暮らしをよくするために、出来ることから始めたい|しもかわ人名鑑
下川でのリアルな暮らしぶりを町内の方にお話ししていただく、しもかわ人名鑑。今月は自分たちの暮らしの質が向上するような企画の推進を行う「下川りくらしネット」の活動や、四季を意識した日々の食事を大切にしながら暮らす若園佳子さんをご紹介します。(取材日:2021年10月)
トントン拍子に進んだ移住
家具職人の夫と結婚を機に、10年くらいは住めて、暮らしを大切にできるような土地を探し始めました。
暮らしにお金をかけなくても楽しいことがあったり、家賃が安かったり、がっつり共働しなくてもよくて、価値観の合う同世代の友人に出会えそうな場所がよくて。
前に住んでいた香川県には私がやりたい仕事があって移住したので、今度は夫のやりたいことを応援したいなと思っていました。
当時、夫が森林に関わる仕事に興味がありそうだったので、林業で有名な下川町の森林組合で働いている友達に話を聞いてみようと、翌々日の飛行機を予約。友人は急な連絡だったのに休みを取って、下川を案内してくれました。
いろんな方と引き合わせてもらっているうちに、やってみたいと思える求人をたまたま教えてもらって。公営住宅も入れそうなことがわかったので、下川に来た3週間後には引っ越してきたんですよね。
四季を楽しみながら食事をする
家族の食事を3食自分で作ることで日々のサイクルが整いました。食事にお金よりも時間をかけるようになったかな。
食べ物が身体を作っていると思うと、家族の体調管理をできるのは自分だと思うし、外食するとお金がかかるから、その分稼がなきゃいけなくなるしね。
他には四季を意識するようになりました。
今は犬と毎日家の近くの堤防を散歩してるんですけど、1年中同じところを歩いてるから、山菜などの旬を仮に逃したとしても、成長が進んで花が咲いているのを見つけると「あそこにアレあったんだ」ってわかってくるんですよ。
春は山菜採り、秋はきのこや木の実採りとかも楽しいし。
最近は散歩に行くたびに野生のポップを摘んで、夫と一緒に2、3個ずつ缶ビールに入れて飲んでいます。香りがいいので、普通の缶ビールがワンランク美味しくなるんですよ。
そういうちょっとした楽しみで「今日はいい1日だった」って思えるし、自然の中にある美しいものやおいしいものを身近に感じながら生活できるのは幸せなことだなって思います。
実現できる方法を考え出すとおもしろい
森の恵みを楽しむ「森ジャム」というイベントの企画や運営を、移住当初からしばらくは力を入れていました。
森の中に40店くらいのマーケットが出店するんですけど、町内や近隣地域からの出店は半分くらいです。札幌の洗練されたお店と下川でしか買えないようなお店が混在してる、おもしろい風景があります。
マーケット以外にも野外音楽ステージがあったり、ヨガ・マッサージの体験ができたり、焚き火を囲んで大人はウィスキーバー、子どもはマシュマロを焼いていたりと、すごくにぎやかで。町内外で楽しみにしてくれている人がたくさんいます。
運営として、いろんな人のスキルを繋げて森ジャムに全部盛り込んでいくっていうのがおもしろいし、来場者も子どものためでも、大人のためでもなく、お互いに楽しく過ごしているところがすごくいいなって思っています。
最近は「下川りくらしネット」の活動に力を入れています。りくらし(Re:くらし)って「暮らしを変える」っていう意味があって、自分たちで出来る活動をすることで、自分も周りもちょっと楽しくなったらいいなっていう団体です。誰かに要望出すだけでは変わらないからね。
りくらしネットではプロジェクト単位で活動を進めているのですが、今参加しているプロジェクトは、加藤食品さんの「豆腐プロジェクト」です。
加藤食品さんは町の豆腐屋さんです。道内産の大豆で豆腐を作っていた時期もあるそうなんですが、価格的にカナダ・アメリカ産を選ぶ人が多くて。でも今は「豆腐の大豆が道内産だったらいいな」って思ってる人がりくらしネットの中にも多かったので、このプロジェクトが立ち上がりました。
最初は私たちで道内産の大豆を仕入れて、町民から予約を集めていました。加藤食品さんには月1回だけ予約分作って売るようにしてもらって。続けるうちに加藤さんもさらに協力してくださるようになり、今は仕入れから販売までお願いしています。
今まで加藤さんに買いに行ったことなかった人も利用するようになり、加藤さんとお店で話す機会ができてよかったとか、豆腐ドーナツをついでに買ってみたら美味しかったとか、豆腐一丁買うだけじゃない繋がりが生まれたりして。
町内のお店を利用する人が増えることはすごくいいことだし、プロジェクトが立ち上がってよかったなって思ってます。
ちょっとしたことなんですけど、少しずつ暮らしが良くなったら嬉しいしね。「もっとこうだったらいいな」って思うだけではなくて、実現できる方法を考え出していくのがおもしろいです。
自分1人ではなかなか実現できないことも、同じ想いを持つ仲間が数人集まると、前向きに話が進んで形になっていくことがよくあります。
動いた分だけ暮らしが変わる
今下川に住んで8年目なんですけど、月並みな幸せがずっと続いているせいか、気づいたら8年経っていました。
この町の好きなところは、自分たちの暮らしを少しでもよくするために、できることから始めている人がたくさんいること。町の規模が小さいから、なにかをすれば成果も見えやすいし。
やろうと思えば、いくらでも楽しい話はいっぱいあって。どれに参加するかは自分次第ですが、あんまり抱えすぎると家族との暮らしとバランスを保つことが難しくなったりもする。だから、すごくやりたいけど、今はやめておこうってこともあります。
入らなくても何を言われるわけでもないし、やりたいって言えば入れてもらえるし、抜けたいって言ったらいいよって言ってもらえる。その寛容さが下川らしさかなって思います。
interview:めぐ