#164_【近代化遺産】芋崎砲台
浅茅湾を船で航行していますと、 もこもこした島と入江と半島だらけで、初めての方からしますと、自分がどこにいるのだろうか…という感覚に陥ると思います。
それでは船乗りの方々は、どのように自分の居場所を把握していたのでしょうか。
都会で暮らしている方は、高い建物や斬新なデザインの橋、昔であれば煙突や鉄塔あたりを目印にしていたのではないかと思いますが(ランドマークなんて言い方しますよね)、船乗りの方は特徴的な形の山や岩などを目印にしながら航海していました。
対馬は全国の市町村の中で、名前が付いている山が日本一多いそうですが、それもその名残かもしれません。
そのような浅茅湾の景色の中で、ひときわ異彩を放つランドマークがあります。そのひとつが、前回の記事で紹介しました芋崎です。
ロシアが半年間占拠したことにも触れましたが、ロシアが退去した後はどうなったでしょうか?
その続きの話をと思い、芋崎砲台をご紹介します。
何を目的としていたのか
ロシアが退去し、伊藤博文、山県有朋らが視察した後、浅茅湾内の竹敷に海軍の要港部が設置されましたので、要港部を護るために建造されました。
当時の大砲の性能では、砲弾が数キロしか飛ばなかったと思いますが、浅茅湾内を通航する船が攻撃対象であれば、この程度のスペックでも十分役割を果たせたのでしょう。
ちなみに、同時期には、芋崎砲台のほか、大平砲台(美津島町昼ヶ浦)、温江砲台(豊玉町貝鮒)、大石浦砲台(豊玉町深里) と、計4つの砲台が建造されています。
どのような砲台だったのか
芋崎砲台は、日清戦争前の1887(明治20)年4月から翌年10月にかけて建造されました。
その後、日露戦争前の1897(明治30)年頃に改築され、石造りとレンガ造りが混ざったつくりになっています。
28cm榴弾砲が1+2+1の4門配備されており、棲息掩蔽部は半地下になっています。
また東側には、第二次世界大戦中の対馬要塞防空隊の陣地があり、円形に石が組まれた砲座や塹壕らしきものが確認されます。
そして、戦争と関係ない話ですが、終戦後、旧軍の弾薬庫や兵舎は隣国から日本に密航する人々の格好の隠れ場だったらしいという話がありますが、芋崎砲台の通信室の中には、オンドルらしきものがあります。
そして、砲台がある場所からロシア兵が上陸、占拠した場所に下り、さらに芋崎灯台がある方角に向かって歩きますと、塹壕のような通路が出現します。
そして、さらに奥に進みますと、電燈井(探海灯を格納する場所でしょうか)が出てきます。
レンガ造りで、こちらもなかなか趣のある雰囲気です。
電燈井から灯台に向かって行くと、陸軍用地と海軍用地の境目を表す境界標があります。
境界から奥側(灯台側)は海軍用地となりますが、ところどころに人の手で整地されたと思われる場所や茶碗、レンガなどの破片が見られます。
最近本で調べたところ、このあたりに、海軍の砲台、火薬庫、兵舎、付属便所、そして桟橋があったそうです。
次回訪問した時には確認しておきたいと思います。
日露戦争が終わったらどうなった?
1917(大正6)年、城山砲台とともに除籍されました。
竹敷要港部が1912(大正元)年に廃止されましたので、それとともにお役御免となったのでしょうか。
現在の芋崎は
シーカヤックしている人や釣りをする人を見掛けることはたまにありますが、半島の地形ですし、普通に観光をする人が来るような場所ではありませんので、陸上で他の方とすれ違ったことはありません。
個人的には、ジオ好きの方に来ていただきたいです。
砲台めぐりの注意点!
芋崎に限らず全島の砲台で言えますが、対馬は三浦半島(神奈川県)や友ヶ島(和歌山県)のような観光地ではありません。
井戸、通気孔、電燈井などに、フタやチェーン、ロープなどの囲いはしてありません。そして、携帯電話の圏外が多く、現地まで簡単に救助に行けませんので、絶対に落ちないようご注意ください。
※とくに、落ち葉の積もる時期は要注意です!
交通アクセスなど
芋崎砲台は、 地区で言いますと美津島町昼ヶ浦になります。
昼ヶ浦の集落に向かっていく一本道を通って突き進んでいきますと、漁港の少し手前あたりで、左側に「芋崎」と書かれた矢印看板が出現します。
その周辺で車を駐めて、軍道を道なりに30分ほど歩くと到達します。
入口まで車で、厳原から約40分、雞知(対馬空港)から約25分、比田勝港から約2時間です。
さいごに
現地を訪れると、人とすれ違うこともありませんので、無になれそうな空気が漂っておりますが、この場所から幕末日本の歴史が動きだす出来事が起こったと考えますと、私個人の感想ですが、とてもゾクゾクしてきます。
浅茅湾内には、多くの近代化遺産が残っており、それらをめぐるガイドツアーを実施しております。
モデルコース以外にも、お客様のご希望に応じ行程のご提案もいたしますので、ご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?