測定値にもいろいろありまして
こんにちは。特許翻訳者の内田明子です。
昨日Twitterでこんなアンケートをとってみました。
実はこれ、特許明細書の英訳時にかなり悩む用語なのですが、このアンケートを出した時点では「測定値」は"measurement"と訳すべきだと考えていました。
なぜかというと、もともとmeasurementには"value"の意味が入っているので、敢えて繰り返さずとも良いのではないかと考えていたからです。
ですがアンケートの結果では"measurement value"がトップに躍り出た上、"measured value"が良いのではないか?というご意見も頂戴し、再度考えてみたのですがどうも納得がいきません(頑固です…)。
valueを敢えて外に出して訳出する意味があるとしたら、どのような文脈でそうなのか、気になってネットで調べてみました。たしかに英語でmeasurement value/measured valueが使用されているケースも見受けられ、かなり明快に定義されていました。
「真値」に対して「測定値」ということのようです。そのほかにも、measured value(測定値)はtheoretical value/accepted value(理論値)という用語との対比でも使用されています。
要はmeasured valueとは、①「机上で計算式を使って計算した値」もしくは「真の値」に対比される言葉であること、そして②「何らかの測定器を使って計った値」ということであって、その値を対比したいときにvalueがmeasurementから顔を出し、"measurement/measured value"となるということのようです。つまり、形容詞部分(measured/theoretical/accepted)を強調したい、ということですね。
さて。そこで一つ疑問が生じます。「測定値」には確かに実測したものもありますが、計算されたものもあったりしませんか?
例えば、自動車の速度計が実際に測っているのは「車輪の回転数」と「時間」です。「車輪の回転数」から移動した距離を求め(タイヤの外周長×回転数)、それを単位時間あたりに変換したものを「速度」と私たちは呼びます。そして私たちはこれを「測定値」と呼んだりします。本来であればmeasured valueは「車輪の回転数」であって、「速度」は「計算値」なのではないのかしら、なんて思ったりします。
しかし、この(タイヤの外周長×回転数)/単位時間も「測定値」と見做せるとしたら「数式を使った計算」も「測定値」と見做せるということになりそうです。回転数と時間という変数が確定することで「速度」が決まります。つまりこの「速度」という「測定値」は数学的に計算可能だということになります。
したがって、推測ではありますが、英語圏の人はこれら「計算処理」と「計算結果」双方をまとめてmeasurementと呼んでいるのではないでしょうか。測定のための方法論や計算式が明示化されており、そして結果がこうなるということが既知であるから、処理と結果を同一視することができるということなのではないかと思います。
数学の世界でも私たちは「関数式」のことを「関数」と呼んだりします。それはfunctionが「式」でありかつ「数」であるからなのではないでしょうか。(式の変数が確定すれば結果が確定するという意味で。)
そういう意味では、"measured value"と"measurement"は少し意味が異なっているのかもしれません。そんな風に思いました。
また気づきがあったらアップデートしたいと思います。
ここまでお読みいただいて、有難うございました。