フィリピンパブはなぜ人気だったのか
今から16年前の2004年、85,479人のフィリピン人が日本での興行ビザを取得しました。その多くはフィリピンパブで働くことが目的であったと言われていますが、2004年の就労ビザ発給合計数は1631,47件であるため、その過半数を占めるほど、フィリピン人に対して興行ビザが出されていたことがわかります。(現在は興行ビザの規制が強化されたことによりその数は大幅に減少しました。)
フィリピンパブそのものの是非ついては国内外から批判の声もありますが、今回はそれを可能とした制度や背景についてではなく、顧客目線でなぜそれほどフィリピンパブは人気であったのかについてコミュニケーション能力の観点で考えることから、外国人労働者の可能性について考察してみたいと思います。
流行した理由を考えるにあたって、まず思い浮かぶのが、「日本人が働くクラブやバーよりも安かった」、「フィリピン人の女性は美人であった」、「サービスが良かった」といったものが考えられます。しかし、私はそういった理由も当然あるとしながらも、「フィリピン人は日本人よりもコミュニケーション能力が高かった」ことが流行の大きな原因の一つではないかと思っています。
話し手が聞き手に与える影響力についての法則を表したメラビアンの法則では、コミュニケーションは表情やトーンといった「非言語」に関わる要素が大きく、言語情報がコミュニケーションに及ぼす影響は1割未満と言われています。日本人が日本語を外国人よりも上手に扱えるのは当然として、「非言語」のコミュニケーションにおいても、日本人はフィリピン人よりも能力が高いのでしょうか。日本人特有の空気を読むというような観点のコミュニケーション能力もありますが、世界的に見て日本人は内向的であると言われており、場合によっては、初めてのお客様を目の前にして和やかな雰囲気を演出出来るのは、外国人に軍配が上がる可能性があるのではないでしょうか。
確かにフィリピンパブの場合はまた違った側面からの理由も考えなければならないですが、ここで私が言いたいのは、コミュニケーション能力が重要視されるようなサービス業においては、純粋に顧客目線で見ると日本人より、外国人の方が良いと言われる時代がくる可能性が十分にあるのではないかということです。ましてや、これから「作業」としての労働はそのほとんどがAIに取って代わられると予想されていることから、そうした言語を越えたコミュニケーション能力はますます重要視されるとも言われています。
しかし、現代の日本においては、コミュニケーション能力の観点で外国人労働者よりも日本人労働者を好む企業が多いのも事実です。外国人労働者は日本語能力が低いため、コミュニケーションが図りにくいという言うわけですが、これは本当に正しいのでしょうか。
私の経験では、外国人とコミュニケーションが図れないのは顧客ではなく、従業員ではないかという印象を持っています。企業の本音は、「確かに、外国人の方が愛嬌があってお客様から可愛がってもらえるかもしれないが育成の観点で対応が難しい。そのため積極的な受け入れを考えることが出来ない。」といったものではでしょうか。これに、敢えて踏み込んだ言い方をすれば、企業は、顧客目線に立たず従業員目線で楽をしてるという意味に捉えることも出来ます。外国人労働者の問題ではなく、非言語的コミュニケーションに挑戦せず、自らが得意な日本語という狭い領域だけで対応しようとする、日本企業に問題があるとも考えられるはずです。
当時フィリピンパブが流行したのならば、特定技能制度を初めとして、外国人労働者がサービス業に従事出来るようになった今、顧客にとっては、日本人よりも外国人の方が良いと言われる可能性が十分考えられるのではないでしょうか。人件費や日本語能力の問題に捉われるのではなく、日本企業は、日本人と外国人を比べてコミュニケーション能力を適切に判断する目を養うことが大切になってくるはずです。「外国人=単純労働」という考えに固執せず、外国人の総合的なコミュニケーション能力を見極めることで、日本人スタッフに足りない要素を補完してくれる存在とみなすことが出来れば、きっと外国人日本人の双方にとって、より良い社会となるのではないかと思います。