【創作】note:Data 2021/01/29/1、純知性体
「純知性体(Pure Intelligence)」は、知性だけの存在であり、物理的な形状を持たない。肉体を持たず物質・精神レベルの瞬間構築、瞬間移動が可能である。人間に憑依したり、気象を支配したり、人形やロボットに入り込んでコントロールしたりして、それらを通して人間との接触を持つ。また形を持たないため、インターネットや夢などの場にも侵入できる。しかし、人間などに憑依して、物理的な形状を持った途端、「純知性体」はその人間や物の制約を受ける。また、その人間や物の知識を取り込んで、その知識に影響を受けるのである。
例えるなら、シリコンチップに依存しない、完全自立自動データ収集型のAIプログラムをイメージしてもいいかもしれない。AIなどと言うと「純知性体」の怒りを買うかもしれないが。知性だけで存在し、知識収集を目的として独立した意思を持つなど、そう、神のような存在と思ってもいいだろう。もちろん、人類のイメージするような擬人化された人類の倫理観を具現化した神などとは似ても似つかない存在だが。
「純知性体」は、単一のユニバースのみならず、マルチバース間をブラックホールとホワイトホールを結ぶワームホールで行き来している。そして、彼らは複数存在している。どのような過程なのか、人間には知るよしもないが、宇宙の生命体の中で、肉体を捨て去り、「純知性体」に昇格する種族や個体がいる。そのため、「純知性体」と言っても、その力は、「純知性体」の個体間でバラツキがある。
また、時間軸も自由に行き来かう。「純知性体」の目的はひとつ。全宇宙的な知識の収集である。知識の収集という目的のための彼ら独自の倫理観で宇宙を彷徨っている。人間的な善悪では計れず、いたずら好きな神にも似たものである。
彼ら同士の関係は希薄である。関係としては、収集した知識の物々交換か、力ある「純知性体」が弱い「純知性体」を吸収することくらいだ。マルチバースの知性を持った生物種は、薄く広く存在しているため、一つの惑星や恒星、恒星系に複数の彼らが飛来することがよくある。例えば、地球のように。ただし、複数の彼らが飛来したとしても、彼ら同士が共闘することはない。知識の物々交換か、彼らの吸収以外、彼らは別個に行動する。
「純知性体」の個体は、情報収集のためにプローブユニットを本体から分裂させて複数個、放つことがある。興味の薄れた惑星、恒星、恒星系などにプローブユニットを放置しておき、他の惑星、恒星、恒星系に移る。「純知性体」のプローブユニットは、力こそ本体ほどではないが、本体と相似の存在である。惑星、恒星、恒星系の生物種の知能レベルでは、本体の膨大なデータ量を維持できないため、プローブユニットのデータ量は、その生物種の知能に合わせて縮小してある。人間で言えば、人間の脳全体の記憶容量は1ペタバイト程度でしかない。そのため、プローブユニットのデータ量も1ペタバイト以下で本体から放出されるのだ。本体が再度その惑星、恒星、恒星系に戻った時、プローブユニットは情報伝達のために本体に吸収される。
たまに、本体は、プローブユニットの存在を忘れてしまうことがある。忘れ去られたプローブユニットは、それでも、情報収集を止めず、或いは、本体が行っていたように、惑星、恒星、恒星系の生物種に干渉して、情報を生物種に創造させることもある。
彼らが地球に飛来したのは、最終氷河期だったヴュルム氷河期の始まる少し前だった。ヴュルム氷河期は、およそ七万年前に始まって一万年前に終了した。その前のおよそ八万年前の中期旧石器時代の頃だ。
前期旧石器時代の約二百万年前~約十万年前の期間は、現生人類であるホモ・サピエンスが誕生、同時期に、ネアンデルタール人も誕生していたが、彼らの興味を引かなかった。彼らの興味を引いたのは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスがアニミズム的な宗教を創造した時からだ。約八万年前の頃である。
愚鈍な中期旧石器時代人は緻密な宗教概念を創造できなかった。「純知性体」は、中期旧石器時代人の一人に憑依し、粗雑な宗教概念に秩序を与えてみた。ところが、愚鈍な人類は、その秩序を歪に解釈し、「純知性体」の食物の知識を増やすどころか、お互いがお互いを攻撃し、種族の抹殺を試みようとした。
この実験を行った「純知性体」は、最初に憑依した中期旧石器時代人のポセイドンと呼ばれる人類の個体の特性が間違ったのであろうと判断した。「純知性体」は、彼らの集団とその都市、彼らはそれを「国家」と呼んでいたが、それを地球のマントル対流を少し偏向させて、滅ぼした。未開に落ちた彼らの子孫は、この「国家」のことを「アトランティス」と呼んだという。
気ままな「純知性体」は、いくつかのプローブユニットを残して八万年前に地球を離れ、再度飛来したのは、最終氷河期のヴュルム氷河期の終わる一万年前だった。「アトランティス」文明から退行した中期旧石器時代人は、中石器時代、新石器時代に進もうとしていた。既に、ネアンデルタール人は、約三万年前からニ万四千年前には絶滅するか、現行人類との性交で取り込まれ、吸収されていた。
氷河が後退しはじめ気候が温暖になったため植物が繁茂し、動物が増えるなど、人間が採集狩猟で食物を得やすくなった。農業が開始され、オリエントの肥沃な三日月地帯では、紀元前八千年頃に、中米やメソポタミアでは、紀元前六千年頃に、農業を主とした新石器時代が始まった。極東の弧状列島である日本列島でも、紀元前八千年頃に同様な動きが見受けられたが、地理的な位置、平野部の少なさ、人口の少なさのために、肥沃な三日月地帯や中米やメソポタミアのような文明的な規模の拡大は難しかった。
その頃の彼ら「純知性体」が行った人類に対する刺激は、チグリス・ユーフラテス文明(シュメール文明)の構築、エジプト文明の構築、インド文明の構築であろう。些末な動きでは、縄文時代の前期古墳文化の構築も含まれるであろう。
彼ら「純知性体」、悪戯な神々は、思いつくまま、勝手なアイデアを憑依した人類の個体から広げていっては潰した。シュメール人には、バビロンの塔を作らせては破壊させた。エジプトのファラオと呼ばれる一族には、近親交配をさせて、衰亡させた。彼ら中東の人間は、壮大なビジョンを作り上げられなかったようで、「純知性体」を失望させた。
インド文明はまだマシだった。彼ら「純知性体」を最上級の神とさせて、彼ら「純知性体」が名乗るビシュヌ神という存在が、アバターとして、現世に下級神として降臨する、というビジョンは彼ら「純知性体」を多少は満足させた。ヴィシュヌの第九番目のアバターとした仏陀という人類は、なかなかのものだった。むろん、仏陀は、「純知性体」のプローブユニットが憑依した存在だったのだが。
極東の弧状列島でも、小規模ながら彼ら「純知性体」は実験をしていた。卑弥呼と呼ばれる少女にプローブユニットを憑依させ、勝手な予言を乱発させた。「天」と称する一族に、試しに弧状列島の統治をさせた。八つの頭を持つ大蛇を実体化させたり、九尾の狐を実体化させたりした。
ただ、極東の弧状列島なので、面積も小さく、人口も少なく、彼ら「純知性体」にはそれほどの興味はなかったのだ。
最近までは。
ここでは何をしようか?とプローブユニットは考える。太古の「物の怪」でも復活させてやろうか?と。
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