キューティーレイン
とある二人の会話。
「あれ?」
「ん?」
「降ってきた?」
「うそー?」
「当たったって。ほら。」
「あ、ほんとだ。濡れてる。」
「な?」
「うん。…あ、僕も当たった。」
「うわ、結構降りそうだな。」
「えーやだやだ。あそこに避難しない?」
「とりあえず寄るか。」
「うん。」
「ここ、イートインスペースあるんだね。結構広いし。」
「知らなかった?」
「え、たーちゃん知ってたの?」
「うん。俺コンビニならだいたいここ来てる。」
「えーそうなんだ。僕はからあげとか買うから、あっちの公園の方のコンビニによく行く。」
「むぅはさ、からあげもだけど、スイーツが見たいんだろ。」
「んふふ。まあどっちも買ってるよね。」
「買いすぎ。」
「だって、どっちも美味しいんだもん。」
「デブ。」
「ひどいなあ。」
「でも本当に太っただろ?」
「そんなことないよ。ちゃんと気をつけてるもん。」
「あっそ。」
「たーちゃん、何飲んでるの。」
「これ?つぶつぶイチゴオレ。」
「美味しそう!なんか、可愛いね。」
「なにが?」
「イチゴオレって可愛いじゃん。ピンクだし。」
「ピンクだから可愛いの?」
「うん。可愛い色してるなあって思うよ。」
「ふーん。」
「うん。」
「…じゃあさ、俺の小指がピンクだったら、可愛い?」
「え?」
「小指。ピンクだったら、可愛いと思う?」
「ピンクって、何が?マニキュア塗ったら、ってこと?」
「ちげえよ。小指だよ。」
「え??…小指全体が、ってこと?」
「うん。」
「いやそれは…。」
「可愛いと思う?俺の小指見て、可愛いね、って言ってくれるわけ?」
「ごめん無理。気持ちが悪い。」
「なんでだよ。」
「指がピンクって意味わかんないじゃん。しかも小指だけ急にピンクって。やだよ。」
「じゃあ人差し指もオレンジとかにする?」
「そういう問題じゃないでしょ。」
「そういう問題だろ。だいたい、むぅが言い出したんだろ?ピンクだから可愛いって。」
「イチゴオレの話でしょ?」
「イチゴオレはピンクだと可愛いのに、なんで俺の小指はピンクだと気持ち悪いんだよ。」
「だって小指がピンクなのは変じゃん。ありえないじゃん。」
「じゃあイチゴオレはピンクでも変じゃないってこと?なんで?」
「えー?」
「考えてみてよ。」
「…うーんと。イチゴがもともと赤くて、それにミルク入れてイチゴオレにしてるから、赤に白が混ざってピンクになるでしょ?変じゃないもん。」
「それなら、小指だって肉だし血通ってるからもともと赤いよ。」
「普段は赤く見えてないじゃん。」
「思い出せばいいじゃん。小指も赤いってことをさ。」
「…でも、ピンクになるのは変じゃん。」
「太ればいいじゃん。脂肪がついて白くなれば、ピンクになるだろ?」
「ならないよ。脂肪じゃ。だって僕の小指、ピンクじゃないもん。」
「あ?…むぅ、てめえ、やっぱデブなんじゃねえか。」
「…今はそれどうでも良くない?」
「止まないね。雨。」
「もう傘買って帰るか。」
「えー、もったいないよ。家に帰れば傘なんていくらでもあるのに。」
「そんなにあるか?」
「それに駅なんてすぐそこじゃん。この距離のために買うのは馬鹿らしいよ。」
「むぅって、変なとこで貧乏性だよな。」
「たーちゃんはもっと節約した方がいいよ。」
「デブに言われたくねえよ。」
「悪口だなあ。」
「嫌なら買い食い控えな。」
「はいはい。…あ、あの人いいな。」
「あ?」
「僕、帰るよ。じゃあまたね。」
「え。」
「あのー、すみません。駅まで歩きますか?僕も行きたいので、傘入れてもらえませんか?」
「え…。」
「あ、意外とちっちゃい傘なんですね。もうちょっと大きいの買った方がいいですよ、濡れますから。」
「…まじか。」
「あいつ、ほんと可愛くねえな。」
曇天の中、窮屈そうな桃色の傘から、不格好な肩が飛び出ている。