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第三章数学と幽霊、第十ニ話 調査

いやいや、なんとも厄介な話になってきましたが、次回は、憑依と除霊を書いてみます。

第三章数学と幽霊、第一話 楓と鉄平
第三章数学と幽霊、第ニ話 佳子と一朗
第三章数学と幽霊、第三話 事故物件
第三章数学と幽霊、第四話 逆ナン
第三章数学と幽霊、第五話 巫女
第三章数学と幽霊、第六話 童貞
第三章数学と幽霊、第七話 翌朝
第三章数学と幽霊、第八話 下見
第三章数学と幽霊、第九話 祝日
第三章数学と幽霊、第十話  処女以前

第三章数学と幽霊、第十一話 処女以後
第三章数学と幽霊、第十ニ話 調査
処女を失くすの大変!

第三章 数学と幽霊
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性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第三章十ニ話 調査

純子の訪問

 月曜日の三時限目の休み時間、紗栄子は、節子と佳子とダベっていた。教室の扉が開いて、A組の時任純子が教室に入ってきた。キョロキョロ、室内を見回して、紗栄子を見つけた。紗栄子に近づく。
 
 おっと、おいでなすったぜ。と紗栄子は思った。ヤバいなあ。この子に、もしもアキラと私のことがバレたらどうなるんだ?恐ろしい。
 
 純子は「紗栄子、お話し中、ゴメンナサイ。この前の事故案件の話、ちょっといいかしら?」と言った。「わざわざすまんね。こっちからA組に行こうと思ってたんだよ。純子、節子と佳子は知ってるかい?顔くらいは見たことがあるだろう?こいつらにも関係あることだから、話しておくれ」と言った。
 
 佳子が「ああ、昨日の話?」と言うので、節子が「おまえの彼氏の事故物件の話だからな。女将さんと私から時任さんにお願いしておくれ、って紗栄子に仲介してもらったんだよ。時任さんちは、神社だから、ご祈祷・お祓いしてもらえばいいんじゃないか?って。おまえらバカップル共は、電磁波とか言っちゃってるけど、こっくりさんみたいな火遊びもたいがいにしな、って話だ」と節子が言うと、佳子が「火遊びじゃないもん」という。

「まあまあ、節子、それは後で佳子と言い合いなよ。純子、美久ネエさんは今日はいるよ。放課後、校門で待合せってどうだい?居酒屋の分銅屋ってあるだろ?そこに一緒に行こうよ。夕飯でも食ってけよ。この節子が女将代理だから、ご馳走するよ。家に夕飯いらないって連絡しておきなよ」

「うん、紗栄子、わかった。アリガト。放課後、校門だよね。待ってる。節子さん、佳子さん、あなた達と話せてよかった。紗栄子がまた私と友達になってくれるって言うのよ。節子さん、佳子さんも私とお友達になって下さい。お願いします」とお辞儀する。あちゃあ、やってくれるじゃないか?純子。「おう、問題ないぜ」と節子と佳子。

 純子が帰った後、節子が「『紗栄子がまた私と友達になってくれる』ってなんだい?」と紗栄子に聞いた。「ああ、ほら、純子と私は小学校からずっと一緒だったろ?それが私がヤンキーやってたんで、疎遠になっちゃってさ。私も声かけにくくって、無視していたんだよ。純子は気にしていたんだけど、おまえらと一緒だったから、純子からも声かけにくかったんだ。私らヤンキーだかんな、近寄りがたかったってんだよ。だから、今回の件で、また友達付き合いしよう、って二人で話したわけさ」
 
「ふむ、なるほどな。だから、私と佳子にも友達付き合いして欲しいって話か。悪い子じゃないな。あれ?あの子だろ?富澤さんとこのアキラと屋上で一緒なのは?なんか、付き合い出してるって聞いたな。紗栄子、おまえ、アキラに『私で良ければいつでも筆おろしオッケー』だなんて言って、この前、分銅屋から送って行った時にアキラにふられたんだろ?危なかったな。アキラを食っちまってたら大変だったな。純子と取り合いになるところだったじゃないか?」と節子。

「おお、その話、純子とアキラにするのは止めとくれ。冗談で言ったんだからな。純子に誤解されちゃ困るし、私をあしらったアキラにも悪いや。この話、なしな。頼むよ。忘れておくれよ」と紗栄子が言うと、
「でもさ、紗栄子も『私で良ければいつでも筆おろしオッケー』って、冗談に見せかけて、本気入ってなかったっけ?紗栄子は、ナンパの仕方を知らないブキッチョだから、ああいう言い方だけど、あれ、マジだったんじゃないの?」と佳子。

「マジなもんかよ。可愛い童貞くんをからかっただけだぜ。だからな、佳子、おまえみたいに『マジ』とか、純子やアキラに誤解されたら、私も面子つぶれるだろう?あの二人も困っちゃうだろ?だから、この話は、もうおしまい。忘れておくれよ」
「わかった。節子、この話、忘れましょう」と佳子。
「了解。紗栄子の面子つぶしちゃいけないからな」

冷や汗

 紗栄子は、ああ、ヤバイヤバイ、冷や汗が何リットルも出た気分だぜ、と思った。アキラとのことがいますぐバレるわけはないが、こいつら、私のこと見透かしているよな?と思う。
 
 こいつらにバレて、美久ネエさんにバレて、純子にバレたらどうするんだ?それが、「可愛い童貞くんをからかっただけ」なんてレベルじゃなく、「アキラを食っちまった」レベルなんてものでもない。「好きです」「愛してる」なんてアキラと私で言ってるんだ。
 
 そりゃあ、アキラと純子の仲もわかっている。アキラを都合がいい男とは思わない。このシチュエーションなら、当然、アキラは純子にも「好きです」「愛してる」ぐらい言うよ。本気で。それ、責めらんないよ。私が彼を責められるか?
 
 問題は、私がアキラと体から入っちゃったことだよ。セフレでいいよ、なんてバカなことを私が口走っちゃったことだよ。アキラが、ちゃんと私と付き合って、純子と別れる、と言ってくれたのに、それを断って、私が意地を張ったってことだよ。
 
 もちろん、純子は何も悪くないよ。悪いのは私さね。アキラは・・・私に流されたんだ。童貞に体で迫って誘惑したんだもん。やっぱり、私が悪い。私だけが悪いんだよ。・・・おっと、負けてたまるか。アキラとポジティブに行こうって約束したじゃないか?城ヶ島に行って、天体観測するんだよ、私たちは。
 
 隠しおおしてやる!負けるもんか。アキラの上半身は純子にくれてやる!下半身は私のだ!・・・あれ?純子の処女をアキラが食っちまったら?そうしたら?ああ、どうしよう?そうしたら、私と純子でタイマン勝負になるのかよ?心も体も?
 
「おい、紗栄子、昼飯にしようぜ?なにボォ~っとしてるんだよ?」と節子が声をかけた。
「も、もう昼か?」
「ボォ~っとして、何を考えているんだ?あ~?」
「あ、ああ、事故物件の幽霊ってなんだろうって、考えていたんだよ?」
「幽霊なんているのかねえ?まあ、お祓いしてもらえば解決するだろうぜ」

 アキラと純子と自分のことを紗栄子は考えていて、授業がまったく耳に入らなかった。あっという間に放課後になる。

放課後

 節子と佳子と校門に行くと、純子が待っていた。純子がニコニコ笑って紗栄子の腕をとって組んだ。「紗栄子、昔みたいだね」

「こら、純子、ベタベタくっつくなよ。女同士で恥ずかしいだろ?」
「昔はよくこうしていたじゃない?」
「そうだっけ?」
「そうだよぉ~。忘れちゃった?私が背の高い紗栄子にぶら下がっていたじゃない?」
「こうしてたっけ?あのな、純子、おまえ、胸、おっきくなったな?」
「え?ほんと?私、紗栄子みたいにグラマーじゃないもんね。胸、少し、大きくなったみたい?」
「大人になったんだよ」
「うん、そうかも・・・そうだね。私も大人になったんだ。夏への扉が開いたんだ・・・」
「え?」
「ううん、なんでもないよ、紗栄子」
 
 あれ?なんだろう?夏への扉?・・・そう言えば、土日、純子からもアキラからもLINENはなかったな。デートかと思って遠慮していたけど、土曜日の夜も二人共なかった。日曜日になんでもないみたいにLINEしてきたけど。まさかな。いや、そうかな?聞くわけにもいかねえし。あ~、悩むぜ。

自衛隊と防衛大学校

「あのさ、紗栄子は、高校卒業したらどうするの?」
「卒業したら、自衛隊に入ろうと思ってさ」
「え?自衛隊?」
「そう。今行く分銅屋で自衛隊の人が常連でね、影響されたというか、自衛隊に入隊すれば、何か見えてくるんじゃないかな?って思ってな」
「紗栄子がねえ、意外だな。昔はカメラマンになりたいって言ってたじゃない?」
「よく、覚えているな。だけど、私の家が金持ちじゃないから、専門学校とか、無理なんだよ。頭もそれほどよくないしな。いろいろな種目があるけど、いつでも募集の航空自衛隊の自衛官候補生に応募するんだ。自衛官になれたら、給料もでるんだぜ?採用されたら、三ヶ月の教育訓練ってのがあってさ、その後、術科教育が三週間から四十六週間、それで部隊勤務だ。教育訓練中でも十四万円くらい手当が出る。教育訓練が終わると二士っていう階級になって、高卒でも十八万円くらいでるよ。ボーナスもあるんだ。いろんな資格も取得できるし、宿付飯付きなんだよ。それで、ゴリラみたいな自衛官をとっつかまえて、結婚するんだ」
「ふ~ん、そうかあ。紗栄子、すっごい差し出がましい余計なことを言っていい?」
「いいよ。なんだい?」
「わたしの知り合いで、同じ自衛官候補生に採用された人がいるのよ。それで、ニ士って任期自衛官というのじゃない?その人に聞いたんだけど。任期が三年ごとにあって、契約更改みたいな」
「そう、それだよ」
「かなり脱落するって聞いたの」
「うん、確かに厳しいみたいだね」
「それで、知り合いが言うのが、そのコースは下士官であって、士官以上になるのは至難の技だっていっていた。下士官が悪いってことじゃないんだけど・・・」
「その通りだよ」
「知り合いは、とりあえず一年間、自衛隊にいて、その一年で暇を見つけて受験勉強をして、防衛大学に受かったのよ。防衛大学も学生手当というのがあって、十一万円でるんだって。宿付飯付きよ。防衛大学の四年間が終わったら、幹部候補生教育を一年受けて、その後、幹部、士官で少尉?とかになれるんだって。分銅屋さんの常連の自衛隊の人って、階級は?」
「二佐。中佐だね。女性と男性と。女性が南禅二佐、男性が羽生二佐」
「その人達に聞いてみればいいじゃない?自衛隊でも写真技術って必要でしょ?それも特殊写真なんて、ドローンとか使ってるじゃない?」
「いや、純子、大学なんて無理だよ。第一、高校も進学コースじゃないしな」
「進学コースじゃなくても単位さえあれば受験はできるわよ。それも来年じゃなくて、再来年よ。紗栄子、やってみないとわからないでしょ?すっごい差し出がましい余計なことでゴメンなさい。でも、手当も出るんだし、宿付飯付きは同じ、卒業したら少尉よ。紗栄子だったらできるよ!」

 紗栄子と純子の後ろでその話を聞いていた節子が「時任さん・・・」と言った。

「節子さん、純子と呼んでください。私も節子、佳子と呼んでいい?」と純子。
「ああ、純子、それでいいよ。後ろで聞いてたんだけど、その話、いいじゃないか?え?紗栄子?下士官よりも士官の方がいいって。手当も出るんならいいじゃないか?下士官のゴリラを捕まえるよりも士官のゴリラの方が将来性があるだろ?な?佳子、どう思う?」
「私も士官ゴリラの方に賛成よ」と佳子がうんうんとうなずく。自分で言っていて、なんだが、私はゴリラみたいな男とくっつくのか?なんか、イヤになってきた。

「節子、私が受験勉強をいまさらするのかい?」と私が言うと、
「ああ、私や佳子じゃ手伝えないけど、美久ネエさんとか兵藤さん、楓ちゃんの秀才グループが居るじゃないか?丸尾さんもいるし。やつらの大学よりも防衛大学の方が簡単だよ。女将さんだって手伝ってくれるよ。自衛隊に入っても勉強して、再来年に受験すればいい。道はいくらでもあると思うんだよ。元ヤンが防衛大学に入るなんて、面白えよ。やれよ、おまえ」
「おまえら、他人事だと思って!」
「別に、再来年、無理だと思ったら、そのまま自衛官のままでいりゃあいいんだから。損する話じゃないぜ?」
「私にできるかな?」
「紗栄子ならできるよ。私も手伝うからさ」と純子。
「う~ん、考えとくよ」

美久と純子

 分銅屋の暖簾を一同くぐると、女将さんと美久がいた。紗栄子が「美久ネエさん、時任さんを、純子を連れてきたよ。純子、田中美久先輩だ」と紹介した。純子が「田中先輩、時任純子です。初めまして。お顔は存じ上げているんですが」とお辞儀した。わぁ~、近くで見ると本当に超美少女じゃない?これでヤンキーしてたの?と純子は思った。
 
「ゴメンナサイね、変なことお願いしちゃって」
「いいえ、神社の祭務に関わることかもしれませんので。ウチの神社も時々、事故物件のお祓いの依頼はあるんですよ。私もパパの、いえ、宮司についていってお手伝いしてます。紗栄子からは詳しいことは聞いていません。もしも、よろしかったら、先入観なしにそのアパートを見ることは可能でしょうか?」
「アパートはウチが紹介して、佳子の彼氏が住んでいるんだけど、どうかな?佳子、イチローさん、今、どこにいるか、電話してくれない?」
第三章数学と幽霊、第ニ話 佳子と一朗
第三章数学と幽霊、第三話 事故物件

「ハイ、ちょっと待ってて下さいね」と佳子。

 佳子がイチローに連絡すると、今、アパートにいるそうだ。純子と部屋を見たいというと、今からでもどうぞ、とのこと。

 美久、三人組と純子の五人は、分銅屋を出て、ゾロゾロとイチローのアパートに歩いていった。イチローのアパートは、タケシのアパートの近くにあった。一階の2LDKだ。美久がドアベルを鳴らすと、イチローがすぐに出てきた。純子をイチローに紹介する。純子は「お邪魔します」と言って、部屋に入った。「散らかっていてスミマセン」とイチロー。「私は神職ではなく、単なる巫女なんですけど、お部屋の様子を拝見させて下さい。ちょっと変な動作をしますけど、笑わないでね」と純子が言う。

九字を切る

 純子が、部屋の真ん中に立った。「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と言いながら、一文字ずつ、指の組み方を違えて、左から右へ、上から下へ、という順番で九字を切っていった。目をつぶって、手を握りあわせて、ジッと立っている。数分間ジッとしていた。純子が目を開けて、イチローに聞いた。

「イチローさん、変な音、ラップ音とか、おかしな現象を感じましたか?」
「ええ、昨日の夜も聞こえました。美久さん、タケシさん、カエデさん、丸尾さんと佳子も一緒でした。真夜中に、ラップ音みたいな音と人なんだか声が聞こえて・・・」
「それは部屋のこの方角からですか?」とイチローが油絵を書いている部屋の隅を指差した。窓のある部屋の角だった。純子には昨日の夜の話はしていない。
「そうです、そうです。この部屋の隅のあそこからです」

鬼門と裏鬼門

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「う~ん」と純子が言って、カバンをゴソゴソした。コンパスを出す。「丑寅(うしとら)だなあ。そうすると、ラップ音は」と180度反対を指差して「この方角から抜けていった、とそういう気がしましたか?」
「その通りですよ」
「丑寅(うしとら)から申未(ひつじさる)なのね?気が通っていったのかしら?」と首を傾げている。「なんだろう?道祖神と庚申塚(こうしんづか)の位置を地図で調べないといけないわね」とブツブツ言っている。道祖神と庚申塚(こうしんづか)は、鉄平も気にしていたことだ。

北千住付近の神社、道祖神、庚申塔

「あの、私は神職ではなく、単なる巫女なので、今日は方角の確認をさせていただいただけです。これから、このアパートの紹介をされた田中先輩のお話を伺って、当社の宮司と相談いたします。まだ、何も申し上げられません。ただ、ラップ音やおかしな声が丑寅、つまり北東の鬼門の方角から聞こえて、申未、南西の裏鬼門の方角に抜けていったことはわかりました。宮司と相談の上、宮司と一緒にまたここにまいりたいと思いますが、よろしいですか?」
「お願いします」

北千住付近の事故物件

巫女のお仕事

 イチローの部屋を出て、分銅屋に帰る途中、「純子、いつもコンパスなんて持っているのか?」と紗栄子は純子に聞いた。
「神社の娘の必需品よ。小さい頃から持たされているのよ。方角が大事なの」

「神社の巫女って、あんなお祈りをするのかい?」
「ああ、あれ?普通の神社の巫女はあんなことしない。私は祖母に習ったの。あの動作は九字を切ったの。『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』って唱えて、邪気を払った。テンポラリーの結界を張ったの」

「でも、単なる巫女なの?」
「神職って、準国家資格みたいなもので、神社本庁が認定するものなの。認定試験もあるの。でも、この科学技術が発達した世の中で、大学のコースとか神職養成講習会で九字を切ったり、結界を張ったりとか、教えないでしょ?あくまで、準国家資格なんだから。だから、法律上巫女というのは、準国家資格を持たない神職の補助役なんだけど。でも、それとは別に、能力がないとお祓いも効果がないでしょ?だから、非科学技術の世界で、まだまだ、卑弥呼みたいな本来の巫女、巫(かんなぎ)というのが伝承されるの。私も妹もそれを習ったの」

「へぇ~、知らなかったよ」
「あまり言う話でもないでしょ?でも、真言密教の呪術とか、道教、方術、陰陽術とかと神社のお祓いは違うの。神社のお祓いは、あくまで、その場所を清浄にして、邪気が入らないように結界を築くだけ。エクソシストみたいに、憑依された人間から邪気を祓うということじゃないのね」

「純子は不思議なことを知っているんだね?」
「紗栄子、何言っているの。私は私、そのままの純子ちゃんだよ」
「純子は読心術なんてできるの?」
「できるわけないじゃん!私がわかるのは、清浄か不浄か、その世界だもん」
「じゃあ、私なんて、さしずめ邪気で満ち満ちているんだろうな?」
「いいえ、紗栄子から感じるのは、爽やかで優しい気よ」

「その気ってやつはどうなってんだ?どうなってるって、なんつーか、どう感じられるんだ?」
「引かないで聴いてね。私は集中すると視覚異常になるみたいなのよ。その視覚異常の時には、人でも物体でも、その周りにボヤァッとした光が見えるの。強い光もあれば弱い光もある。清浄な光もあれば不浄な光もある。それが見えるの。さっきの部屋では、残光みたいなものが見えたわ。飛行機は行ってしまったけれど、飛行機雲が残っている、そういうような。それはあまりいい光じゃなかった。不浄な弱い光が残っていたのが見えたの。それがコンパスで確認すると鬼門の方角から裏鬼門の方角に続いていたの。その方角に何かあるのかな?って。前の似たような話の時は、庚申塚と庚申塚を結ぶ線と道祖神の線が交差した位置にこういう物件があったわ」

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「それって、霊視とか言うやつかな?」
「なんだろうね?オーラ?何らかのエネルギーの放射体?そういうようなイメージかしら?だから、集中しないとわからないけど、紗栄子からは、優しさや爽やかさが感じられるんだ。こんど、集中するから、見せてね」
「おいおい、そういうおっかないのは遠慮しておくよ」
「あれ?紗栄子?なにか心配事でもあるの?」
「なんで?」
「そういう気がしたのよ」
「そ、それは、さっき話していた自衛隊とかのことじゃないか?」
「あ!そうだね」

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純子と直子

 時任純子と妹の直子が本殿で御幣用の御幣紙を切りながら、雑談していた。直子は高校一年生。純子とは別の高校に通っている。
 
 「お姉さま、この家の跡継ぎどうするんでしょうね?」
「そりゃあ、パパが私たちは継承問題考えなくていい、入婿とかもしない、したくないと言っているのだから。親戚から養子を貰うのかもしれないわね。私は申し訳ないけれど、まず、神職にはならないわ。直子も知っているように、神職になるには、國學院大學とか皇學館大学の神職資格課程がある大学を卒業するか、神職養成所や神職養成通信教育の課程を修了する必要があるでしょう?それで、神社本庁から認定してもらって、まず、権禰宜(ごんねぎ)になるじゃない。神社本庁への推薦状はすぐ集まるから宮司になるのは難しくないけど、そもそも女性神職は、神職ニ万ニ千人の内、約三千人ぐらいよ」
「私は、國學院大學とか皇學館大学など行く気はしません」
「私もよ。悪いけど、学生がダサそうじゃない?それに、直子も私も爪は伸ばせない、マニキュアもペディキュアもできない。クリアでもダメだし。お化粧も派手なのは基本ダメでしょ?髪の毛の色もナチュラルじゃないとダメだしねえ。制約が多すぎるわよね」
第五話 巫女

姫様の口寄せ

「そう言えば、この前、お姉さま、神降ろしされましたね?彼氏さんとお友達に見せていましたね?」
縄文海進と古神道、神社、天皇制(15) 神道と神職、巫女、神様にはバレてんじゃん!

「あら?見てたの?」
「神楽鈴の音が聞こえたから」
「そうか。直子が部活でいないと思ってた」
「ええ、部活なくなりましたから」
「久しぶりに神降ろししたから、疲れちゃったわ」
「お姉さま、私、木花開耶姫(このはなさくやひめ)様が降りられて、その口寄せを聞いてしまいました」
「あら?」
「内容を聞きたいですか?」
「いいえ、口寄せの内容なんか聞きたくないわ」
「でも、お姉さまには大事なことよ」
「いいえ、結構」
「いえ、話します。あの二人、できてるみたいです。体の関係があるそうですよ。姫様が言われていましたわ」
「・・・直子、それは、姫様に言われなくても、私もアキラと紗栄子の気で感じていたわ。でも、知らないふりをしていた方がいいこともあるのよ。それに、二人がそうなったのは、私とアキラがつき合う前からだと思うから。まだ、二人は続いているけれど・・・」
「あら、気でわかったのですね?私もそういう気をなんとなく二人から感じましたもの」
「いいの、あの二人は私をいたわってくれるんだから」
「ふ~ん、嫉妬しないのですか?」
「二人共、悩んでいるのは感じるから。まったく嫉妬がないわけじゃないけど・・・」
「そう。わかりました。余計なことを言ったようです」
「黙っていてね」

処女を失くすの本当の意味

「ハイ、黙っています。でも、もうひとつ。お姉さま、彼氏さんに処女、差し上げましたね?」
「あちゃあ、バレてたの?」
「そのくらいのお姉さまの気の変化、わかりますとも」
「どう気が変化したのか、教えて。自分ではわからないもの」
「そうですね、下腹の子宮のあたり、丹田のあたりの放つ光が以前よりもクッキリして見えます」
「あれ?そうなの?直子、立ってみて・・・あ、ホントだ。ママと違って、丹田の放つ光がボンヤリしている」
「注意してみればわかります。お姉さまはそういうところは抜けてますね」
「直子がしっかりし過ぎなのよ!でも、これって何なのだろう?処女じゃなくなるというのが、丹田のあたり、子宮の部分が放つ光がクッキリするって?私、処女膜自体に意味はないと思っていたのよ。単にヒダが破れるだけだもの。それよりも、オ◯ンチンが入ってきて・・・子宮がアクティベーションされたってこと?」
「その説明には一理ありますね、お姉さま」
「だけどよ?オモチャ使ってもオ◯ンチンが入ったと同じようになるわよね?」
「・・・お姉さま、もしかして、避妊なさらず、生でやられました?精液が子宮に入ったとか?」
「え?そういうこと?」
「お姉さま、『え?そういうこと?』って、生でやられたんですね?はしたない!妊娠されたらどうなさるおつもりですか?」
「いや、その、安全日を狙ったの」
「もう、はしたないお姉さまです。でも、そうですね、処女を失くすの本当の意味は、精液があそこに入って、子宮がアクチベーションされたってことかもしれません」
「おお!姉妹でなんて話をしているの!しっかし、ヤバい、ヤバい。こうお互い気が読めるのって、隠し事できないわね?」
「お祖母様の訓練の賜物でしょう」
「直子、それも黙っているのよ」
「わかりました。沈黙は金です」
「第一、私たちの巫女の技能は、知られたらいけませんから」
「私だって、ボーイフレンドに知られたくないですもの」
「困った技能だこと」

「お互い様ですわ、お姉さま。それにしても、私たちの代から後、どうなってしまうのでしょうか?」
「私と直子が子供を作って、娘だったら、伝えればいいんじゃない?」
「自分の娘にですよ?この『困った技能』を伝承させるんですか?」
「それは直子の自由。しかし、たぶん古代から伝わったんだから、私たちの代で廃れさせるのもなんだな?なんて思うわ」
「私は考えます」
「直子の自由になさい。他の神社でも私たちのような娘がいるはずだけど、まさか、神社本庁がそんな調査をするはずもないし。家ごとで秘密に伝えているんでしょうね」

危険な除霊

「それはそうと、今度もあの危険なことをするんですか?」
「どうしようもなくなったらね。どうも、これは霊道からはぐれた死靈のような気がするのよ。霊道に戻してあげるか、成仏させるか」
「あれは大変危険ですからね?」
「ママは他家の女(ひと)でそれも一般の家、パパはそもそも男だから、私たちがやるしかないでしょ?」
「でもですよ、結界の張ってある神社の中ならともかく、結界のない外でですよ?お姉さま」
「結界の外でする他ないじゃない?姫様の神降ろしを神社の結界の外で行って、姫様が死靈にしがみついて、神社の結界内に私の体ごと入る。これは姫様の力なら簡単でしょ?」
「でも、お姉さま、問題は、神社の結界内に入って、お姉さまの体に憑いた姫様と死靈の周りに私がさらに結界を築いて、お姉さまから姫様を出した後、私に姫様を神降ろしして、お姉さまの体から死靈を追い出して、成仏させるんですよ?タイミングが狂ったら、お姉さま、死靈が憑いたままです」
「そうなったら、そうなったで、直子が私をなんとかしなきゃあ」
「他人事みたいですね。まったく、ゴーストバスターズhttps://bityl.co/5KZiのゴースト捕獲の保管装置を自分の体を使って行うんですから、私ならやりたくないです。これじゃあ、シガニー・ウィーバーみたいな状態になるでしょう?」
「あなたにそんな危険なことはさせません」
「もっと、他にいい方法がないのかしら?」
「お祖母様に習ったのはこの方法だけなんだから。もっといい方法があったら、教えてくれたわよ」
「私、これイヤです。できればやりたくありません・・・」

内結界、五芒星

「直子、内結界の法は覚えているわね?」
「大丈夫です。まず、お姉さまが作らせた五芒星の二間✕二間の黒シートを広げる」

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「そうそう」
「各頂点に鏡をおいて、対角の頂点に向けて72度の角度で五箇所に設置する。トップの頂点に光源のレーザー装置を置いて、光源の光が無限に各頂点を走るように調整する。ねえ、レーザー光源って、ロウソクの方が気分が出ませんか?」
「直子、古代じゃないんだから。ロウソクの光は揺らぎがあるでしょ?揺らいだら死靈は逃げることもあるわよ。結界の境界がわからなくなるから。だから、古代では失敗例がある。今は現代だからレーザービームを使った方が確実よ」
「レーザービーム自体には意味はないんですよね?境界を示す以外に?ルパン三世とかミッションインポシブルみたいなセンサーみたいなものですよね?」
「ヴィジュアルエフェクトよ。結界の境界線がハッキリわかればいいもの。大事なのは、結界を維持する強い意志と姫様との結びつき。それが弱いと結界も弱くなって、死靈は閉じ込められないわよ」
「なるほど。わかりました。続けましょう。次に、お姉さまの体を五芒星の中心に置く。これがいつも大変なんですよ」
「そんなに大変?」
「憑かれたお姉さまは暴れるもの。引っ掻くし、蹴ります。ものすごい力なの。姫様が死靈を押さえつけても、お姉さまの体はその小さい体とは思えないほどの力で暴れます」
「それは私は覚えていないから。姫様が憑いていてもそうなんだ。じゃあ、憑かれるのが私でなく体格のいい直子だったら、私は抑えておけないでしょう?うん、それで?」
「姫様が出られる状態になったら、光源を一旦切る。姫様が五芒星の外へ出る。光源をつけて、お姉さまと憑いている死靈を五芒星の中にまた閉じ込める。私が姫様を呼び込んで憑かれる。姫様が五つに別れて、五芒星の頂点に立って、死靈に引導をわたす。死靈がお姉さまの体を出たら、姫様が知らせてくれる。光源を切って、お姉さまの体を五芒星の外に出す。光源を再度オンして、死靈が消えたか、様子を見る。こうですわね?」
「毎回、真剣勝負だからなあ。直子の役目も大変だよね。今回は、なんとなく、紗栄子とアキラが私を運んでくれる、ってそういう気がする。もしも、何かあったら、直子、紗栄子にお願いしてね」
「もしも、何かって、何が起こるの?何か起こったら、紗栄子さんって、彼女、一般の人でしょ?」
「わからないわよ。そんな気がするだけ。でも、紗栄子は頼りになるって。彼女は『普通の人』じゃない」
「お姉さまが言われるなら、その通りにしますとも。でも、今回はますます私はあまり良い気がしませんわ」
「直子、私だってそうよ。ひどく嫌な気分。誰がこんなものを放ったのかしら?」
「また、どこかの土木工事で、道祖神様とかお稲荷様とか、移設するか、壊してしまって、お手当もせず、移したんじゃありません?」
「・・・御心霊なのか、御神霊なのか、厄介な霊でないといいのだけどねえ・・・」




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フランク・ロイド
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