太宰治「秋風記」の空白を解く
私は、太宰治の作品を読むのが好きだ。
痒い所に手が届くように、心のパズルにピースがすっとはまるように、冒頭の一文がありがたくて思わず天を仰ぎ、胸の内は拍手喝采、声に出して読めば心は夜の海のように静かになって、あるいはうっとりとした気持ちにさせてくれる。そういう、不思議な魅力がある。私にとっては、物語の内容というよりも、言葉の並びがそうさせているのだと思う。
もはや、物語を読んでいる感覚ではない。誇張ではなく、私が初めて太宰治の作品を読んだときはちょっとした勘違いをしたまま読