見出し画像

秋学期の終わりと、スペインにみる"ゆとり"について

1. 秋学期が終わって


気付けば先週で秋学期の授業も終わり、冬休みに突入し、2025年も終わろうとしている。

バルセロナといえど、冬なのでそれなりに冷えるが、日本みたいに肌を刺すような寒さではなく、コートの温もりが心地よく感じられるくらい。

地中海特有の温暖な気候のありがたみが際立つので、個人的には夏のバルセロナよりも、冬のバルセロナの方が好きかもしれない。

2年目は楽になる、という話を聞いていたのだが、秋学期は期待していたよりは少し忙しかったな、という感想。

とはいえ、聞いていた通り1年目よりはだいぶ余裕があって、いろいろと旅行をしたり、久しぶりにのんびりと過ごせた気がする。

2. 2年目で一番忙しい1週間


そんな穏やかな秋学期の最後に、1週間をかけて、経営者のロールプレイのようなものをやるプログラムがあった。

1チーム7名で構成され、それぞれがCEO/CFO/COOなどの役を担当し、一つの仮想的な世界で6チームで競う。

基本はWebベースのシステム上で経営上の意思決定(R&D, Marketing, Finance,  Operationなど)を入力し、各チームの入力結果を基にヴァーチャルな市場で 各社の売上やコストが決まる。

オンライン上のシミュレーションに加えて、外部から取締役会メンバーや銀行、労働組合役の方を招待して、実際に経営陣として取締役会の運営や交渉のロールプレイを行うという、なかなかよく出来たプログラムで、大変ではあったが面白かった。

計6回の意思決定機会があるのだが、トライアルのラウンドや取締役会なども含め、朝から夜7時~8時くらいまでみっちりスケジュールが組まれていて、その後にチームミーティングなどを行うと、文字通り朝から夜まで学校に缶詰めというなかなかハードな一週間であった。

自分はCOOだったので、マーケティング担当の需要予測を基に、工場の生産量の調整や在庫管理、それに基づいた各材料の調達、製品のロジスティクス(どこで生産し、どこの市場で売るか)など、オペレーション全般を統括する立場だった。

いかんせん、他の担当(直接的には調達、ロジスティクスや、最終的にはCEOやCFO)との連携が多くて大変だった。
オペレーション面はいろいろと苦労はあったのだが、需要予測と実際の需要にはどうしても差分が出てしまうので、そこをどこまで織り込んでバッファを持たせるべきか、というのが難しかった。
加えて、当然オペレーションのコストも下げなければならないので、余裕をもってオペレーションを回しつつ、費用を最適化しなければならないという、このバランスが最後まで難しかった。

最初はみな自分のロールをこなすのに精いっぱいという感じだったが、最後の方は担当の垣根を越えて、戦略やオペレーションの論点について議論したりと、チームのダイナミクスが良い方向に変化したので面白かった。

心残りがあるとすれば、折角のシミュレーションだったので、自分にとって少しチャレンジングなロール(CEOやCFO)に挑戦してみても良かったかもしれないかなという点だろうか。

特にCEOは、もちろん全般を見なければいけないし、最終的な意思決定や取締役会で会社を代表したりと大変なのだが、他の役職ほど特に自身が担当する領域が決まっているわけではないので、どこまでコミットするかはチームによってかなり差が出るなという印象。

うちのCEOも、最初は基本的に各CXOに任せるスタンスだったのだが、途中から全体の戦略を示して各CXOとの連携を強めてから、チームの動きが格段に良くなった気がする。

実世界でもそうなのだろうが、CEOが、企業として目指すべき方向性をどのように決めるか、どのようにクオリティスタンダードを設定するか、そういうハイレベルでの意思決定が、想像以上にチーム全体の動きやパフォーマンスに与える影響は大きいのだろうということを、肌感を持って実感できたのも一つ収穫ではあった。

3. スペインに見る”ゆとり”


そんなこんなで、久しぶりにそれなりに忙しい1週間を過ごして、今週は冬休みでのんびり過ごしている。

カフェに行って作業したり、街中をぶらぶらしてみたり、のんびりと過ごしているのだが、クリスマスシーズンであることもあり、街全体が浮き立っている。

スペインに移り住んできたときから、なぜスペイン人はこんなにも楽しそうなのだろうか、という疑問を持っていたのだが、街中を散歩している中で、その理由の一部が、ふと少しだけ分かった気がした。

あえて一言で言い切ってみると、生活に”ゆとり”があるとでも言うのだろうか。

ヨーロッパ全般そうであるが、まず、街並みがとても美しい。建物全般もそうなのだが、よく見ると、エントランスのドアからベランダの手すりに至るまで、細かく装飾が施されている。

あまり意識してみてこなかったが、よくよく考えてみると、無駄のオンパレードである。日本ではあまり見られない光景である。

日本だと、のっぺらぼうで個性の無い建物が無秩序に乱立する。商業的にメリットがある場合以外は、外装に凝るということはほとんどないのではあるまいか。それはそれで便利だし、費用対効果という面でも効率は良いのだろうから、ある意味(経済的に)合理的である。

次に、他者に対して気を遣う余裕があるようにも感じる。バスや電車でも、とても自然に、気持ちよくお年寄りや妊婦に席を譲るし、街中で困っている人もごく自然に助けてくれる。

バルセロナに到着した初日に、大量のスーツケースをもって部屋に運び込むのに苦労していた時、家の前を通りかかっただけのおじさんが手伝ってくれたりした。一例だけをもって一般化するのは単純化し過ぎだが、日常生活においても、自然に見ず知らずの人が助けてくれる頻度が、有意に多いような気もする。

当然だが、日本の方が良い面もたくさんある。海外に行くたびに、日本の生活の快適さや、安全さに何度も感動するのが、もはや通例になってくる。

スペインでは、バスや電車は時間通りに来ないことはしょっちゅう。

家も古くて、水漏れとかもそこそこ起きる。
(我が家も一度あったし、定期的に同級生が水漏れで苦労している話を聞く)

日本みたいにコンビニもないから、祝日とか夜はまじで店がやっていないので、買い物をサボると詰む。

道路も結構汚い、しょっちゅう犬の糞を踏みそうになる。
(正確には、他の人が踏んだ後であろう糞を)

日本ほど治安が良くない。アメリカみたいに凶悪犯罪はあまりないイメージだが、スリとかはかなり多い。自分自身も一度スリに合ったときには、本当に帰国したくなった。。笑

ただ、上記のような不便さを所与のものとして、なるようになる、というな心境で、やれるだけのことはやるけど、何か起きたらその時に対応すればよい、というような、良い意味で肩の力が抜けているような印象を受ける。

同級生のスペイン人も、偏ったサンプルではあるが、穏やかで前向きな人が多い印象。

とはいえ、何か起きるとスペイン人の同級生もそれなりにぶーぶー文句は言っているのだが。。笑

4. スペイン人は本当に幸せか

このままだと海外留学した日本人による、留学先の国の礼賛記事みたいになりそうなので、一歩引いて考えてみたい。

スペインは果たしてそこまで幸福なのか?

世界の幸福度ランキングというものを参照してみると、スペインは28位らしい。思っていたより低い。。
(出所:https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2020/WHR20.pdf

ランキング全体を見ると、北欧諸国をはじめとするヨーロッパ諸国が軒並み上位を占めており、スペインは欧州の中ではそこまで順位が良くない。

おそらく、私自身が単純にスペインが好きでバイアスが入っていたのと、バルセロナに住んでいるので天気が良かったり、文化的にも豊かで、そういった面でバイアスが入っていたのも否めない。加えて、もう少しまじめに考えると、経済とか、マクロなファクターもそれなりに影響しているだろう。

上記で述べたスペインに関することは、おそらくヨーロッパ全般で当てはまるし、国によって程度が異なる、というレベルの話なのかもしれない。

ちなみにより目を引いたのは、我らが日本は62位であるということ。
OECD加盟国の中で、ほぼ最下層に位置づいている。

あれだけ便利で、快適で、安全で、飯もうまい日本が、ここまで低いというのは改めて考えてみると、なかなか不思議である。

もちろん幸福度という指標で全てを語ることは出来ないが、一つの指標の中でここまで差が出るのも無視はできない。

個人的な感想だが、日本は、「便利・快適・安心」を突き詰めることに関しては、ヨーロッパの多くの国よりも成功している気がする。

ただ、「便利・快適・安心」というのは、つきつめればその大部分は資本主義における「経済合理性」に突き動かされて実現されたものだと思う。

資本主義は、文字通り資本の自己増殖を助けるものではあるが、人間の幸福度の上昇を必ずしも助けるわけではない。

ヨーロッパでは、1980年代のスローフード運動に見るように、資本主義の加速や経済合理性の徹底が、必ずしも人間の幸福に繋がるわけではない、ということに対する知恵というか、無意識下での危機感のようなものがあったのではないかと勝手に推測している。

ヨーロッパも例外ではなく、構造的に社会が資本主義に飲み込まれていく、というのは不可逆的な避けられない流れではあるかもしれないが、せめて個人のレベルで、何が本当に幸福か、善い人生とは何か、善い社会とは何か、そういう問いには考えを巡らせていたい、と思う。


いいなと思ったら応援しよう!