
【ショートショート12】『ツルツル滑るシャープペン』
このシャープペンはツルツル滑る。
どんな時に滑るか、 常に滑っている。
ペンケースから出す時には、つかんだはずなのにツルっと手から滑り落ちてしまう。
このシャープペンは本来、子供たちの筆圧の強化を目指して開発されたものであった。
シャープペンメーカーが子供達の筆圧が落ちていることを危惧した学校からの依頼で開発したのだ。
メーカーはシャープペンがツルツル滑ることでしっかり握ることになるので、筆圧が上がるのでは?と考えていた。
だが、教室内は常にツルツル滑るシャープペンの落し物であふれた。
あるシャンプー会社が、このシャープペンのようにシャンプーの時にツルツルとなめらかな指通りを実現できないか?と考え、研究を開始した。
研究員たちは全員、研究のためにツルツル滑るシャープペンを使うように指示された。
その日からシャンプー会社の研究員たちと、ツルツル滑るシャープペンとの格闘が始まった。
実際のところ研究どころではなかった。
ペンケースから出すとツルっと滑る。
ようやく手に握っても書いてるうちにシャープペンが手から滑り落ちる。
机に置いていても気がついたら床に滑り落ちている。
床に落ちているツルツル滑るシャープペンを他の研究員が踏んづけてツルッと滑る。
ツルツルの連鎖だ。
そんなツルツル滑るシャープペンを見事に使いこなしている人物がいた。
それは世界一 指通りのいいシャンプーの開発を目指す研究員のマークだった。
マークの髪の毛はくせっ毛だった。
彼は毎朝、自分のくせっ毛と格闘するがそれも虚しく、もじゃもじゃのくせっ毛のまま出社せざるを得なかった。
他の研究員がツルツル滑るシャープペンを床に落として踏んづけてツルっと滑って転んでいる間も、彼だけは自分の髪の毛という素晴らしい実験材料を用いてツルツル滑るシャープペンを使い研究していた。
そのシャープペンには特殊な塗料が使われていることを彼は突き止めた。
それは「うなぎ塗料」と呼ばれる船舶の底に使われる塗料だった。
うなぎ塗料と言われるだけあってヌルヌルなのである。船底に貝が付着するのを防ぐためにわざとヌルヌルの塗料を開発し船底に塗っているという。
ツルツルすべるシャープペンは、うなぎ塗料のヌルヌルを利用していた。
「ツルツルではなく、ヌルヌルか!」とマークは叫んだ。
マークは髪に優しくてヌルヌルしているものを探し求めた。
ある日、研究員を労うために宴会が催された。 宴会では 研究員の親睦を深めるためいくつかのテーブルに分かれて鍋をつつくことになった。
マークは鍋奉行を買って出た。
本当はやったことなかったのだが 何事も挑戦である。
昆布でお出汁をとる。
鍋に入れておいた昆布を取り出そうとしたら お箸がツルっと滑ってなかなか昆布が取り出せない。
マークは昆布と格闘する。
その時ハッと気がついた。
そうだこのヌルヌルだ!昆布のヌルヌルを使えば、髪の毛がツルツルになって指通りがよくなるはずだ。
あー、今すぐにでも自分の髪で試したい…
次の日からマークは日本全国の昆布を仕入れて 研究に使った。
マークは膨大な昆布を費やし、髪の毛に優しいツルツルの指通りのシャンプーを見事に開発した。
研究で余った昆布は他の研究員たちと美味しくいただいたということである。
(おわり)
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記念すべき第12弾です!
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