N4書房日記 2022 0301-0331
0301
やっと寒さが和らいできた。と思ったら今年の夏は猛暑だという。
0302
本を作ると、明らかに悪い点はすぐにミスが指摘されるもので、そう思うとヒヤヒヤする。
今日は第五章ラストの部分だけをどうにか片付けた。
0303
第五章の真ん中あたりをコツコツと進める。
KとLを終わらせて、一つ難所を乗り越えた。
今日の分では、数字の表記を少し調整した。
たとえば「六〇〇〇」ではなく「六千」にしたくなる。金額にしても同様で、店でもない限り「五〇〇円」とは書かないものだ。
しかし「九〇年代」と「九十年代」とでは、どちらでも違和感がない。
最終的に「人数や金額はなるべく漢数字+時代は〇を使う」と、微妙なややこしさを経て完成させる。
0304
あれこれとコピーしたり整理したりする。ミニストップのコピーは一枚5円なのでお得感がある。
0305
「渋谷音楽図鑑」「『ヒットソング』の作り方」を読み直しているうちに、あちこちで止まって読みふけってしまう。
0306
久しぶりに大江健三郎の「芽むしり仔撃ち」を読んだら、頭がしゃっきりした。
この小説は一人称が「僕」で、僕の視点から語られるのだが、対外的なセリフになると自分のことを「俺」と言っている。
「俺は〇〇だぞ」と僕は言った。
という具合で、今頃になってその不自然さに気づく。
0307
第五章は残りあと30~40ページくらい。
これまでに完成している部分をまとめてみると165ページくらいになる。
足すと200ページ前後か……(当初の予定と違っている気が……)。
0308
吉田仁さんの羊文学ワークスについて考えていると、だんだん頭の中で凝縮されて吉田羊になってくる。
「吉田仁羊文学吉田羊」と繋げてみると、575になっている。
0309
「岡野ハジメ エンサイクロペディア」のインタビューを読むと、60-70年代の内外の音楽シーンの理解が進む。なかなか頭では想像しづらい感覚がつかめたような気になる。
たとえばビートルズと比較されるのはストーンズではなく、ビーチボーイズでもなく、ベンチャーズであるとか。加藤和彦がカッコよく見えて、YMOは軽音楽に過ぎず、さほど興味が持てないとか。
0310
急にセルジオ・メンデスを聴きたくなって、「Look Around」の「Roda」→「Like a Lover」→「The Frog」→「Tristeza」という流れを聴いていると、おそらく死ぬまで古くは感じないだろうなと思う。他のアルバムの曲だと「Pretty World」も好き。
0311
プログレの魅力は、世代的にも個人的な趣味としても分からない。ピークが60年代の終わりから70年代初期というくらいなので、70年生まれの自分にはピンと来ない。音が大仰で、セルメンの洗練や洒脱に比べると野暮ったい。
しかし少しは理解しようと考えて「1970年代のプログレ 5大バンドの素晴らしき世界」という新書を読んだ。
面白かったのはレコードの価格の高騰の件で、この本の中では、
「EL&Pとレコード会社はほうっておいても売れるから、と手を抜いたのだ。儲けを優先したのだ。今の言葉で言えばファンファーストでない姿勢がその後の人気凋落の遠因ではないかとすら思っている。一方イエスはファンを大事にする姿勢に好感を持ったのである」
と書かれているのに対し、アマゾンのカスタマーレビューでは、塩化ビニール工場の爆発事故とオイルショックを理由に挙げている人がいる。
音楽について書く際は、産業、世相、経済、ファン心理といった要素も視野に入れておかなければ。
かと言って音楽以外の要素に詳しすぎるのも変な話だ。さかなクンが魚を好むように、音楽を愛好したい。
0312
第五章を進める。残り四項目のうち、一つは昨日クリアした。もう一つは今日クリアした。
0313
母音や子音に関する本として「英単語の鬼100則」「英語リスニングの鬼100則」を見つけた。自分には音声学の入門書としてちょうど良いかもしれない。
0314
某さんにお話を伺う。某所でいきなり翻訳書「英国のレコーディング・スタジオ」が目に入り、ちょうど参考資料としてお送りするつもりだったのでビックリした。
お話はあれこれと、いろいろと、内容が濃すぎて頭が熱くなる。
この濃厚さをどうやって濃いまま、あるいは薄めながら読者に届けるのか、それは良くも悪くも自分次第なので、中継地点であることの難しさを感じる。
興奮したせいで寝付けなくなり、ウトウトしては夜中に何度も目が覚めてしまう。
0315
あれをしなければ、これもしなければ、と一日中バタバタする。
とりあえず明日までに必ず返さなければいけない本があるので、それを読まなければ。
0316
あれをしたり、これをしたりする。
夜「幕末太陽伝」を観ていたら、終りの方で急に大きな地震が来て焦った。
「幕末太陽伝」はおそらく三回目くらいの鑑賞で、遊郭を舞台にした落語と、それ以外の落語を寄せ集めたような作りになっている。
そういう意味では継ぎ接ぎ、コラージュ、引用の織物として「ヘッド博士」の系譜に連なる作品群の一つといえる。
0317
ついに本文が完成。
全188ページになった。
予定通りに進めば、5月初旬には販売できる。
B5の紙を二つに折ったものを付録につける予定。
脱稿した記念に「ヒズ・ガール・フライデー」を観た。これも三回目くらい。
0318
昨日は完成したと喜んでいたが、やはり微調整が必要な箇所があれこれ出てくる。読みやすさから考えると「一九四五年」は「1945年」とした方が読みやすい。「ニ〇一一年」なら尚更「2011年」の方がよい。
しかし最近出た本や雑誌のそうした箇所を変更してしまうと、すかさず「原文と違う!」と文句を言われそうだし、余計な混乱は避けたいので最終章(第六章)はそのままにしておく。
すると第五章とは僅かに雰囲気が変わるので、メリハリがつく。自己満足的だが良い判断のような気がしてきた(→その後、やはり読みづらいので、ほとんどを算用数字に変えた)。
0319
出典一覧に発行元の名前を書くのを忘れていた。
「後でやるから」と考えて作業を進める時、実はこういう落とし穴を自分で掘っているのだ。
0320
一度に用意できる限度が数百部なので、いくら注文が来ても、一気に数日では注文をこなしきれない。
「一週間当たり数十部を販売発送×数週間」くらいのペースで分けて考えたい。
何でもいっぺんに片付けるのは無理なので。
買う側から見ると「毎週、追加の本が入荷される」という感じで。
0321
レコーディングや録音技術に関する本で、読んでおきたいものが何冊か出てきたので図書館に注文する。
0322
深夜二時、原稿の最終チェックが完了に近づきつつある。ゴーサインが出てから、ほぼ2か月でここまで来るとは感無量である。
昼間は何と、雪のようなみぞれになった。
その後、「実はこんなものもある」と新情報が入ってくる。残念ながら次にまわすしかない、という大きな情報が二件もあった。
0323
印刷会社に原稿を送ったので、一段落ついた。
自分のやっているZine作りというのは、分類するなら「趣味」なのだが、遊びや仕事っぽい要素もある。
編集や研究っぽいことを同時にしているのだが、それが100%とも言い難い。
もう少し具体的に考えると、ひとり出版社、在野の研究者、お店屋さんごっこ、DIY好き、ライター、Zineの企画・発行、装丁デザイナー、宣伝担当者、ブロガー、経理、使い走り、資料集めと整理、雑用係などなど、多くを兼ねている。
それでいて全体的には娯楽のような、取材して観察して報告する人、つまりノンフィクションライターのような、何とも言えない存在になってきた。
0324
次の本の宣伝用チラシを印刷する。チラシは完成前どころか、かなり前から作ってあった。
発売開始の時期がほぼ確定してきたから、ついに、とうとう、やっと印刷できるという感じ。
0325
「チラシの裏にでも書いとけ」という罵倒を最近あまり見かけなくなった。
しかし、そういう風潮とは関係なく、まさに新刊用のチラシの裏の「編者より」という文章を真剣に考えている。
というのはノーマル版のつもりでサラサラ―ッと書いた文章が、よく見たら明らかに、度を越したマニア向きの文章になってしまっていたからである。
分からない人には完全に分からず、分かる人にも分かりにくい。
ここはひとつ、本当の初心者向けを想定した文言を練り直して、本気でVer.2に着手しなければ。すごろくや年表みたいなものを書いた方が、かえって分かりやすいのでは?と考えて、それっぽいものを頭に描く。
0326
古本を買ったらクリックポストで送られてきた。自分の送る本の大きさはこれより小さく、クリックポストの方がレターパックより安そうなので使い方を読んでみると、あれこれ条件がありややこしい。これならやっぱりレターパックライトがいいなあ。
0327
以前読んだマナーの本に、贈り物の原則は「良いものを少しだけ」なのだと書いてあった。
確かに、どうでもいいもの(ボソボソしたクッキーなど)を嵩増しして、大きな手提げ袋に入れたものを「御礼」ですと渡されても……。
「有難うございます!」と言いつつ、内心ではちっとも嬉しくない……。
そういう訳で「良いものを少しだけ」はやけに印象深く、何かの折に思い返してはその度にそうだよなと納得する。
贈り物だけではなく、仕事や生き方の方針にすら影響を受けているかもしれない。自分にとっては、名言として有名な「Stay hungry, stay foolish」よりもずっと深く響く言葉なのであった。
N4書房の本も、売れそうだからといってガツガツと売るのではなく、半年後、三年後、五年後くらいを見据えて、良いものを少しだけチビチビと販売していきたい。
十年後くらいに、良い本だけを少しずつ売ってきたなあ、と振り返りたい。
とりあえず11月の文フリのことを考え始める。
0328
どうしても必要な雑誌の記事があり、国立国会図書館の遠隔複写サービスを初めて利用する。古本屋を探し歩く手間と時間と費用を考えたら、タダのような金額で手に入るのだった。
0329
小さな棚を個人の書店のようなものとして貸すタイプの古書店が都内にいくつもあるが、使用料が結構かかるので見送っていた。しかし車で二時間くらいの場所にそういうスペースがあるので、可能なら利用してみたい。
その件を調べているうちに、家から近い場所に古書店が開店予定で、古本市が企画されているのを発見する。Zineを販売してもよいとのこと。
0330
先日申し込んだ国立国会図書館の複写サービスが、もう発送とのこと。2週間か1ヶ月ほどかかるものかと思っていただけに、このスピードは予想外だった。
0331
図書館に取り寄せてもらった「録音芸術のリズム&グルーヴ」藤掛正隆、「ソウル・マイニング」ダニエル・ラノワが届く。どちらも少し読んだ限りでは良さそうな感じ。ついでにラファティの「とうもろこし倉の幽霊」も借りてくる。
*この日記は半月~月に一度くらいのペースで更新します。
*次回もRockだぜ!!