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第二十一回:『写真家 ソール・ライター展』
堀口麻由美『カルチャー徒然日記』
Text & Photo:Mayumi Horiguchi
ニューヨーク・ニューヨーク
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ソール・ライター生誕100年を記念する展覧会『ソール・ライターの原点 ニューヨークの色』に行ってきた。
本展では、新たに発掘されたライターのモノクロ写真や絵画を含む400点以上の作品が紹介されている。会場は渋谷ヒカリエ9F・ヒカリエホールだ。ここ東京では2017年と20年、2回にわたり、渋谷の「Bunkamura ザ・ミュージアム」でソール・ライター展が開催されているのだが、今年4月から「Bunkamura」が休館(オーチャードホールを除く)しているため、会場はヒカリエに変更となった。会期は8月23日まで。
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ソール・ライターは米の写真家だ。1923年、ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ。父親はユダヤ教の宗教的指導者“ラビ”で、自身も神学校に通っていたのだが中退し、1946年、画家を志してニューヨークに移住した。1950年代後半に『ハーパーズ・バザー』誌でフォトグラファーとして仕事を始めた。同誌は1867年にニューヨークで創刊された、世界最古の女性向けファッション雑誌だ。以後、80年代までは、数多くのファッション写真を手がけていたのだが、50代で表舞台からは姿を消す。その後、2006年に写真集『Early Color』(独シュタイデル)が出版されるまでは、世間から忘れられていたという。日本でも、前述の展覧会が開催されるまでは、ほぼ無名だった。だが今日、その名は、独特の作風とともに、広く世に知られている。
そんなソール・ライターの「作品」といえば、窓越しに見えるぼんやりとした物体や人物、雪や雨つぶ、ガラスや鏡の反射を利用して撮ったものなどが「らしい」が、本展では1950年~60年代頃に撮影された未発表モノクロ作品群なども展示されており、興味深かった。特に、その当時、徐々に名声を上げつつあり、いまでは「巨匠」と呼ばれているアーティストたちのポートレートを堪能できて、よかった! 特にアンディ・ウォーホル、ロバート・ラウシェンバーグ、ジョン・ケージの写真が好きだ。
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ウォーホルといえば、大量消費・生産物をモチーフにした作品をアートへと転換させた「ポップアート」の旗手として有名だが、50年代には広告・ファッションの分野でイラストレーターとして活躍していた。その頃に撮影されたポートレートは、心なしか不安げで、「小心者」っぽさが漂っている。
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それとは逆に、ラウシェンバーグはとても「偉そう」だ。展示作品は、作曲家のジョン・ケージと絵を見にきた際、ストロボ・テストのためにポーズをとったものだ。画家であるラウシェンバーグは、60年代後半には、ケージらとダンスやパフォーマンスを手がけたりもしている。芸能的な才能も持ち合わせているのだろう。だからなのか?! 隠しようもない生来の派手さが、写真からも滲み出ている。
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そんなラウシェンバーグとお互いに影響し合っていたケージは実験音楽家として著名で、前衛芸術における重要人物だ。1948年頃に撮影された写真は、後年、見慣れたものよりも表情が硬めで、神経質っぽい。若さゆえの芸術的苦悩などを抱え、いろいろとストラグルしていたのかもしれない。
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後の大物たちの若き日をライターが撮影した写真群は、そんなふうに思いを巡らせるための手助けをしてくれて、見ていて楽しかった。
キャプション
「ソール・ライターとファッション写真」セクションに展示されている各種『ハーパーズ・バザー』誌
そしてモノクロ・コーナーが終わると、そこからは華やかな「カラー」の世界がぱぁっと広がってくる。ライターが1958年から60年代に『ハーパーズ・バザー』誌のために撮影したファッション写真が多角的に公開されている一角は、まさに「華やかさ」の極みで、「これぞファッション!」という感じ。だがじっくりと目を凝らすと、それらの雑誌の誌面に掲載された写真群には、「ソール・ライターならでは」のテクや雰囲気がたっぷりと詰めこまれているので、やはり「ただのファッション写真」ではないのだ。本当に、油断がならない。
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続いて目にするのは、またもやカラーの洪水だ。ソール・ライター財団が選定した「センテニアル(生誕100年記念)・セレクション」の写真作品と合わせて、画家を目指していたライターが描いた絵画が展示されているコーナーがそれ。あやふやで、ゆらりとした線で描かれた絵画は不安定な美を放っており、写真作品と通底するところがある。ここでの展示作品群を見ると、ライターが印象派や日本の浮世絵から強い影響を受けていたことがよく分かる。
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そんなライターが1952年以降、60年間住み続けた場所は、ニューヨークはマンハッタンの東10丁目(EAST 10th STREET)に位置するアパートだった。ここはアトリエも兼ねていたのだが、本展では、そのアトリエの一部を再現した空間も設営されている。ニューヨーク事情に詳しい人ならご存知だろうが、今イケてるのは、断然「ブルックリン」。だが、少なくとも20世紀までは、ロウアー・マンハッタンは「アーティストにとっての街」だったといえよう。筆者もライターが住んでいたエリアには馴染みがあるので、アーティーなニューヨークの風を感じながら、創作活動を含むライターの日々の暮らしぶりについても想いを馳せることができ、エンジョイできた。ちなみに芸術家にはよくある話だが、家賃滞納をした挙句、このアパートからの退去を迫られたりもしていたそうだが、結局はずっと居続けた。
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ライターが亡くなったのは2013年だが、その翌年に膨大な作品を整理するための財団が設立され、アーカイヴをデータベース化する「スライド・プロジェクト」が始まった。本展では、“目玉”として、ヒカリエホールの大空間を利用して、10面の大型スクリーンに、2020年以降に新たに発見されたカラースライドを含む作品群約250点を投影するという試みを実施。観客は、<カラー写真をスライドショーで投影して見る>という鑑賞方法で、ライターがクリエイトした色彩世界を満喫できるというわけだ。暗室かどこかで作品を覗き見ているような、あるいはクオリティのチェックをしているような、不思議な気分をも味わえた。
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様々な手法でもって、ライターという作家の真髄に迫ることを試みた本展を体験&体感して、写真というものが持つ魔力を、またひとつ深く知れたような……そんな気がして、ワクワク&ドキドキした。そんなふうに過ごせた、とある特別な1日だった。
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■ソール・ライター(1923-2013)
米の写真家。1958年『ハーパーズ・バザー』誌でフォトグラファーとして仕事を始め、80年代にかけて多くの雑誌でファッション写真を撮影。2006年、初の写真集『Early Color』出版。08年にはパリのアンリ・カルティエ=ブレッソン財団でヨーロッパ初の回顧展を開催。12年にドキュメンタリー映画が製作。日本ではほぼ無名だったが、17年と20年に「Bunkamura ザ・ミュージアム」で行われた回顧展が大きな反響を呼び、一気にその名を世間に知られるようになった。
・展覧会 公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/23_saulleiter/
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ほりぐち・まゆみ。
Jill of all Trades 〈Producer / Editor / Writer / PR / Translator etc. 〉『IN THE CITY』編集長。
雑誌『米国音楽』共同創刊&発行人。The Drops初代Vo.