PMP試験に一度落ち地獄の苦しみと共に合格した物語
はじめに
まずはじめに、なぜこの記事を書いたのかについて簡単に触れておきましょう。私は2022年にPMPを取得しました。当時IT経験は14年、PM/PMO経験は約5年でした。
PMPの取得は前から目指していたものではなかったものの、とあるきっかけで取得を計画し、挫折し、合格しました。
昨今、PMP取得を目指す方がわりといらっしゃると思っています。一方で関連する情報や体験談はあまり目につかず、合格への修羅の道を一人で歩む人も多いのではないでしょうか。
「PMPは修羅の道、それを乗り越えてこそプロジェクトマネジメントのプロフェッショナルだ」などというのは簡単ですが、私のストーリーを共有することで、少しでも多くの方が効果的にPMPを取得し、成果を仕事に活かし、豊かな生活を送ってくれると嬉しいです。
なぜPMPを取得しようと思ったか
当時PM/PMO経験は5年程度でしたが、取得するモチベーションとして、一度プロジェクトマネジメントのプロとして正しくその価値観や手法を理解したいというものがありました。
よくある話で、プロジェクトマネジメントをやっているとはいえ、実際の案件で人の背中を見ながら覚えて練磨してきたので、いわゆるKKD(勘・経験・度胸)でやっていると言っても過言ではありませんでした。
多少プロジェクトマネジメントの本を読む、研修を受ける程度の活動は実施していましたが、場当たり的な感覚に疑問を抱いていました。
プログラマーに例えると、プログラミング言語の学習をせずに、すべてググってコーディングしているような状態です。
プロジェクトマネジメントの資格を取得すればプロジェクトマネジメントができるわけではありませんが、体系的なインプットは一定の基礎になると信じています。特に経験が薄く得意分野でもなかった私にとっては効果的ではと推察していました。そこで資格取得を志したわけです。
さて、そもそもPMPとは何なのでしょうか。
簡単にいうとプロジェクトマネジメントの国際資格です。日本国内には他にプロジェクトマネジメントの資格試験はいくつかあります。
情報処理技術者試験 プロジェクトマネージャ試験(IPA)
プロジェクトマネジメント・スペシャリスト(PMS)資格試験(日本プロジェクトマネジメント協会)
また、欧州ではイギリス政府が開発した Prince2 と呼ばれるITプロジェクト管理手法とその資格試験が有名です。
私がPMPを取得しようと考えたのは、グローバルの仕事をしていたため国際資格で名前が通りやすいものが良いという理由です。
資格取得キックオフ
それでは資格取得へ向かいます。
まず、PMPを受験するには以下の条件を満たす必要があります。
プロジェクトマネジメント経験
大学卒業またはそれに相当する資格保有者。直近8年間に3年以上かつ4,500時間以上のプロジェクトマネジメント経験があること。
高校卒業またはそれに相当する資格保有者。直近8年間に5年以上かつ7,500時間以上のプロジェクトマネジメント経験があること。
35時間以上の公式なプロジェクトマネジメントの研修の受講
1点目のプロジェクトマネジメント経験は業務で満たすしかありません。
2点目は、公式でPDUとカウントされるものを35時間分満たさなくてはなりません。
ネット上には無料で35時間取得する方法などがあります。
個人で受験するのであればこの方法が良さそうですが、私は会社の費用でトレーニングを受講しました。
利用したのはアイシンク社のPMP取得講座です。
35時間分のPDUだけでなく、英文での受験申請までサポートしてくれました。スパルタで厳しいという人もいましたが、私の際はそこまでではありませんでした。
講師の熱量があり、絶対に試験に合格させるという想い強いが心強いものでした。結局は自分次第なのですが、心が折れそうな時に熱量を感じると心に火がつけられ再始動できるのが良いところでした。
アフィリエイト記事ではないので紹介はここまでにしておきます。
会社の費用や経費にできる場合は、このようなコースを活用しても良いと思います。
教育訓練給付制度も利用できる場合は活用したいところです。
地道な自己学習
PMP取得講座には模擬試験もついており、テキストの確認と模擬試験をひたすら繰り返しました。
合格に必要な総学習時間は150時間程度と言われていました。35時間のトレーニングを差し引くと115時間。平日1日2時間、休日4時間とすると1週間に18時間使えます。バッファを少し引いて15時間。毎週フルで学習する前提で考えると、約8週間くらいの計算になります。
学習内容は、淡々とテキストのインプットと練習問題をやっていました。一方で試験は暗記ではなく「あなたはプロジェクトマネージャです。プロジェクトにはこんな複雑な問題が起きています。どれが一番良い選択肢ですか。」というものでした。
ひとまず練習問題はできるようになりましたが、より深い考え方をインプットすることには難儀しました。
学習のステップを分けて考えると良いかもしれません。
インプット:まずはテキストやコースの内容を自分の中にインプットする。知識だけでなく理由や背景を同時に確認しておくと、試験に役立ちます。
実践シーンを描く:実際の業務でのプロジェクトシーンを想像して考えます。リアルなシーンに当てはめて考えることで、表面的な知識が深みを増します。
試験シーンで考える:試験問題のクセにアジャストします。ここは完全に試験対策のみで、PMPの世界観を自分にインストールします。こういう問題はこれが答え、というような雰囲気をとらえます。
ステップ1は忍耐さえあれば繰り返し行うことでクリアできるかと思います。問題はステップ2と3です。いかに応用をきかせて考えられるか、練習問題などがあれば、ひたすら解くのが良いと思います。
さて、十分試験勉強を行いました。学習時間も練習問題の正答率も十分。
いよいよ準備を行います。
試験は休憩を含め5時間、飲み物や軽いお菓子を休憩時間に取ることができるので準備しておきます。私の場合は10時開始で15時頃までの時間でした。
受験・Failed・放心
1度目の試験は、不合格でした。
試験会場は有楽町、日比谷公園のやわらかい空気を共有する帝国ホテル、インペリアルタワーの上層階。
当日は雨模様の中クラシックな建物に入り、フロアに到着すると受付で試験の説明を受けます。
荷物は身分証だけ持ち込み可能で、他は入り口のロッカーに預けます。
5時間の格闘、長期戦に挑みました。
問題数は180問、試験時間自体は230分です。
60問ごとに10分の休憩を合計2回取得できます。休憩後はその前の問題に戻ることはできません。
わからない問題にチェックをつけつつ進め、肌感覚では微妙なところ。
240問完了し、時間は10分程度余っていました。
ボタンを押すとすぐに結果がでるのですが───、画面に無慈悲に現れるFailedの文字。真っ白になる頭。
試験結果の紙を受け取り帝国ホテルを出ると、雨はさらに強い様相に。帰宅中の記憶はあまりありません。
再戦・勝利・安堵
2週間時間をおいて再戦に挑みました。
正直なところ心が折れかけ受験を諦めそうになっていましたが、これまでの学習を結果にしたいと思い、数日後よりリベンジ計画を立てました。
2回目までに準備したことは以下の内容です。
1回目の試験で大きく弱点エリアが分かれば楽だったのですが、全体的にギリギリだったため、対策には苦心しました。
テキストを再度1周実施する。できるだけインプットを強固にするため、再度全体の知識を振り返りました。
時間配分の見直し。前回は少し時間が余ったものの、休憩を挟むとその前に戻ることはできません。そこで休憩前に振り返り時間を確保することにしました。具体的には1問1分、60問ごとに15分の見直し&バッファを設けました。
試験開始時にメモに書くことを明確化。試験開始直後から手元のホワイトボードにメモをすることができます。そこには時間配分、問題文の読み方、アジャイルの三角形(要求、リソース、納期)をメモすることにしました。試験中に目を落とし、判断軸にすることができます。
アジャイル問題への対応。アジャイル問題にプロジェクトマネージャーということばが出てきます。1回目はこの捉え方に迷っていました。ここでのプロジェクトマネージャはスクラムマスター(サーバントリーダー)と読み替えて判断することを意識しました。
1回目と同様、日比谷の帝国ホテルで朝から試験開始です。
6月の過ごしやすい気候、今回は晴れており荘厳な建物のまわりには青空が自由に広がっていました。
フロアを上がり、長い試験にリベンジを挑みます。
少しの時間を余しつつ、無事に合格できました。
今回は計画通りの時間配分で進めることができました。回答に不安のある問題がありつつも、ベースとなる考え方を復習したことで安心感はありました。
外に出ると夏至を少し過ぎた、小さな夏の心地よい空気に包まれます。
しばらく日比谷公園で噴水を眺め、平和な世界に包まれていました。
PMPのポイントとは何だったのか
ここまで長々とPMP資格ストーリーを語ってきました。
さて、PMP資格試験のポイントは何だったのでしょうか。
単なる知識を問う資格試験ではないことは明白です。それではPMBOKにあるような理想的なプロジェクトマネジメントを問われるものでしょうか、それも少し違っています。
2度の試験を経て理解したPMP、少し乱暴にまとめてしまうと、
「PMBOKを中心としたプロジェクトマネジメントの価値観をベースに、リアルなプロジェクトマネジメントの複雑な課題へどうアプローチするかを問われる資格試験」
と考えています。
テキストに出てくるような知識は最低限のベースとして知っておく必要があります。
また、大事なのは考え方です。PMBOKは第7版で大きくボリュームが少なくなり、より価値観のエッセンスに絞られました。
プロジェクトマネジメントはITに限らず、あらゆるものに適用されます。そのため、まとまったベストプラクティスがあるというよりは、共通的に大事な価値観があり、それを応用させていくことが注視されていると思われます。
例えばグローバルプロジェクトで時差があり、それぞれ文化や仕事の進め方も異なるシーンがあり、進捗遅延が出ているとします。
PMPの世界で提示されるのは、それを個別に考えましょうということでもなく、ひとつの明確な答えがあるわけでもなく、コミュニケーション計画やバーチャルチームのあるべき姿をもとに考えましょうということです。
対応としてはスケジュールを組み替えるのではなく、誰かの原因を追求するのではなく、日本の文化を押し付けることでもありません。まずは状況を正しく理解し、決めるべきことを忘れていないか確認する、そういったアプローチです。
ある見方をすれば理想的な世界観ではありつつも、提示されるシーンはとても泥臭く、リアリティに満ちています。
どこから拾ってきたのだろうかと思うほど、実際の仕事で嫌というほど目にした複雑な課題にあふれる世界が広がっています。
プロジェクトマネジメントの仕事に集中していると、現場最適な対応をすることもあります。それが正解の時もあれば、そうではない場合もあります。
そんな時の一助としてPMPで身につけた価値観は役に立つと思います。
プロジェクトマネジメントのセンスがとても素晴らしく、複雑な課題でもなんなく対応できる人には不要かもしれません。
一方で私のように、よりどころがないとやられてしまうようなタイプには必要な装備です。それは刀のように即効性のあるものではなく、筋肉のように自分自身に取り込まれるものです。
世界では140万人の人が取得しており(2023年時点)、グローバルでの価値証明にもなります。加えて自身のプロジェクトマネジメントをより強固にすることができるものだと理解しています。
お金も時間もかかる資格ですが、チャンスがあればトライする価値は大いにあるものです。
合格してからがはじまり
さて、PMPは合格して終わりではありません。PDUをいう学習などの活動で増加するカウントを稼ぎ、3年ごとに更新する必要があります。
これが結構大変なのですが、継続学習を余儀なくされるためサボりがちな人にはいいかもしれません。
PDU取得について書くと長くなるので、ここでは割愛します。
さいごに
さいごに、全体のまとめとメッセージ、それからおすすめ書籍をご紹介して終わりたいと思います。
PMPは良いということは何度も触れてきましたが、時間とお金がかかります。もちろんその価値はあるのですが、機会を見て取得するのが良いでしょう。
プロジェクトマネジメントは一般的にIT業界で多く使われますが、それ以外でも活用の幅は無限にあります。期間が決まっていて独自のなにかを作るものはすべてプロジェクトです。引越しも、転職も、旅行もプロジェクトです。
つまり、プロジェクトマネジメントを身につけるということは、仕事以外にも広く応用できるということです。さすがに旅行でステークホルダーマネジメントなどは行いませんが、スケジュールは作るものだと思います。
人生はプロジェクトだ、というと言い過ぎですが、それに近いほどに汎用的に活用できるのは、仕事を超えても大きなメリットだと思います。
関連書籍
PMPの学習には企業が提供しているコースがおすすめですが、それ以外に書籍で補完すると学習しやすいです。
また、プロジェクトマネジメント自体の経験が長くない場合や、改めて復習しておきたい場合にも有効です。
ここでは、導入におすすめな書籍から学習に使えるものまで、順にご紹介します。
PMBOK対応 童話でわかるプロジェクトマネジメント
プロジェクトマネジメントが童話風に紹介されています。気軽に読めるのでまずはここから入ると良いと思います。
PMBOK第6版の知識と手法がこれ1冊でしっかりわかる教科書
こちらは図解解説が入ったPMBOKベースの書籍です。PMBOKは読み応えがハードなので、まずはこちらの本を眺めてイメージを掴むのが良いと思います。私も何回か繰り返して読みました。
PM教科書 PMP完全攻略テキスト PMBOKガイド第7版
PMP対策本です。色々な種類がある中でもメジャーなものです。1冊手元に置いておくと良いですね。
PMBOKガイド第7版
そしてPMBOKガイドです。PMPの資格試験はPMBOKに沿っているわけではないですが、多くがPMBOKの考え方をベースにしています。
必須ではないですが、余裕があれば読んでおくと良いです。
私は個人的な興味で1冊読みましたが、読み物としても面白いものでした。
*リンクが貼れなかったため英語版を貼っていますが、日本語版をたどってみてください。