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旅のはじまりに「フェリー旅」はいかが?

イントロダクション

「あなたの旅のこだわりは何ですか?」と聞かれたとき、私の答えは決まっています。
それは、フェリー旅です。

フェリー旅、実は世間でもにわかに注目されています。
というのも、ホテル代が高騰している現代において、フェリーはリーズナブルな宿泊施設として注目されているのです。また、寝ている間に移動もできるというコスパやタイパの良さも魅力です。さらに、最近は瀬戸内海の航路を中心に、新造船が次々と投入されていて、内装がホテル並みに豪華な船も見られます。かつてのような雑魚寝のフェリーは、もはや絶滅危惧種。
そのため、旅行系インフルエンサーの方々が、こぞってフェリーでの移動を紹介したり、動画にしたりしています。

でも、私が伝えたいことは、そういうことではありません。コスパの良さとか内装が豪華とか、そういうことは餅屋に任せたいと思います。

私が伝えたいこと、それは

「フェリーに乗ったらデッキに出ろ!」

ということです。
デッキに出て、潮風を浴びて、景色を眺めれば、あなたは旅の主人公。デッキに出ないなんてもったいない。デッキにこそ、旅のエッセンスが詰まっています。
フェリー旅には、旅情があるんです。



今回ご紹介するのは、神戸と大分を結ぶ「フェリーさんふらわあ」です。
このフェリーは、大阪湾から瀬戸内海を通り抜け、別府湾までを結ぶ航路で、所要時間は12時間弱です。私が乗船したのは2024年7月4日木曜日で、神戸港を19時ちょうどに出発し、大分港には翌朝6時20分に着く便です。

日が傾くとともに旅がはじまり、街が目覚める頃に目的地に到着する。
それが今回のフェリー旅です。

どうでしょう、旅情を感じてきませんか?
それでは、出港しましょう。



7月4日(木曜日)

さようなら神戸、私は旅に出ます

午後6時50分。
客室後ろのドアからデッキに出ると、オレンジ色のファンネルが夕焼けに照らされていました。
ファンネルというのは、この大きな煙突のこと。船会社ごとに違ったデザインをしていて、今日お世話になるさんふらわあでは、オレンジ色のデザインになっています。まるで、今日の夕焼け空のようですね。

ぼんやりと潮風に当たっていると、エンジンの唸るような音が聞こえてきて、ファンネルからは煙が上がり始めました。

いよいよ出港です。
ゆっくりと岸壁が遠ざかり、船の後ろには航跡が弧を描くように伸びていきます。船は次第に速度を上げて、六甲山が少しずつ小さくなります。

太陽は水平線の向こう側にへ沈んだというのに、風は相変わらず蒸し暑いままです。夏の瀬戸内海は、海風までもが蒸し暑く肌にまとわりつくようです。でも、今日はそれでさえ心地よく感じてしまいます。


神戸の海はとても賑やかです。遠くには宮崎に向かうフェリーや、空港を離発着する飛行機が見えます。夜景の中で赤く光るポートタワーは、私たちの船出を見守ってくれているようです。遠くなった六甲山には、錨のマークが光っています。

エンジンの音、蒸し暑い風、夕焼けに染まる神戸の街並み。私は今、五感のすべてを使って旅の始まりを感じています。
しばらくの間、過ぎ行く神戸の光を眺めていたところ、太陽は水平線の向こう側に姿を隠してしまいます。オレンジ色の空は、たちまちに紺色の空に支配されたのでした。

時刻は午後7時30分。出港からまだ30分しか経っていません。
つまり、夕焼けの賞味期限は30分。


お食事とお部屋の紹介

少し時間を巻き戻しましょう。
乗船して部屋に荷物を置いた後、最初に向かったのはレストラン。
というのも、夕方発のフェリーでは、乗客の皆さんは、ご飯とお風呂のどちらかに向かいます。木曜日の便ですので、レストランが混むということはないのですが、私の場合は、レストランに直行するというのが癖として身についてしまっています。フェリーオタクの悲しき習性。
とあるフェリーオタクはこう言いました。

メシにすべきか風呂にすべきか、それが問題だ。

レストランに到着したところ、私の他には誰もいませんでした。
どうやら私が一番乗り。嬉しくて、ニンマリとしてしまいました。
一番乗りの特権は、バイキングをゆっくりと選べること。じっくりと吟味して、年甲斐もなくお皿にいっぱい盛り付けて、ウキウキした気持ちで席に着きました。

圧倒的な茶色率。
フェリーのバイキングというのは、基本的に茶色です。中には、チゲ鍋やビーフシチューが食べられるような船もあります。
でも、今日の船は部活の合宿のようなスタイルです。いくつになっても、茶色なご飯は男の子が喜ぶものなのです。

一番好きなのはカレーです。
さんふらわあごーるど・ぱーるのカレーは絶品!
甘すぎず辛すぎず、スパイス感もほどほどで、具材がしっかりと煮込まれています。カレー用に大きなお皿が用意されているところも、オタク的ポイントが高いです。

デザートもありましたので、こちらもありがたく頂くことにしました。
アイスがあるのがいいよね。食いしん坊は無条件で喜びます。
食べすぎました、大満足です。ごちそうさまでした。



こちらは今日お世話になるお部屋です。狭いながらも洗面台と小さな机があって、一晩を過ごすのに不足はありません。

フェリーのテレビには、航路や現在位置を案内するチャンネルがあることが多いです。私を含めたフェリーオタクという生き物は、これを眺めるのが大好きなのです。

今日のフェリーも、オタク大好物チャンネルがあるのですが、これが令和の時代とは思えないガビガビな解像度の地図なんですよ。全体的に、ふた昔ぐらい前のデザインというような印象を受けます。
でも、こういった洗練されてない感じでさえ、旅先では愛おしく感じられるから不思議ですよね。


旅は財布の紐が緩むもの

私は、フェリーに乗った時に必ず買うものがあります。
それは、御船印。

御船印というのは、御朱印の船バージョンです。
全国の船会社が、オリジナルデザインの御船印を発行しています。1枚500円程度なので、フェリーオタクの私は乗るたびに買っています。そのため、我が家には「さんふらわあ ごーるど」の御船印が2枚あります。

こちらも欠かせません。
大分のJAが販売している、つぶらなカボスというジュースです。

地元では見ないレア感、爽やかな酸味、飲みきりサイズということで、大分に向かう時には必ず飲んでいます。旅先って、ついつい財布の紐が緩んでしまって、道の駅で売っている牛乳や飲むヨーグルトを飲んでしまいますよね。そんな感じです。
つぶらなカボスは本当に美味しいです。ぜひご賞味あれ。


橋はくぐるもの

午後7時50分。この航海で最大のハイライトを迎えます。
太陽が水平線の向こう側に姿を消した頃、代わりにあの橋が姿を見せます。

明石海峡大橋。
橋を吊るす主塔の高さは297メートル。ふたつの主塔の間は2キロメートル近くあります。とても巨大な吊り橋です。
こちらのフェリーも、全長165メートルの大きな船です。大きな船から、大きな橋を望む。なかなか味わえない迫力です。

明石海峡大橋は美しくライトアップされていますので、眺めるだけでも満足感があります。夜間に淡路島から神戸方面に橋の上を走ると、まるで夜景の中に包み込まれるような感覚があって、とても素敵です。

でも、やっぱり私は、橋の下を通り抜けるのが一番好きです。
この橋をくぐると、船は播磨灘へと針路を変えていきます。播磨灘というのは、淡路島から小豆島まで続く東西20kmほどの海域で、しばらくは陸からも島からも遠いところを進みます。携帯の電波も繋がりにくくなり、普段の生活からも切り離された、黒い海が広がる世界です。

つまり、この橋は日常と非日常の境目にあるゲートです。さよなら日常、よろしく非日常。
橋はくぐるもの。





7月5日(金曜日)

フェリーの朝には旅情がある

おはようございます。時刻は午前5時30分。
早起きをした理由は、外に出るためです。今日の天気は予報によると晴れということなので、とても楽しみです。

最高の天気です!
見上げれば青空で、海面は鏡のように滑らかです。風も穏やかで、これ以上ない旅行日和。これを旅と言わずして、何と言うべきなのでしょうか。

前方には、別府の街並みと鶴見岳が、はっきりと見えます。起床して見慣れない景色が目に飛び込んでくると、ああ、遠くに来たんだな、という実感が湧いてきます。フェリーに限らず、夜を駆ける乗り物って、こういうところが魅力だと思いませんか?

これだけでも充分すぎるほどエモーショナルですが、フェリー旅の真の魅力はこれからです。
私の推しポイントは、前ではなく後ろにあります。




眩しい、眩しすぎる。
身体いっぱいに朝日を浴びて、全身で朝を感じる――こんな朝を最後に過ごしたのはいつでしょうか。
空を見上げると、突き抜けるような青空に、オレンジ色のファンネルが綺麗に映えています。船の後ろには、一直線に伸びる航跡が朝日に照らされています。

航跡を眺めるのって、めちゃくちゃ好きなんです。
だって、この航跡を向こう側には、これまで通り過ぎた場所があるから。この航跡をたどると、寝ている間に通り過ぎた瀬戸内海の島々があって、昨日くぐった大きな橋があって、出発地点である神戸の街があります。
つまり、この航跡は旅の軌跡。

この景色は、早起きした人だけの特権。こんなに気持ちのいい朝を旅先で迎えられるなんて、ちょっと贅沢すぎますよね。
この景色を見てしまうから、私はフェリー旅がやめられないのです。
惜しむらくは、あと30分ほどで大分港に着いてしまうこと。なんと非情なのでしょうか、この時間が永遠じゃないことが悲しすぎます。

でも、良いニュースもあります。
それは、これから旅がはじまること。
船を降りてからも、旅は続くのです。それが、フェリー旅。




その後のおでかけハイライト

大分県はおんせん県ですので、まずは温泉にお邪魔しました。
今回は、鉄輪温泉の近くにある「ひょうたん温泉」というところです。ひょうたんの形をした浴槽に、打たせ湯・蒸し湯など様々なお風呂を楽しめる温泉です。しかも、すべてが掛け流しという贅沢仕様。タオルのレンタルもあるので、手ぶら勢にもオススメです。

お昼ごはんには、大分名物の関アジをいただきました。
そして、私は旅のメインイベントである「大分マリーンパレス水族館 うみたまご」に向かいました。
今回のおでかけの目的は、4月に生まれたばかりの、セイウチの赤ちゃんを見ること。セイウチの赤ちゃん今のうち!ということで、ワクワクが止まりません。

吾輩はセイウチである。名前は(この当時は)まだない。
お母さんが「泉」さんなので、当時は「泉仔」と呼ばれていました。

そして10月5日、名前が「いちこ」に決まりました。
よろしくね、いちこちゃん!


帰りも当然フェリーです。
新造船「さんふらわあ くれない」には昨年も乗りました。そのレポートはこちらから。どうぞあわせてご覧ください。

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