「ジェンダード・イノベーション」で、豊かで公正な社会へ
注目を集めるフェムテック
女性をエンパワーする気運が高まり社会進出が進むなか、問題として浮き彫りになってきたのは、生理や更年期などの女性特有の健康・ライフスタイルの課題による経済損失。
経済産業省によると、例えば生理については年間約4,900億円、更年期については約6,300億円にものぼる経済的損失があると試算されています。
この数字は、女性たちが体の悩みや課題に悩み、活動を制限されたり願いを諦めるなど、不自由さや不便さの中で生きてきた現れでもあると言えるでしょう。
不妊や妊娠なども、女性と社会の壁となりえる大きな課題です。
ですが、近年では、それらをタブー視するのではなく、女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスが活性化。
これらは、Female(女性)と Technology(技術)を掛け合わせた造語で「フェムテック」と呼ばれるようになり、吸水ショーツや生理管理アプリなどが牽引しています。
「フェムテック」は2021年の「新語・流行語大賞」にもノミネートされるなど、高い注目を集めているのです。
見落とされてきた女性たち。「ジェンダード・イノベーション」とは
女性特有の課題解決のための、もう一つの大切な概念に「ジェンダード・イノベーション(gendered innovations)」があります。直訳すると「性差に基づく改革」。
「ジェンダー」は日本語では「性別」と訳されます。ですが、ジェンダーは“生物学的な”性別ではありません。男性だから、女性だから、と性別によって期待される“社会的・文化的役割としての性別“のことを指します。
これまで、科学技術や学術分野においての研究・開発は、性差が考慮されておらず男性視点で行われてきたものが数多くあります。すると、必ずしも女性には当てはまらない場合もあるのです。
有名な事例では、車のシートベルト。男性の体型を基本として開発されているため、自動車事故に遭った場合に傷害を負う確率は男性よりも女性の方が圧倒的に高いことがわかっています。妊婦において自動車事故が起きた際に胎児の死亡例が数なくないことがわかりました。”妊婦はシートベルトを使うべき”と言われているにもかかわらず、シートベルトが妊婦に適合していなかったゆえにリスクが高くなっていたのです。
このように「男性の視点」「男性の前提」で研究・開発されたものは世の中に数え切れないほど存在しています。そこには、女性を差別しよう、ましてや女性のリスクを高めようという意図はなく、おそらく潜在的にある意識の中で、女性の視点は見落とされ、自然に男性の視点のみで物ごとが進んできたのでしょう。
「ジェンダード・イノベーション」は、性差に基づいてイノベーションを創出する概念のこと。日本政府は「女性活躍・男女共同参画の重要方針2022」の中で、「科学技術・学術分野において男女共同参画を進め、研究・技術開発に多様な視点を取り入れていくことは、ジェンダード・イノベーションの創出にもつながり、重要である」と述べています。
性別に関係なく有用な製品・サービスになっているかを問うことがより強く求められていくでしょう。
性別の視点をもつことが、誰もが生きやすい社会のスタートライン
女性特有の健康・ライフスタイルの課題をテクノロジーを用いて解決しようと注目を集めるフェムテックも「ジェンダード・イノベーション」の一つ。大切なことは、ジェンダード・イノベーションはその対象が女性だけではないということです。
例えば女性だけのものと思われていた更年期は男性にもあり、40代以降の男性ホルモンの低下とともに更年期症状があることが言われ始めています。ですが、その期間が長い場合があること、高齢になってから発症する場合があることなど、社会の理解が十分とは言い難いのではないでしょうか。男性を襲うさまざまな症状に無理解な中では「協力的ではない」「やる気がない」などの誤解を生むケースもあるでしょう。
男性も使うものなのに、開発視点が女性だけであるものも存在します。「女性はメイクをするが、男性はしない」こんな固定観念も、個々の多様性を求める世の中では疑問視されていくかもしれません。
ジェンダード・イノベーションには「女性もしくは男性のみに起こる問題を解決すること」もあれば「男女ともに起こる問題をそれぞれの環境や状況に配慮して解決すること」もあります。身近なところにも多数ある、見落とされてきた性差による視点に意識を向けることが思いやりの一歩に。
そして、この考え方は性差だけにとどまらず、多様な生き方をする全ての人に当てはまるのではないでしょうか。互いに違いを認めて理解し合い、思いやる心をもって協力することが、誰もが生きやすい社会につながっていくでしょう。
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