴールデンウイークにリベンジを兼ねて引いた。御神籤は何度引いてもいいのだと言うから、流石に二度目はないだろうと思っていたら、まさか、まるっきり同じ番号を引き当ててしまった。しかも百番まである中の同じ番号である。  そういえば、凶を引いたのは人生で二回目だ。悶え苦しむ真夜中、ふと思い出す。  高校三年生の初詣、受験生だった私を不安のどん底に突き落とした「凶」。あの時の私は、どうや

      • 才能も華もあってこれから活躍していくのだろう、と思っていた年下の俳優がこの業界から退くらしい。数年前に、いつか大きな舞台で仕事しようと約束した同い年の舞台監督が職場で鬱になり、演劇界から去った時のことがフラッシュバックした。どうして有能な人ほど……やるせなさと悔しさで涙が零れる。

        • 「障害」は「個性」か?

           先月、池袋シネリーブルで上映された NTLの『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(原作:マーク・ハッドン、脚色:サイモン・ステファンズ、 演出:マリアンヌ・エリオット)を観た。  15歳の少年クリストファーは、母親を心臓発作で亡くし、父親と二人で暮らしている。  ある朝、隣人シアーズ夫人の飼い犬が園芸用のフォークで刺殺されているのを発見し、可哀想に思ったクリストファーは思わず犬を抱き抱える。だが、その様子をみたシアーズ夫人が警察に通報し、犬を殺した犯人ではないかと疑われ、彼は

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        • 稽古場
          1本
        • エッセイ
          5本
        • 批評
          1本

        記事

          2021年の稽古場から

           窓を開け放った稽古場で、完全防備の役者たちが縦横無尽に動き回る。 顔面はフェイスシールドとマスクで覆われ、ほとんど表情は読み取れない。けれど、表情が使えないのならば肉体で表現してやろうという気概が、透明なシートについた水滴から伺える。  年が開けると同時に、昨年3月に上演予定だったミュージカル『なんのこれしき』の稽古が始まった。2ヶ月後に迫る本番を無事に迎えられるかどうかは誰にもわからないが、何もしないで家にこもっているよりよほど生きている実感ができるこの稽古場は、今の私に

          2021年の稽古場から

          ケセランパサラン

           自粛を余儀なくされて数ヶ月、ついにやることがなくなった。  納戸の隅の埃をかぶったガラスケースに山ほど入っているのは知っていたけれど、他の棚や引き出しを開けてみると次々に出てくる出てくる。おもちゃのように透明で小さなものから四角くて分厚く大きなもの、素人目に見たらほとんど違いがわからないようなものも沢山あった。  私の祖父は発明家だった。  祖父は小さな町工場をやっていて、遊びに行くと必ず、自分の作業部屋に入れてくれた。図面を書くための大きな机の方へ近寄ると、きまってポケ

          ケセランパサラン

          宝島

          右太ももの内側に、手のひらの半分の火傷の跡がある。  世界地図のどこかにありそうな島みたく、いびつな縁取りで、肌色の真ん中にはっきりと浮かび上がって見える。  私の実家は下町にある機械屋だ。発明が得意だった祖父が作った自慢の工場は、壁も屋根も緑のトタンで覆われ、お世辞にも綺麗とは言えなかった。1階の作業場からは四六時中、鉄を切る音や溶接の音、機械が動いている音が聞こえてきた。外にまで鉄や油の匂いが漏れ出していた。  幼稚園生のとき、私の遊び場はこの作業場だった。2階に事

          ファインダー越しの握手

           初めて「写ルンです」を使って写真を撮った日が忘れられない。10年も前のことだ。  祖父にもらったフィルムカメラを持って、私は街に繰り出した。たった27枚で何ができるだろうか、私にしか撮れない風景は何か。考えた末に子供の頃から通い慣れた商店街へ行き、全く面識のない27人の店員たちと握手する様子をカメラに収めることにした。写真を撮るため、と言う理由で知らない人に話かけるのにはえも言われぬスリルがあった。そのとき、カメラは私の武器だった。断られるかもしれない、怪しまれるかもしれ

          ファインダー越しの握手

          九份の魔力

           台湾の首都、台北から、車で約一時間。観光客を乗せたバスと何度もすれ違いながら、ヘアピンの ようなカーブが続く山道をぐんぐんとのぼる。到着したと知らされ、車から窓の外眺める。ふと目に 入って来たのは、大勢の人でごった返す、小さな路地の入り口だった。 ここは、かつて金鉱の採掘場として栄華を極めた町、九份(きゅうふん)である。現在は採掘が行 われていた鉱山は封鎖されているが、様々な映像作品のロケ地として取り上げられたことから、また 再び観光地として栄えている。ジブリ作品『千と千尋