恐竜から鳥への進化はインスリン耐性の獲得による、東京工科大が新説を提唱
恐竜から鳥への進化はインスリン耐性の獲得による、東京工科大が新説を提唱
「インスリン耐性」、聞き慣れない言葉である。
まず、「インスリン」とは、何か?というと、すい臓のベータ細胞で作られるホルモン。糖分を含む食べ物は、消化酵素などでブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収される。食事によって血液中のブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌され、その働きによりブドウ糖は筋肉などへ送り込まれ、エネルギーとして利用される。インスリンには、血糖値を調整する働きがある。
◯ インスリン = 血糖値を調整するホルモン。血糖値は、血液内のブドウ糖の濃度。血糖値を下げるインスリン、血糖値をあげるグルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンといったホルモンにより、非常に狭い範囲の正常値に保たれている。血糖値が高くなった時、インスリンが血糖値を下げて正常値に戻す。このインスリンの分泌が低下する、血糖降下作用がうまくいかなくなった、こういう場合が糖尿病となる。
ここまではいい。じゃあ、「インスリン耐性」というのは?というと、「インスリン耐性」=「インスリン抵抗性」のこと。
運動をすると体内でブドウ糖がすぐに消費され、血糖値が下がる。運動を習慣として続けると、エネルギー摂取量と消費量のバランスが良くなり、血中のブドウ糖の量をコントロールするインスリンが効きやすい体質に変わっていく。
他にも運動には、「血圧が下がる」「中性脂肪が減る」「肥満を解消できる」「腎臓病を予防・改善できる」など、さまざまな利点がある。
二型糖尿病の原因のひとつである「インスリン抵抗性」は、肥満や運動不足などが原因でインスリンが効きにくくなり、ブドウ糖が細胞に十分取り込まれなくなった状態をさす。
インスリン抵抗性があると、筋肉や肝臓、脂肪細胞でブドウ糖を吸収されにくくなり、血糖値が上がりやすくなる。すると血糖値を下げようと、膵臓はインスリンをさらに分泌しようとするが、やがて疲弊してインスリン分泌機能が弱くなってしまう。
インスリン抵抗性は、身体だけでなく、脳にも作用する。インスリン抵抗性があると脳の記憶力や認知力などのパフォーマンスが急速に低下するおそれがあり、肥満や過体重のある人ではとくにその傾向が強いことが、最近の研究で分かってきた。
さて、人間や哺乳類にとっては、害になる「インスリン抵抗性」ですが、酸素濃度が、ペルム紀末の大絶滅にそれまでは35%あった大気中の酸素濃度が、11%まで下がってしまった。(現在は21%)
11%なんて、エベレストの頂上並みの低酸素で活発に動けない生物は捕食されたり滅んだりしてしまった。
そんな中で、恐竜の獣脚類・鳥たちは、インシュリンがわざと効かない体を作って、低い酸素濃度でも血糖値を上げることによって、活発に活動できる体を作った。それが、中生代の恐竜時代につながった、というお話です。
つまり、
◯ 環境の激変の1つが大気中の酸素濃度で、それまでは約35%ほどであったが(現在は約21%)、約11%まで大きく低下
◯ それを生き延びられた理由が、インスリン耐性の獲得だった
◯ 哺乳類においては、インスリンがピルビン酸の完全酸化を阻害するため、多くが乳酸のままとどまってしまう
◯ 鳥においては、インスリンが持続的に抑制されているため、ブドウ糖から生産されたピルビン酸の多くがミトコンドリアで完全酸化される
◯ 鳥は持続的なエネルギー基質の供給ができるようになり、哺乳類では考えられないレベルの運動が可能になった
◯ 鳥は老化ホルモンであるインスリンの作用が最小限に抑えられることから長寿である可能性が示唆
◯ 鳥は哺乳類に比べ高い運動性能を有し酸素消費も高い
◯ 活性酸素の放出が少なく、がんや肥満などの生活習慣病になることも稀
◯ 最大寿命も哺乳類の倍以上
という話なので、詳しくは下記のニュース記事を読んでください。
恐竜から鳥への進化はインスリン耐性の獲得による、東京工科大が新説を提唱
東京工科大学(工科大)は8月26日、鳥への進化は、「インスリン耐性の獲得に起因する」という新しい進化学説を発表した。
同成果は、工科大 応用生物学部の佐藤拓己教授らの研究チームによるもの。詳細は、内分泌学で最も権威のある学術誌の1つである「Trends in Endocrinology and Metabolism」に掲載された。
近年、恐竜や鳥の祖先に関する研究の進展は目覚ましく、現在では鳥は一部の小型獣脚類(2足歩行の肉食恐竜)から進化したと考えられている。
今回、研究チームは、2億5000万年前(古生代ペルム紀末)の史上最大の生物大量絶滅から5000万年以上続いたとされる低酸素環境に適応するため、獣脚類が大幅なゲノムDNAの欠損を行い「インスリン耐性」を獲得したことが、獣脚類に高い運動性能を与え、哺乳類を2億年前までにほとんど駆逐した要因であると考えるという説を提唱した。
近年、技術の進歩により化石からゲノムのサイズを予測することが可能となってきた。それにより、ヘレラサウルスなどの中生代三畳紀(2億4800万~2億1300万年前)の中期に生息していた原始的な獣脚類において、50%程度のゲノムDNAが欠損していることが明らかとなっている。
生物大量絶滅の1つであるペルム紀末の大絶滅では全生物のおよそ90%が滅んだとされる。100万年も続いたとされる大規模かつ活発な噴火活動により、環境が大激変したことが理由とされている。その環境の激変の1つが大気中の酸素濃度で、それまでは約35%ほどであったが(現在は約21%)、約11%まで大きく低下(大気中の酸素の割合は時代によって大きく異なる)したと考えられている。それを生き延びられた理由が、インスリン耐性の獲得だったというのだ。
鳥は、哺乳類と比較すると、以下の3つの生理学的な特徴を有する。
1.(個体レベル)骨盤を高く持ち上げることにより、二足歩行が可能
2.(臓器レベル)気嚢を備えたことで、哺乳類の数倍のガス交換能力を獲得
3.(細胞レベル)インスリン耐性により、ミトコンドリアの活性を持続的に高く保つことが可能
鳥と獣脚類は哺乳類よりも高い運動性能を維持できる理由として、エネルギー代謝の様相が、哺乳類とは大きく異なることが挙げられている。哺乳類においては、インスリンがピルビン酸の完全酸化を阻害するため、多くが乳酸のままとどまってしまうが、鳥においては、インスリンが持続的に抑制されているため、ブドウ糖から生産されたピルビン酸の多くがミトコンドリアで完全酸化される。これにより、鳥は持続的なエネルギー基質の供給ができるようになり、哺乳類では考えられないレベルの運動が可能になったと考えられている。
補足すると、鳥は、インスリンが受容体に結合するものの、シグナル伝達は進行しないことがわかっている。またインスリン感受性の維持に必要な数種の遺伝子が欠損していることから、インスリン耐性が高く、結果として、鳥ではインスリン受容体のリン酸化が起こらず、血糖値やケトン体濃度がヒトより数倍以上高いことが知られている。
鳥は哺乳類に比べ高い運動性能を有し酸素消費も高い一方、活性酸素の放出が少なく、がんや肥満などの生活習慣病になることも稀であり、最大寿命も哺乳類の倍以上とされている。この現象は鳥の生理学では最大の謎の1つとされてきたが、今回の研究成果から、鳥は老化ホルモンであるインスリンの作用が最小限に抑えられることから長寿である可能性が示唆されるとしている。例えばdaf-2と呼ばれる線虫の変異体ではインスリン受容体が失活しているため、野生株に比べ2倍の寿命がある。寿命におけるインスリンの役割は、「インスリン学説」と呼ばれ、老化学説の中心になりつつあるという。