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#161_【イベント】泡ひとつよりうまれきし 山内光枝展

少し前の話になりますが、高校の地理の先生から、かつて家船(えぶね)や海女の研究をしに対馬に行ったことがあるという話を聞き、その後すき間時間に家船や海女さんをテーマにした本を読んでみました。

しかしながら、本の中で描かれている船上暮らしの様子が、私の実生活とあまりにかけ離れていて読み進めるのに苦戦し、もう少し対馬のことを勉強してからでないと理解が深まらないなぁ…と感じていました。

それからまた時が経ち、そんなことがあったという記憶も薄れてきた頃、対馬博物館で対馬の海女に関する企画展が始まりました。


対馬の海女とは

対馬の海女の祖先は、鎌倉時代に筑前鐘崎(現在の福岡県宗像市鐘崎)から移り住んだと伝えられ、 もともとは津々浦々に寄港しながら船上で生活していました。
江戸時代中頃、曲(現在の対馬市厳原町曲)に定住するようになります。曲は対馬で唯一、島主である宗氏から、島の全海域での漁を許された集落でした。それは、宗氏が南北朝から室町時代にかけて、主君である少弐氏の復権のために九州に兵を進めた際に、海士集団が宗氏を助けたからといわれています。この漁業権を認めることを記した「曲海士文書」は、地区で大切に守られ、現在まで残されています。

江戸時代は「鎖国」と呼ばれていた時代ですから、とりわけ異国に近い対馬では、近海でおかしな動きをされたらたまらんということで、漁はおろか海に出ること自体に制限があったのだろうと思いますので、特別に許された待遇だったということです。
それでは、漁が許されていた曲の人たちの暮らしは安定していたかといえば、そんなこともなかったようで、府中(現在の厳原)に海産物を上納する義務があったそうです。

中の展示物に触れる

部屋は大きくふたつに分かれており、手前には山内さんの「潮で描いたドローイング」と、普段は曲の生活館にある海女船(家船)の模型、そして、曲の盆踊りの映像が流れています。

【対馬や鐘崎などの海水で描かれたドローイングです。】
【曲の盆踊りの映像(山内さん撮影)と家船の模型です。】
【海を漂っているような、海中を潜っているような、という気分に浸れます。】
【家船の中はこのようになっていたそうです。】

所有者の取り計らいで、ドローイングや家船の模型は触れることが可能です。ドローイングの潮の手触りや、家船の構造を、自分の手で確かめることができます。

そして、もうひとつの展示室では、山内さんが制作し「東京ドキュメンタリー映画祭2019」で奨励賞を受賞した作品「連れ潮」の上映や、写真家の芳賀日出男さんが撮影した海女さんの写真、海女さんが使っている漁具などが展示されています。

【連れ潮のひとコマ。】
【海女さんの漁具などが展示されています。】

山内光枝さんに聞く

山内さんにとって海女文化との出逢いは、2010 年頃、曲集落で撮影された裸の海女が佇む一枚の古い写真だったそうです。

何に惹かれたのかと思い尋ねると、「社会人として生活しながら息苦しさのようなものを感じる中で、身ひとつで、海みたいな予測できない環境に身を浸し、暮らしているのに興味があり、それがレジャーでもマリンスポーツでもなく、生きることのひとつとして、頭で考えるでもなく、毎日の暮らしを通して海から見ている世界観を感じた」とのこと。

山内さんは、海に惹かれてというより、海女の生き様に魅了されたということだったのですが、その後海女さんの営みを同じ空間で経験しようと済州に渡り海女学校を卒業したとのこと!!(゜ロ゜ノ)ノ。
ご本人はけろっと、「どうしていいか分からないから行っちゃえみたいな(感じで済州に渡った)。こうでもしないと、家で寝ていたいタイプ」と答えていますが、普通の感覚の持ち主ではなさそうですf^_^;)。

こういった経験を通じて、自ら海に潜って撮影しながら、海女さんの営みを記録したり、本当の日常を一緒に感じたりしてきたものが、表現のどこかに表れているのだろうと感じます。

クロストーク

この企画展の会期終了前日、9月22日に、作家の山内光枝さんと鳥羽市立海の博物館の石原真伊さんによる「クロストーク」(要申込)が予定されています。
鳥羽といえば、伊勢の海女さんがいるところですから、また違った海女文化が受け継がれているのだろうと思います。
どのようなお話が展開されるのか、非常に興味深いですし、初日山内さんにお目にかかれなかったという方は、この日に訪れてみるのはいかがでしょうか(^^ )。

個人的な感想など

博物館の回し者ではありませんが、世間の人が抱いているであろう、原始的とか、古くさそうとかいう海女さんのイメージをひっくり返しそうな、斬新で見応えのある展示でした。

展示室を海水のドローイングで囲み、家船(海女船)の模型の下には波を投影して、その横では曲の盆踊りの映像が流れているという、これだけでもしばらくじっと見ていられそうです。

表現方法には先鋭的な印象を持ちますが、山内さんが海女さんに密着してきた経験があるからでしょう、無理なく自然な感じに見られて、素直に「カッコイイ!」と感じました(^_^)b

お時間がありましたら、ぜひ足をお運びくださいo(^-^)。

泡ひとつよりうまれきし 山内光枝展 概要


企画展の概要は以下の通りです。

・会場
 対馬博物館 特別展示室1・特別展示室2
・会期
 2024年7月13日(土) 〜 2024年9月23日(月)
・開館時間
 09時30分〜17時00分
・休館日
 木曜日(祝日の場合はその翌平日)
・観覧料
 一般・大学生 300円(240円)高校生以下無料
 ※( )内は15人以上の団体料金
 ※市民は上記観覧料から110円減額

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