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ミストバーンの忠義に対する妄想

 本稿には『ダイの大冒険』終盤の重大なネタバレが含まれます。アニメで初めて履修してる感じの人々は今すぐ退避しろ!! 間に合わなくなっても知らんぞォォォォォォ!!!!

 ミストバーン大好きですからね自分。

 『ダイの大冒険』で一番好きなキャラとゆっても過言ではない。

 魔王軍幹部としての彼は冷酷かつ非情で策謀に秀でる感じのアレであるが、それだけの人物ではない。死に物狂いで己を鍛え上げた強者に対して敬意を払い、バーン様には誰よりも忠誠心が高く、そして本来反目しあってもおかしくなかったハドラーとの間にある、友情、などという言葉で片づけるには壮絶すぎる絆。ある程度方向性が決まっていてブレることのない他の人物とは違い、なんというか多面的で重層的なキャラクターなのである。冷酷だが、誠実。

 これはどこから来た性向なのだろうか。何度も『ダイの大冒険』を読み返したが、ミストバーンのこの奇妙な誠実さがどこから来たものなのか、いまだはっきりとした答えは得られていない。というのも、彼の正体は魔界での終わりなき戦いの怨念から生まれた暗黒闘気の集合体である。肉体を持った生命ではないのだ。そして、肉体を持った生物に憑依することによって、その体を我がものとしてきたのである。

 率直に言おう。この正体だけを先に聞いて、どのような人格を想像するだろうか。たぶん、頑張って強くなった奴をバカにする感じの、嫌な小物キャラが真っ先に想起されるのではないだろうか。俺もそう思った。そうなるのが普通だと思うのだ。だが――ミストバーンは違った。自分では「努力して強くなる」ということが決してできないという事実は、彼に肉体を持った生命に対する羨望と、憧憬と、尊敬を抱かせたのだ。ある意味において、不可解なまでのポジティブさである。これはなぜなのか。

 やはり、バーン様、なのではないか。

 作中で一切言及がないので断言はできないのだが、ミストバーンは恐らく魔界でも唯一無二の存在だったのではなかろうか。彼と同じような暗黒闘気意識体が集団で社会を形成しているさまというのはかなり考えづらい。「暗黒闘気の集合体」なのだから、暗黒闘気同士が近くにいると自動的に統合されてしまい、決して同族意識によって結びつく社会は作れないと思うのだ。加えて、その性質上、彼は生き物が抱きうるありとあらゆる欲望を、彼岸のものとして見ていた可能性が高い。なにしろ肉体すらないのだ。争う理由が発生しえないのである。しかし魔界は強者が貴ばれる終わりなき闘争の世界である。この状況下で、果たしてミストバーンは生きる意味を持つことができたのか、というか、生きる意味について思考することがそもそもできたのか、もっといえば「今ここに自分がいる」という最も基本的な自己認識すら危うい存在だったのではないか。憑依したとしよう。誰かと戦って勝ったり負けたりしたとしよう。しかし、そのいずれの結果も、ミストバーンにとってはほとんど何の意味もないことである。勝ったところで、それは憑依した体が凄かっただけのことであるし、負けた所でミストバーン自身は失うものなど何もないのだ。当事者意識の徹底的な欠如。こんな環境下にあって、一体生の実感など得られるのか。「自分はここにいて、確かに生きている」という事実にすら気づけなかったのではないか。

 バーン様とミストバーンの馴れ初めがどのようなものであったのかは、もはや妄想する以外にないのだが、この時ミストバーンは初めて「自分が憑依しない方が強い肉体」というものに出会ったのではないだろうか。

 まぁ、幾多の魔族に憑依するうちに戦闘経験も積み上がりますよ。そして魔族の間では「戦ってる最中に不意に意識が途切れることがある。目を覚ますと敵の亡骸が目の前に転がっている。魔族の戦士にはこのような無意識の戦闘意思のようなものが顔を覗かせることがあるのだ」とかなんとかもっともらしい説明が魔族社会ではなされてたりするわけですよ。で、ミストバーンもこの時は自我がめちゃくちゃ希薄というか、ほとんど無いも同然の状態だったもんだから「そうか、自分はそういう概念なのか」とか誤解するわけですよ。そこで若かりし頃のバーン様ですよ。この御方だけは他の魔族どもと違う。自分が憑依しない方が圧倒的に強いのだ。「自分は魔族の無意識的な戦闘衝動の概念そのものである」という理解では決して説明できない現象が目の前に突きつけられてしまったわけですよ。それはミストバーンにとって、衝撃的な体験だったのではないか。これまで自分は影響を与えるだけの存在であると考えてきた。肉体を持った生命よりも上位の概念として自らを定義していたのだが、この出会いによってそういう世界観は崩壊したのだ。

ひょっとして、今、ここに、「私」と呼ぶべき何者かが、いるのか……?

 バーン様と出会うことで、初めてミストバーンは「自己認識」という高等知性のみが持つ特殊な意識の在りようを獲得したのではあるまいか。

 普通、人間が自己認識を獲得する瞬間なんて誰も覚えてませんよ。その当時は物心がつかず、ボンクラな認識であったから、自分の意識にどれほど重大な変化が生じたか理解できず、スルーしてしまうのである。

 だがミストバーンは違った。自己認識が発生した時点ですでに鋭利な知性を有していた。ゆえにことの重大さに気づくことができた。

 天と地がひっくり返るようなパラダイムシフト。

 その衝撃をもたらした存在から、「おまえは余に仕える天命をもって生まれてきた」などと言われたらどうなってしまうのか。絶対的な忠誠を捧げる理由としては、多少、納得しやすくなったような気がするんですが、いかがでしょうか、諸氏。

 いやちょっと待ってこれ「自力で強くなれる存在への敬意」の理由じゃなくて「バーン様への忠誠の理由」やんけ。記事の最初と最後で求める答えがズレとるやんけ。あほか!!!!

 劣等感が負の方向に向かわなかった理由については、各自妄想を逞しくしていただきたい。閉廷!!!!!!!!!!

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バール
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