至福、万福。
ひとり旅が好きだった。
新千歳から空を飛び、全国各地の空港に降り立つ瞬間の空気がたまらなく好きだった。
お目当ての食堂にふらりと入り、傍に大きな荷物をどすんと置いて運ばれてきた水をがぶりと飲む。
名古屋でほかほかのひつまぶしをかっ喰らい、
大阪であつあつのお好み焼きをほおばり、
京都でひんやりつるりとした葛きりにうっとりする。
周囲から憐みのまなざしを感じるのは、当時の私が傷心旅行でやけ食いをする20代女子のようだったからであろう。ご期待に添えられず申し訳ないのだが、その正体は単なる出張中のOLであった。
仕事の前後に地方の美味しいもの、美しい景色、人の優しさに触れる醍醐味。
旅は数多くの経験と幸せなひとときを与えてくれた。
あれから時は流れ、食べっぷりのいいOLは長い未妊期間を経て3児の母となった。
ひとり旅は贅沢な夢となってしまったが私は気づいている。
賑やかな今の生活もまた、「万福」そのものなのだと。
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