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第三回:『コブラ会』

堀口麻由美『カルチャー徒然日記』
Text:Mayumi Horiguchi

80年代を愛する人に超絶オススメなドラマ

※TOPの写真は、BEAMS JAPAN 4階「TOKYO CULTUART by BEAMS」にて、コブラ会のグッズが販売されている時に貼られていた特製ポスターを筆者が撮影したものです

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今年の年末年始は、『コブラ会』沼にどっぷりハマった日々だった。「狙ったな……」としか思えないシーズン4の開始日は12月31日! そんな日から配信スタートだったので、ノンストップで一気に全エピソード制覇を狙う派と、毎日1話ずつ鑑賞する派に分かれたはずだが、今回は後者の道を選んだワタクシ。話がちょいズレるが、元最強ヤクザの主夫な日常をコメディタッチに描いた漫画『極主夫道』(おおのこうすけ 著)を「LINEマンガ」にて、寝る前に楽しく読んでいる。「LINEマンガ」は24時間後に掲載マンガの続きが読めるシステムなのだが、そんな感じで、ワクワクと翌日を楽しみに待ちながら観ることを、今回の『コブラ会』シーズン4についても選んだのだった。ちなみに『極主夫道』は1話完結型で比較的ページ数も少なくサクっと読めるのだが、『コブラ会』も1話あたりの再生時間が30分程度なので、気軽に楽しむことができちゃう点も素晴らしいことを、ここでまず言及しておきたい。

『コブラ会』は2018年に放送開始したドラマで、YouTubeの配信サービスだったYouTube Redで初公開された。評判が良かったせいなのだろう、シーズン3からはNETFLIXで配信がスタート、全世界で大ヒットを飛ばし、すでにシーズン5へと更新されることも発表されている。1984年製作のアメリカ映画『ベスト・キッド』(原題:The Moment of Truth / The Karate Kid)とその続編映画シリーズの「その後」が描かれているのだが、このドラマが冴えているところは、当時の出演者と同じ役者が何人も登場し、同じキャラクターを演じているところ。主役、脇役をふくめ、とにかく可能な限り多くの、同じ役柄を演じた俳優が登場するのだが、皆、年だけはとっている。残念なのは、『ベスト・キッド』シリーズにて主人公の少年を導く「センセイ」である日系人の空手家、ミスター・ミヤギを演じたノリユキ・“パット”・モリタが既に亡くなっているため登場していないこと。存命だったら、絶対彼もキャスティングされていたことは間違いないのだが......。まぁ、レガシーの数々は、いやというほどドラマに登場するので、問題はないが。

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加えて『コブラ会』においては、主役がスウィッチしているところも興味深く、それが物語をより面白くしている。本ドラマの主役は、『ベスト・キッド』シリーズで主役だったラルフ・マッチオ演じるダニエル・ラルーソではない。「悪役」で「敵」だったキャラクター、ジョニー・ローレンスなのだ! ジョニーを演じるのは、ウィリアム・ザブカ。元主人公と彼のライバルだった2人が、34年後に再会、それぞれの子どもや弟子がさまざまな場面で対立し、戦い、修行に明け暮れる。ちなみにタイトルの『コブラ会』は、ジョニーが所属していた空手の道場名に由来している。

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道場名がタイトルなぐらいなんで、「修行」は当然のごとく、バシバシ行われる。特に今期シーズン4では、修行シーンの多さと良さが目立っていた。ジャッキー・チェン主演のカンフー映画『少林寺木人拳』(原題:少林木人巷、英題:Shaolin Wooden Men)がナイスな理由として、修行シーンがひたすら続く点を挙げたいぐらいだし、クエンティン・タランティーノによる映画『キル・ビル』(原題:Kill Bill)シリーズでもユマ・サーマンが修行ばかりさせられたり、していたことを思い出して欲しい。マーシャルアーツ映画における「修行」の重要性について、バッチリと理解し脚本に反映している点が、『コブラ会』を輝かせている。

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そして、前述したように、主役が「ダニエルさん」ではないところが、また良いのだ。ダニエル=ダニーは、本ドラマでは成功者となっており、美人妻と子ども2人と豪邸で暮らしている。かたや、ダニエルに負ける前は少年空手選手権のチャンピオン&不良チームの頭で「世界の中心はオレ!」的に楽しくやっていたし、80年代には金持ちの息子だったジョニーは、落ちぶれた悲しい中年オヤジとして、しがないアパートで暮らしている。しかしそんな彼が、「空手」と「他者との関係性」によって、自らの人生を前向きな方向へとシフトしてゆく。その道中において、彼を取り巻く人物も共に成長していくさまを描いているのが本作だ。そういった作りとなっているので、80年代に『ベスト・キッド』シリーズのファンとなった世代と、その子どもたち世代が共に楽しめるのだ。そんな点も、本ドラマが大ヒットしている理由だろう。


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最近の海外ドラマは、みんなこのあたりがちゃんとしている点がいいなぁといつも思っているのだが、本ドラマにおいても、楽曲の選び方がナイス! 80年代に公開された『ベスト・キッド』の「ノリ」を壊さないためなのだろう。地元民からは「バレー」と呼ばれているロサンゼルス北部に位置するサンフェルナンド・バレーを舞台にした現代アメリカを描いたドラマにもかかわらず、ラップやヒップホップ、R&Bは重要視されていない。代わりに重きが置かれているのは、80年代のものをはじめとする、ビルボードホット100系の大ヒット曲と、LAメタルやハードロック系だ。ダニエルとジョニーのキャラが、音楽を通じてよく理解できるようになっている。たとえば、ダニエルとからんでフィーチャーされる楽曲は、80年代当時、普通に流行った大ヒット曲であるREOスピードワゴンやフォリナー、ジャーニーなどが選ばれている。一方、ジョニーとからんでくるのは、ラット、モトリー・クルー、メタリカ、ポイズン、ガンズ・アンド・ローゼズなどだ。現代のロスおよびその近郊を描いているのに、ヒップホップやR&B系の楽曲が普通に登場しないのは、絶対に「あえて狙っているから」としか思えない。思うに、ダニエルとジョニー、ふたりの弟子たちが、今どきの若者感がちょい低く、ある意味ナードっぽかったりするし、特定のひとつのこと=空手に熱中している様を描くのには、トレンディな音楽は不要と思ったのだろう。実際に、それらが登場しないことにより、良い意味でドラマの「ドリーミー感」が高まり、80年代という時代そのものが放っている、ある種独特な、浮遊感あふれるノリともつながり、観るものを高揚させてくれるのだ。そんな楽曲選びを行なっている点も、本ドラマを褒めるしかない理由のひとつなんである。

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驚くべきことに(?!)、『コブラ会』は第73回エミー賞コメディシリーズ部門作品賞にノミネートもされている。80年代に映画『ベスト・キッド』を観て心動かされたアナタはもちろん、「なんか人生うまくいってないなぁ」と「ミッドライフ・クライシス」に悩むアナタも、ティーンエイジャーも、みんなが一同となって楽しめちゃうドラマなんで、未見の方はぜひ! ワタクシはといえば、現在「コブラ会ロス」に陥りつつ、シーズン5の配信開始日を心待ちにしております。

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コブラ会・NETFLIXサイト https://www.netflix.com/jp/title/81002370



堀口麻由美
ほりぐち・まゆみ。Jill of all Trades 〈Producer / Editor / Writer / PR / Translator etc. 〉
『IN THE CITY』編集長。雑誌『米国音楽』共同創刊&発行人。The Drops初代Vo.

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