【35話】離婚への道「リスクを恐れず家を出よう」
一時は浮気相手の元へ走る思いもあったが、ゆっくり静かに火照りは冷めてきた。かと言って、この時点で夫と再び仲良しになり、人生を一緒に歩む自信もなかった。
昼間は間借りしているオフィスが唯一私の自由な居場所。そこは生活拠点ではないが、家に戻れば彼の支配圏となる。忙しいわけでもないのにオフィスに居る時間は長くなり、夕食も一人で机に向かってスナックを食べる毎日。ゴミ箱にはスナックの袋がいつも満杯になっていた。
だから帰るのはいつも夜中前。
夫からは毎日のように、マイルやガソリンの諸経費、どこに行ったか、誰と食事をしたか、内容なども細かいことを聞かれ(Taxの為と夫は言うが)、それが嫌でたまらなかった。何もかもが中途半端な生活。そしてついに心の叫びは行動へと向かった。
「家をでよう。たとえリスクを負っても」たとえ小さな部屋でもいい、自分の居場所を探そう。夫がいない落ち着く場所を。
フリーランスというグレーな職業は収入がある時とない時の差が激しい。今月稼いでも来月はゼロということもありえる。いままで生活基盤を維持する為に、私もまた夫に依存していた。だからこんなダラダラ生活を続けいつまでも動けずにいた。
「ゼロに戻ってまた1人から始めたらきっと何かが変わる。元々私はアメリカに1人でトランク一つで来たんじゃないの。強いはず」と自分に言い聞かせた。
ベイエリアで独り身の住む場所といえば、本来高収入でない限り誰かとアパートや家をシェアするのが一般的。でもどこでも良いわけでないのがネックだった。私はビジネスを自分で持っているので、私が移動するところは同時にオフィスにもなる。せめて机が置ける場所を探さなくてはいけない。せめて今仕事があるうちに移動しなきゃ。
もし良い部屋が見つかったらすぐ引越しをしなくてはならない。その体制準備も整えなければ。まずは今借りているバークレーのオフィスの退去。しかも夫に勘繰られないように。決まったらすぐ行動をとるーー覚悟を決めた。不倫事件とは全く関係ない。これは私自身の再出発なのだ。
着実に準備を進め始めた。「オフィスメイトが退去することになったので、私も退去する」。また夫に嘘をついた。退去するということは、すなわちオフィスにある全ての荷物を2人が住む狭い家に移動させなくてはいけない。これが大変な作業だった。
もう6年も間借りしている部屋には(他のスモールビジネスと部屋をシェアしている)電子機器、書類やモノがびっしり積み上がっていた。この時点から約6ヶ月間、私はずっと家で夫と同じ部屋で仕事をすることになる。
その間、幸運にも発電所への出張も多くあったので息抜きができたのはせめてもの救いだった。
家にいる時は度々物件を見に行った。その頃ベイエリアの家賃は高騰していた事もあり、予算ないで理想の部屋は中々見つからなかった。でも確実にX dayが近づく足音は聞こえていた。
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