「影裏」にみた最大の謎
(賢い解説などはなく、私の感想です。内容に触れているので、まっさらで見たい方はご注意を...!)
※画像は全て公式サイトや 、予告映像にあるものです。
映像について
「影裏」
昨年映画情報が出た時点で日本俳優2pickの最高映画じゃん!と楽しみにしていた。
そして、綾野剛と松田龍平の最高かっこいい映像ではあった...!(好きだから)
儚げな危うさがある綾野剛と、淡々としていて掴めない空気を纏える松田龍平。
松田龍平がだーれだ!みたいな感じで登場してくるから声出しそうになった。ザクロの食べ方で映される綾野剛との違いがよかった。パラサイトでも桃が出てきたけど、影裏でも桃はでてきた。
あと綾野剛の全身カットの圧がすごすぎて、変なツボに入ってしまい危なかった...(なんで...?)
あとはこの映画、台詞が少ない?と感じた。お互いの表情とか、壮大な自然が映されるシーンが多かったように思う。綾野剛の役柄も含め、映像の点においては映画「怒り」と似ていると思った。
( 当時映画館でみて、すごくよかった映画...)
ストーリーについて
「怒り」に映像の雰囲気が似ているといったけど、ストーリーのタイプは違う。
あくまで私自身の問題だけど、正直予告を見て想像していたものとは少し違った。心を許す友(松田龍平)が突然失踪した理由の衝撃はあまり強くなかった。影についても決定打はなかったように感じる。その方がリアルかもしれないけれど。
この物語に、セクシュアリティの問題や震災の要素が含まれていたところも、予告だけでは分からない点だった。
中村倫也(性転換をして女性として生きていく役として出ている)が、本当に綺麗だった。ここも詳しい人物像はあまり描かれていないのに、あの短いシーンだけで自然と泣いてしまった。
本題 : 最大の謎について
で!!一番気になってることがある。
(一緒にみた友達とも議論した)
松田龍平(演じる日浅)、綾野剛(演じる今野)のこと、どう思ってたのかな...!
(ここからは、影裏を見た人に問いかけてるのか、見ていない人にも説明してるのかよくわからない文章になっています)
まず前提として、今野(綾野剛)の恋愛対象は男性である。それは映画で描かれている。日浅(松田龍平)の恋愛については全く描かれていない。
友達として仲を深めていったふたりだけど、ある夜、今野側から迫ってしまったことがあった。日浅は拒否したものの、何事もなかったかのように翌朝もそのまま今野の家に居た。ベランダでタバコを吸う日浅は、今野に向かって「お前の気に入ってる川、連れてけよ」と笑う。
川辺で焚き火をした夜、日浅は焚き火の火に例えながら "ああいうのは突然じゃなくてゆっくり詰めていくものなんだよ、下手だな"なんてことを言った。
そこで今野は傷ついたように拗ねてしまいギスギスした空気になる。だけど私は、日浅が肯定のニュアンスを含めていたように思ってしまった。
それから震災を機に日浅が消えた後、日浅の知られざる一面を知った今野は、自宅のポストに互助会(日浅のノルマのために入った)の契約変更の知らせを発見する。契約変更した覚えがないため、急いで部屋の収納箱をひっくり返し、過去に互助会からきていた封筒(未開封)の中身を確認する。
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まず一枚目、ウエディングのようなチラシ。
ここで今野がふっと笑みをこぼすのは、日浅との記憶を思い返すことによるものだろうか。
そして二枚目、"契約用紙"のようなものが一部分だけ映し出される。端っこに担当者として日浅の名前が書いてあった。
ここで今野(綾野剛)は天を仰いで涙する。
え????それ婚姻届????
多分違う。というか絶対に違う。違うんだけど、正直ウエディングのチラシが出てきた時点であれ??と思ってしまった。前に契約した時点では、老後のプランのような空気だったから。
きっと正しい解釈は、普通に契約用紙。日浅の筆跡を見て日浅の存在を感じたことによる涙。
それから、ノルマのために入会したプランを勝手にコース変更(多分金額が上のプラン)されていたことで、ああやっぱり日浅は "そういう奴" だったのかと思う。だけど今野にとっては、日浅はこの地でできた唯一の友だった。だから、"そういう奴"であってもしぶとく生きていてほしい。あるいは、しぶとく生きるそちら側の人間であったことに安心すら覚えた。そんなところだと思う。
私の早とちりしたシナリオはこうだ。
ウエディングのプランに契約変更されていた知らせから出てきたのは、婚姻届。そこに日浅の名前が記してあった。今野は、拒否されたと思っていたけど、そうじゃなかったんだと気づく。つまりこれは、日浅からの遠回しプロポーズ...!日浅は自分が震災によって姿を消すことになるとは思ってなかったのだから、今野の家にまたふらっとあわられて、「契約変更の知らせ見た?」と悪戯に笑うつもりだったかもしれない。だけどここにはもう日浅はいない。だから今野は泣いてしまった。
絶対に違う。
もう書いていて意味がわからないので絶対に違うことを今確信した。互助会を通してプロポーズするってどんな高度技?でも、映画を観終わった後は本当にそうだと信じていたので悲しい。
細かいことを言うならば、職場で今野がおばさまがたから結婚はしないの?と質問責めにあっていたとき、手を動かしてくださいよと言って自然に助けてくれた日浅が居た。
このとき、一人のおばさまが意味深な視線で二人を見ていたのが気になる。てっきり二人の関係を疑っているような意味かと思っていた。
それに、今野が旧友に会った時に口にしていた「俺は結婚して家庭を持つなんてことできないなあ」も伏線のように感じてしまったのだ。
でも、そんな風に思ってしまうくらい、日浅が今野のことを本当の意味で拒否したように感じた場面は、なかった。
日浅の行方
日浅が本当に死んでしまったのか、それとも日浅の家族が言うようにどこかで生きているのか、それは最後まで描かれない。
「知った気になんなよ」
日浅が今野に向けて放ったこの台詞が大好きだ。
確かに今野が見ていたのは日浅のほんの一部分だったのだろう。でも、その一部分も日浅であることに変わりはない。
今野に互助会に入るよう頼む前に、日浅がそれを切り出すか迷っていたことは、今野の家の前に何本もあったタバコの吸殻が語っていた。
私たちはお互いにみんなそうだ。全て知ったように思っていても、何も知らない。
だけど今野にとって、日浅が例え "そういう奴" だったとしても、生きていて欲しいと願う存在だったように、私も信じていたい。
日浅はどこかで生きていて、いつかふらっと今野の元に現れることを。