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UK盤LP:「At The HollyWood Bowl」UKだけどUS? マトリックス1/1と3U/3Uの謎

今回は、1977年にリリースされた「The Beatles at the Hollywood Bowl (EMTV 4)」を取り上げます。
ハリウッドボウルは、カリフォルニア州ハリウッドにある野外音楽堂。ビートルズだけではなく、ジミ・ヘンドリックス、ローリング・ストーンズなど多くのミュージシャンがステージにたち、トム・ペティが最後のコンサートを行った会場としても有名です。2025年1月に発生した山火事で一時避難命令もでたとのことですが、その後解除されたそうなので、延焼の危機は逃れたようですね。

英国盤ファーストプレスジャケット。
チケット上部にある「半円」がハリウッドボウルのステージ。
ジャケット裏面。
「ハリウッドボウル」は見開きジャケット(ゲートフォールドタイプ)で発売された。

このアルバムは、ビートルズが1964年と1965年に行ったライブ演奏を収録しています。1964年8月23日の一公演、1965年8月29日と8月30日の二公演が録音されましたが、当初は録音状態があまりにも悪かったためお蔵入り。しかし最終的には1964年及び1965年8月30日の録音を中心に初の公式ライブアルバムとして約10年後の1977年5月6日にリリースされました。
実は同じ77年に、もう一枚のライヴ・アルバム『The Beatles Live! at the Star-Club in Hamburg, Germany; 1962』が別会社からリリースされることになり、急遽EMI側はキャピトルの保管庫に眠っていたこの音源を引っ張り出し、それを「スタークラブ」にぶつけたという顛末だったようです。

さて、今回ご紹介するのは英国盤(ETV4)ですが、マトリクスの異なる2種類が存在します。

UK盤のレーベルA面。ビートルズの公演写真
B面。まとめて収録曲を紹介。

マトリックス その①
ひとつは、末尾が数字のみの「-1/-1」。アビイロードスタジオでマスター&カッティングエンジニアを勤めたHarry T. Moss氏「HTM」の手書き刻印もあります。

A面マトリックス:YEX 969-1
B面マトリックス:YEX 970-1
HTM(Harry T. Moss氏のイニシャル)

その②
もう一つが末尾に「U」の付く「-3U/-3U」。こちらには「MASTERED BY CAPITOL」の機械刻印と、米国キャピトルでマスター&カッティングエンジニアだったWally Traugott氏のカッティングを表すWly(Wally)の手書き刻印があります。

YEX  969 - 3U
YEX  970 - 3U
MASTERED BY CAPITOLの刻印
Wally Traugott氏のイニシャル

その後のリリース状況をそれぞれ追ってみると、

①数字のみマトリックスは -1→-2→(-5:未確認)→-6→-7
②アルファベット付きは 3U→4U→5Uと変遷します。

ちなみに①数字のみのほうは、1980年頃にレーベルのデザインがちょこっとだけマイナーチェンジされ(レーベル周囲のアルファベットが小文字になる)、 -6→-7→(-8:未確認)と続くようです。

この2種類は「UKマスター」と「USマスター」による違いで、どうやら最初からこの2つのマスターで両方プレスされたようです。そしてそのままどちらかに収束することなく平行して再発が続き、最終的にはUKマスターに集約されました。

ビートルズのUK盤で、2つの異なるマトリックスがファーストプレスから混在する例はめずらしいのですが、妄想するに、、もともとハリウッドボウルの音源は米国のキャピトルが録音したので、マスターもキャピトルが作成したもの(Mastered by Capitol )が英国に届いた。が、それを聞きつけた英国のエンジニアのハリー氏(もしくはジェフ・エメリック)は、「よそさんでつくったマスターなんか使えるかいな!」と自分でUKマスターを作り直す。
「どっちがいい音か、勝負や!」と、米国マスターと英国マスターを両方市場に流して世の中の評判をひそかに確認してた、とか??
しかしそうなると忙しい工場でわざわざUKマスターの組み合わせ、USマスターの組み合わせ、と都度スタンパーを交換してプレスしなきゃならないので、現場からは悲鳴があがったに違いない。またA面がUKでB面がUS、といった混在盤も見かけないのでこの説は誤り、ということか。
普通に考えると単に大量プレスをするために、別工場を手配してそれぞれ違うマスターを送った、といったあたりが実情なのかもしれませんが、マスターが2つ残り続ける謎は。。謎のままでした。スイマセン^^;

ところで、肝心の音のほうはというと…
聞き比べてみるとかなり違いがあるように感じます。
-1(UKマスター)は音のレベルが大きく、歓声もうるさいくらいで非常に迫力があります。一方-3U(USマスター)は全体的におとなしい印象ですが、その分演奏は聞きやすい感じです。ちょっと意外。
ハリー(orエメリック)氏は、演奏のクリアさよりも、ライブならではの迫力を優先した、ということか?

このレコードのカタログ番号は「EMTV」というあまり見慣れない記号が使われていますが、これは当時、テレビ広告による大々的なPR企画ものとして特別に付与された番号らしく、

・EMTV1:Beach Boys「20 Golden Greats」
・EMTV2:Glen Campbell's「20 Golden Greats」
・EMTV3:The Shadows「20 Golden Greats」
ときて、4番目がビートルズ。
・EMTV5:Diana Ross & The Supremes「20 Golden Greats」
・EMTVS6:Cliff Richard「40 Golden Greats」
・EMTV7:The Black and White Minstrels「30 Golden Greats」
・EMTV8:Buddy Holly & The Crickets「20 Golden Greats」
・EMTV9:Nat King Cole「20 Golden Greats」
・EMTV10:Frank Sinatra「20 Golden Greats」
・EMTV11:The Hollies「20 Golden Greats」

といったアーティストが並びます。ビートルズ以外はベスト盤ばっかりですね。このあとEMTVシリーズは70番台くらいまで続くようです。

このシリーズはテレビCMなどによって広く宣伝され、ビートルズについては約20万ポンドの広告費が投下されたそうです。その甲斐もあってかチャートの一位を獲得しました。

ところでジャケットに使われているチケットですが、実際のハリウッドボウルの券面は4人の写真がなく文字だけだったので、ビジュアル映えを考慮し1965年のシェイ・スタジアム(4人の写真付きデザイン)のチケットと組み合わせた架空のデザインにしたそうです。

こちらが本物のハリウッドボウル・ライブのチケット(1964年8月23日)(ネットより拝借)
1965年8月29日のハリウッドボウル・ライブのチケット(ネットより拝借)
アルバムジャケットで参考にしたシェイ・スタジアムのチケット(ネットより拝借)

そしてアルバムは「Music for Pleasure(MFP)」という廉価盤レーベルに移行。ジャケを変え、レーベルを変え、マトを変え、リリースし続けます。

mfpロゴマーク
mfp盤のジャケット。
チケットが通常版(青・緑)と通称「ピンクチケット(オレンジ・濃いピンク)がある。それだけで価格は10倍以上に跳ね上がるのだ。
ピンクチケット版のレーベル(mfpのセカンドデザイン)
通販用のロック・ヒストリーアルバム。エルヴィス・プレスリーがVol.1。チャックベリー、ジミヘン、ストーンズ、などがシリーズ化。(Vol.40くらいまである)

さらに、オービスの通販シリーズ「The History of ROCK Vol.26/The Beatles」に、アルバム「Oldies」とのカップリングで収録され、やがてコレクターの手元には、ハリウッド(ボウル)の山が築かれたそうな・・・・

このレコードは「Yokono's Beatles Collection」で紹介しています。


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