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ITサービスマネジメントエッセンス集(ITシステム運用)
こんにちは。ITサービスマネジメントに関するエッセンスをご紹介したいと思います。範囲としてはとても広いため、ピックアップした部分だけをご紹介します。
筆者はITサービスマネジメントを約8年経験しました。立場はSIerのシステム運用サービス提供者として、役割は主に監視運用、システム管理、標準化、自動化でした。時には夜間コールを受けたり、週末に障害対応で駆けつけたりと泥臭いこともありました。直接関連する資格はITIL Foundation v3、ITIL Intermediate RCV、OSAを保有しています。
すべてを網羅する情報ではありませんが、あくまで経験をもとにしたナレッジをお伝えできればと思います。
ITサービスマネジメントの位置付け
まずは一般的なITサービスマネジメントとはの話です。経験のある方は飛ばしていいかと思います。
まず、ITサービスマネジメントとはですが以下のように定義されています。
ITサービスマネジメントとは、ITシステムの提供を利用者の目的遂行を支援する「ITサービス」と捉え、その提供や運用、管理、改善などを組織的に行うこと。そのための体系化された仕組みを「ITサービスマネジメントシステム」(ITSMS)という。
一般的にはITシステム運用と聞くことが多いかと思います。
ITシステム運用はシステムに視点を向けていますが、ITサービスマネジメントは顧客に向けられています。難しいと思った方は、ITサービスマネジメントの方が広範で包括的と一旦捉えてもらえれば良いかと思います。
印象と実態ですが、ITサービスマネジメントは世間的なイメージが薄いのが現状です。学生にとってITとはプログラミングのことであり、運用に関してはイメージしづらいものになります。
一方ですべてのシステム開発プロジェクトにはITシステム運用がセットになっており、外すことのできない存在です。IT予算の8割は運用に投資されるという話もあります。
昨今はデジタル化の波を受け、運用を効率化して縮小させようという動きや、事業会社で内製化して開発と合わせて組織化するような活動も活発です。
もちろん監視運用など、自動化できる部分は多いものです。反面、事業会社においてはその事業運営とも密接に関わるところであり、より高度な運用が求められていることも大事な点です。
ベストプラクティス
ITサービスマネジメントに関しては、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)と呼ばれるベストプラクティスが存在します。1989年に英国で発行され、ITサービスマネジメントのフレームワークがまとめられています。
ITILv3においては、サービスライフサイクルとして戦略立案から運用までを5つのフェーズに分けて整理しています。詳細は本記事の最後に参考書籍を載せていますので参考にしてください。
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ベストプラクティスに従えば必ず運用がうまくいくというものではありませんが、闇雲に試行錯誤するより目指すべき姿としての指針として捉えることで必要な部分を取り入れることができます。
この手のベストプラクティスはよく青写真で現場感覚がなく役に立たないと揶揄されます。ITIL全てを当てはめようとすると実際の運用とのギャップが埋まらずそのようになると思いますが、アセスメントのように課題を確認するために参照したり、どこを目指すかを確認するために利用すると良いと考えます。
ITガバナンス成熟度評価
ITサービスマネジメントにおいて付きものなのが、自動化の話。ところがここには落とし穴があり、よく議論されるためここで紹介します。
まず、運用には成熟度があります。一概にここを目指せばいいという議論の前に、まず現状を認識するところが重要です。
下記はCOBITにおける一般成熟度モデルです。
COBIT(control objectives for information and related technology)とは、情報システムコントロール協会 (ISACA)とITガバナンス協会 (ITGI)が1992年に作成を開始したIT管理についてのベストプラクティスです。
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それぞれ簡単に解説します。
0 不在
これはその名の通り何も無い状態です。システムを作ったものの運用プロセスや体制がないため、何も行われません。一般的な企業では考えづらく、個人開発のアプリなどにはわりとあるかもしれない状態です。1 初期/その場対応
ここでも運用プロセスは存在していませんが、例えばトラブルが発生した際は誰かが対応するなど、一応最低限機能はしているものの、かなり雑然としている状態です。ここも重要度が低く小規模なシステムにあるかどうかといった状況です。2 再現性はあるが直感的
いわゆる属人化された運用です。運用プロセスが整っていない企業に一番多いかもしれません。個人に依存し人が変わると運用ができない、一方でその人がいる限りはしっかり運用されているという状態です。手順書はありません。3 定められたプロセスがある
ここでは運用ドキュメントが揃っている状態です。運用フロー、手順書、連絡先、台帳といったものが存在します。ただし、実際はドキュメントに従わずに業務を行っていることが多いです。また、担当者は複数つけられ属人化は完全にではなくとも、不在期間をカバーできるほどにはなっています。4 管理され、測定が可能である
定められたドキュメントに従って運用されている状態です。ここまでくるとかなりレベルは高い状態です。ドキュメントに従っているかどうかのモニタリングが定期的に行われ、必要に応じて是正するようなプロセスも整えられています。5 最適化
最適化のフェーズでは自動化が加えられます。ここまでで定められたプロセスとその順守があり、その上で最適化がされる形になります。
陥りやすい状態は、3以下の状態であるところに自動化を適用しようとすることです。
前提として、自動化は標準化されているところにしか適用できません。例えば属人化されているところに導入しようとすると、まずは属人的に何をやっているかを可視化しなくては進めません。また、可視化したものがあるべきプロセスなのか検証されなくてはいけません。
シンプルに表現すると、可視化→標準化→自動化となります。
また、運用組織が複数あるような大きい組織であれば、これらで高度なレベルに持ってきた運用を他の組織に横展開するということも価値の高い活動です。ナレッジの横展開ができれば、運用アセスメントやコンサルティングまで提供できる場合もあります。
ITスキル標準
続いてITサービスマネジメントに関する職種・キャリアについてです。
IPAがまとめているITスキル標準が多くの企業で利用されています。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/download_V3_2011.html
2018年に更新されていますが、最新のITトレンドとは若干ギャップがあります。しかし、ゼロから考えるよりは一つの指標にできるものでしょう。
下記はキャリアフレームワークです。ITサービスマネジメントに限らず、全般的な職種と専門分野が整理されています。
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その中でも、ITサービスマネジメントは4種類の専門分野に定義されています。
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昨今のSREや講義にはCoEなどは含まれていません。伝統的な専門分野の区分ですが、大きな枠組みとキャリアレベルを参照するのは有益です。特に自分の現状レベルと目標を意識するのはキャリアを考える際に、ある程度公共的な指標をもとに想定するために役立ちます。
関連資格
資格は大きく国家試験のITサービスマネージャ試験とITILの資格があります。
どちらを取得しても良いですし、両方取得する人もいます。
ITサービスマネージャ試験は情報処理試験の上位資格なので、応用情報まで取得した後に狙えるものになります。
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ITILは、まずITIL Foundationがベースにあり、その上に専門分野ごとの資格、そして一番上にMasterがある構成になります。
Foundationは入社一年目でも取得する人が多いので、基礎を体系的に学ぶためにも早めに取得すると良いと思います。
その上の資格は少し重いので、運用経験が出てきてからチャレンジすると良いと思います。
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おすすめ書籍
最後におすすめの書籍紹介です。これまでに触れた分野に関連するものをご紹介します。必要に応じてレビューなどを見てみてください。
ITサービスマネジメント初心者向け
ITの運用に携わったことがない、もしくは経験が長くない場合はまずITILから入ると良いです。ITIL関連の書籍はどれも難解で読むのが難しいものが多いのですが、こちらの書籍は一番読みやすいです。八百屋にITを導入するという身近な例で書かれており、はじめの一冊としておすすめです。
初心者を脱した次のステップ
次のステップとしてはより詳細な情報をインプットするのが良いと思います。また、書籍だけでなく企業が行なっている研修に参加するのも有益です。
オライリー本
オライリーからも運用に関する書籍が出ています。アンチパターンということでITILとは反対に陥ってはいけない運用について確認できます。DevOpsにも触れられています。
業務改善の観点
ITサービスマネジメントから少し着眼点を変えて、業務改善という部分で運用を見てみるのもおすすめです。現場目線であるあるな課題とアプローチがイラストとともに書かれていて読みやすく役に立ちます。
いくつか書籍を紹介しましたが、まだまだ多くの本があります。また、情報のインプットには書籍以外にも研修や情報交換などもおすすめです。
特にITILの研修はITシステム運用という現場最適化しがちな業務を体系的な観点で見ることができる数少ないチャンスです。
また、情報交換も同様に役に立ちます。運用の成熟度や課題とアプローチなど、さまざまな環境で仕事をしている人と会話をするだけでも俯瞰してみることができるので良い時間になります。
ITサービスマネジメント、システム運用はどうしても目の前のシステムばかりを見てしまい、日々の定常的な運用に気を取られてしまいます。それらが重要なのはいうまでもありませんが、俯瞰することでその日々がより良いものとなることだと信じています。
おわりに
さて、いかがだったでしょうか。
感想などTwitterでシェアしていただけるとありがたいです。
他にもITや運用に関する記事をいくつか書いていますので、お時間があれば読んでみてください。それではまた。