見出し画像

BEST OF 藤井風 ASIA TOUR。それは英語アルバムで飛び立つ前の、風さんの青春のお祭り


「青春もあとちょっとで終わります」


風さんはたまにどきりとすることを言う。
これは日産スタジアムライブで青春病を歌い終え、あと二曲を残して風さんが大好きなツアーメンバーを紹介する前に言った言葉。
それに続いた言葉は、
「このライブもあとちょっとで終わります。」

《ライブも?も?って事は最初に言った【青春】はライブのことじゃないんだ。じゃあなんの事だろう》って少し、真夏なのに秋の風を感じて、風さん、どこかに旅立とうとしてるのかなって心にひゅるると夜風が突き刺さった。

深い意味があるのかないのか、それは風さんにしか分からない。思わず出た言葉かもしれない。でも、その後に見たNHK MUSIC SPECIAL「藤井 風 ~登れ、世界へ~」にて、日産スタジアムライブをおこなっていたまさにその時、風さんは強い覚悟の中にいたということを知った。契約済みのアメリカ大手レコード会社『リパブリック・レコード』から、誕生日が来る来年の6月前までに、27歳のうちに、全曲英語のアルバムを出そうと決めていたのだ。その意思を固めて準備をしている真っ只中だった。来年の夏、風さんはもしかしたら今とは全く違う環境や心境に身を置いているかもしれない。

そう、大人の階段を登る時、《あの頃のわし》が恋しくなる。青春の終わり。

「my passionですね、一口で言うと。
more energeticで、more passionateだった頃の自分が、今必要だと思って、そう思えたのも、なんか最近ずっと振り返っていて、自分の人生をlooking backしていて。だから凄い古い画像をインスタにぽんぽん上げたりもしたんですけど。
それを見たら、デビューする前はちゃんとギラギラしてたなと思って。ちゃんとなんかやりたいことがあって、それに燃えていたんですよね。それを思い出して、その忘れかけていた情熱的な自分に戻ってきてほしい。」

NHK MUSIC SPECIAL「藤井 風 ~登れ、世界へ~」

この発言を聞いて、ギラギラしていた情熱的な時期というのはまさに、「人が後から思い返した時の青春」なのだなと思った。青春というのは、夢を見ても良いモラトリアム期間でもあり、夢が自分の見方をしてくれる時期。

そしてとうとう、思い描いていた夢が現実となり、自分の夢の中の憧れの人達と同じスタートラインに立ってしまった今、風さんはもうモラトリアム期間から飛び出す時期に来てしまった。

「英語の曲を愛しながら育ってきたっていう自分の、本当に自分が今まで聴いてきた英語の曲たちに劣るようではダメだと思っていて。もうついにこの世界の全てのアーティスト、全てのアルバムと同じステージに立っちゃうんだっていう気持ちになって。もう何の言い訳も通用しない。自分が、最高とちゃんと思えるようなものにしたい。」

NHK MUSIC SPECIAL「藤井 風 ~登れ、世界へ~」


まさに脱皮の瞬間。この時期、一旦、人はさなぎにならなければならない。立ち止まって...。

「曲のことを考えるというより、そもそもなぜこれをやるのかということに立ち返って。そう、energyとpassionと共に突き進むのもいいけれど、どこに向かってたんだっけ?みたいな。
自分の今までの常識を破るような曲があってもいいのかなとも思いつつ、そこもなんか自分のold styleを貫いた方がいいのかな?そういう迷いもありつつ。
There is no correct answer.  
That's why so difficult.」

NHK MUSIC SPECIAL「藤井 風 ~登れ、世界へ~」


風さんは新しいステージに飛び立つために、自分と音楽の原点に立ち返らなければならなくなったし、デビュー前に確かに持っていたはずの、あのギラギラした風パワーが必要になったのだな、と思った。


I Want You Back
I Need You Back
忘れかけていた情熱的な自分に戻ってきてほしい


風さんはさなぎになり、かつての自分の青春の力を借りる必要があったのかな。さらにはその気持ちごと、一緒に持って行きたかったのかな。

ここからは私の100%個人的な見解だけれど、今回のアジアツアーは、風さんがそんな青春を思い出すためのツアーに見えたのです。

というのも、セトリに

『ロンリーラプソディ』『特にない』がない。

浄化タイムとも言えるべきこの二曲が無かったのだ。ファンの皆さんならお分かりだろうと思うけれど、「吸って〜吐いて〜嫌なもん全部吐き出して〜」「指パッチンする度に、皆のモヤモヤしたものやネガティブな感情が一つ一つ消えていくイメージで〜」っていう、風さんがファンに呼びかけてセラピーをしてくれる曲だ。

この二曲が無いだけで、風さんのライブが今までの印象とはガラリと違うイメージになったように私は感じた。セラピーはしない。しないでただただ遊ぼ、風と遊ぼ、歌お、踊ろ、はじけようっていう、可愛いセクシーなおもちゃ箱を開けたような「はじける青春」が今回のライブにはあった。

それは夜中にこっそり家を抜け出して友達と内緒で会うような、ちょっとだけ悪いことをしてドキドキしているような。肩を寄せ合いクスクス笑うような。今回の風さんのセクシーパフォーマンスもそんな味がした。ちょっと可愛くてちょっと悪い事して、皆んなで大笑いして。それが大人になった皆んなの新しいセラピーだった。青春カムバック。


そういう意味で、風さんにとって、とてもベストなタイミングでこのアジアツアーはあったんじゃないかなと感じた。当初、全曲英語のアルバムは今年の夏前には出ていた予定だったと言うけれど、遅れてしまい、アジアツアーでメンバーと青春をしながら同時進行でアルバムを作る事になっている今の状況は、ハードワークながらもきっと風さんにとっては結果的にとても良かった事なのではないかな、と思ったり。青春をうんと補充しながら新しい歌を作ることが出来るから。

実は、私はこのアジアツアーを観る幸運を得たときに嬉しくて嬉しくて、「noteに沢山書くぞ!」って鼻息荒く息巻いていたのだけれど、帰国後いまいち考えが纏まらなかった。それもそのはず、日産スタジアムライブが初めての体験だった私は、今回のライブにもどこか「大人のセラピー感」みないなものを求めてしまっていたからだ。それでは考えが纏まるはずはない。風さんはセラピストではない。27歳の等身大の姿が魅力的なアーティストだ。今回のライブは、可愛い、悪ふざけセクシー、笑顔、メンバーとのたわむれ。風さんの青春を見ているようだった。ただただ、それで良かった。風と楽しんだもん勝ちだった。そして、見ている、というより、最終的には見守りたい、って言う気分にさせるライブだった。風さんが笑い、踊り、自由にメンバーと修学旅行し、そんなライブで、そこに風哲学だとかの小難しいことを考えるのはナンセンスで、ただただ風さんの青春を見守るのが正解だって思えた。これから全曲英語のアルバムを世界に向けて作ろうとしている風さんの、その前の束の間の青春。青春パワーを補充するための。

これから今よりももっと世界で戦わなければならないだろう風さんの、その前の束の間の無邪気な青春を、英語アルバムを出す前から風さんを応援している(風さんのひととなりをずっと知っている旧友のようなファン)とともにキャッキャ楽しむ束の間の青春なのではないかなと。だからただただ私達はそれを楽しみ、風さんを見守り踊り笑い、そんなライブだったんだろうなと思う。

風さんが新しいアルバムに向け、自分の青春を出し切り、青春の味を思い出して、次の人生の栄養とするための大切な大切なライブ。日本語アルバム【のみ】をひっさげて歌う最後の貴重なライブ。まだ青春モラトリアムに片足突っ込んでいる風さんの。って考えると、英語アルバムを出す前の風さんを知ることが出来ている今っていうのはまさに宝物のような時期で、そしてそれを楽しめることはなんて幸運なのだろうと思った。ファン冥利に尽きる。何十年後からしたら、きっと、藤井風のこの貴重な青春カムバック時代を皆んなで懐かしみ、愛でる日が来るのだろう。今、風さんがデビュー前の自分を愛でているように。

風さんが覚悟を決めたことを皆んなでお祝いしよう。笑い合い、一緒に歌い、一度しかないこの青春を風さんとこれからも何度も楽しもう。新しい日の前に、打ち解けた仲間と肩を抱き合う前夜祭のように、または日本語アルバムの後夜祭のように。

いいなと思ったら応援しよう!