「これにより」が意味する2つのこと
特許明細書の英訳ではこんなシンプルな表現にも毎回悩まされます。
上記引用①および②の「これにより」は、それぞれ別のことを示していることにお気づきでしょうか。
まず前者は、「物理学的作用」について述べています。それに対し、後者は「ローラ本体を小型化する」、「剥離放電が起こることを低減する」という「論理的帰結」を述べています。
特許明細書では「作用効果」という言葉が良く用いられます。前者は「作用」すなわち物理学的な作用であるのに対し、後者は「効果」、つまり必ずしも物理的因果関係になくてもよく、例えば「風が吹けば桶屋が儲かる」のような論理上の、かつ間接的な因果関係として描き出す必要があります。
特徴として前者は客観的描写になるのに対し、後者は「小型化される」「低減される」「容易になる」等、比較的主観的な表現になるという傾向があるように思われます。
前者は物理的作用、すなわち原因と結果の連鎖を明確化する必要があるのに対し、後者は目的と手段の関係を明確化する必要があるのです。
つまり、「これにより」という同じ言葉で表現されていることであっても、この二つは明確に区別されるべきと私は考えます。
前者の「これにより」、すなわち物理的帰着は、例えば実験結果のように「こうしたら自ずとこうなる」と言った厳密な意味での因果関係になります。これは「作用」や「結果」という言葉で言い表すことができます。
後者の「これにより」の後には「効果」すなわち論理的帰着が続き、そこには発明により達成したかったこと(目的)が記載されます。そしてその背後には解決したい課題があります。この部分こそ「発明の有用性」に相当するものであり、翻訳においてもこの流れを作り出す必要があります。
つまり、この文脈での「これにより」は「これを手段として(目的を達成することができる、課題を解することができる)」というように訳さなければならないのです。
引用① 訳例)
While the parking pawl 40 is locked, the stopper 66 is positioned upright, erected against the support member 30. When the vehicle is parked on a slope, the load is exerted in the direction pushing the parking pawl 40 out of the parking gear 44. As this pushing load is exerted on the lock member 42 via the cam mechanism 96, the stopper 66 becomes clenched between the lock member 42 and the support member 30. The stopper 66 thus bears a part of the pushing load exerted on the lock member 42, and lessens the force of the pushing load in the direction moving the lock member 42 back to the unlock position. This structure alleviates the risk of the parking pawl 40 becoming unlocked from the parking gear 44.
引用 ②訳例)
In the image forming apparatus according to claim 6, the transfer member is provided with a movable member having one end fixed to the circumferential surface of the roller body, and the other end extending outwards in the radial direction of the roller body with respect to the one end. The movable member is configured to pass through a contact region between the roller body and the conveyor belt, and then come into contact with a surface of the conveyor belt, the surface being on the side facing the transfer member, on the downstream side of the contact region in the direction of the movement of the conveyor belt. This structure enables the use of a roller body having a smaller diameter, while ensuring high-quality image formation, by suppressing electrostatic discharge from the belt carrying a developed toner image, at the time when the toner-image bearing belt separates from the conveyor belt.