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作曲家の使う特殊な音楽理論 [メシアンの移調の限られた旋法]

今回は、作曲家の使う特殊な「音楽理論」の第2弾、[メシアンの移調の限られた旋法] についてです。
第1弾は [バルトークの中心軸システム] について書いてみました、まだご覧になっていない方はこちらからぜひ!

[メシアンの移調の限られた旋法]は、フランスの現代音楽の作曲家「オリヴィエ・メシアン / Olivier Messiaen」によるものです。
代表的な作品「鳥のカタログ」はこちらからお聴きくださいませ。

この旋法につきましてはメシアン自身によって書かれた本に書かれており、日本語訳のものも販売されております。ご興味ありましたらぜひ!

メシアンの『移調の限られた旋法』はいくつかあるのですが、
ここ記事では使用頻度が比較的高くジャズとも親和性の高い【移調の限られた旋法 第2番】に焦点を当てて書いてみようと思います。

まず通常のポップス等に使用される「メジャースケール」から書いてみます。
この音階(スケール)は「メジャースケール」と言いいわゆる「ドレミファソラシド」です。
音の下の数字は [度数] という最初の「ド」の音からの距離を表しています。

メジャースケールは「ドファド」という間隔で音が繋がっています。音と音との間隔だけ抜き出すと「全全半全全全半」となります。

C メジャースケール

そして、このメジャースケールの上に3度ごと音を積み上げて和音にして「ダイアトニック・コード」を作ります(積み上げるのは3つでも4つでもOKです、今回は現代ポップで使用されることの多い4和音で書きました)。

それで出来上がったコードの羅列を「ダイアトニック・コード」と呼びます。

C ダイアトニック・コード

通常はここからコード進行を作っていくことが多く、ほとんどのポップスはこれらコードを導いて繋げて進行を構築します。
(コードの下にある[Imaj7]ようなものはディグリーといって、コードの順番を確めるときに使ったりします。詳しい説明は割愛します。)

そうすると、そのキー(この場合はCメジャーキー)の曲ができ上がり耳馴染みの良い素敵なハーモニーの曲が誕生します。
ここまでは、よくある通常の「メジャースケール」とそこから導かれる「コード」についてでした。

それでは、本題のメシアンの【移調の限られた旋法 第2番】はどういうところが特殊なのが実際にみていきましょう。

移調の限られた旋法 第2番の音列

上の画像の音列が【移調の限られた旋法 第2番】です。
「ドレ♭レ#ミファ#ソラシ♭ド」というちょっと不思議な音列で「ドレ♭レ#ファ#シ♭ド」という間隔で音が繋がっています。
間隔だけ抜き出すと「半全半全半全半全半全」と、半音と全音を交互に繰り返しているスケールです。

ジャズではよく使われるスケールで、別名 [コンビネーション・オブ・ディミニッシュ] とも呼ばれています。

1, 3, 5, ♭7 の4音から
C7が導き出される。

「ドレ♭レ#ミファ#ソラシ♭ド」の中から「ドミソシ」を選ぶとC7のコードになるので、C7のコード上にてフレーズを作るときに [C コンビネーション・オブ・ディミニッシュ] スケールを選ぶことができます。

ちなみにジャズで意識的に最初に使用した言われているのはDuke Ellingtonで、アドリブでよく使う演奏者としてはギタリストJohn Scofieldが有名です。

【移調の限られた旋法 第2番】のそれ自体を『モード』として扱ってみましょう、つまり[メジャーキー] [マイナーキー]というように(と書くと語弊があるのですが、あえてこう書きました…)考えてみます。

そして【移調の限られた旋法 第2番】の構成音の上に音を積んで、先ほどご紹介した「ダイアトニック・コード」のようなものを作ってみます。

そうすると、
C, E, G → C△
C, D#, G → Cm
D#(E♭), G, B♭ → E♭△
D#(E♭), F#(G♭), B♭ → E♭m
F#(G♭), B♭, D♭ → G♭△(F#△)
F#, A, D♭(C#) → G♭m(F#m) 
A, C#, E → A△
A, C, E → Am

と8個の和音を導き出すことができます。

気付いた方もいるかもしれませんが、
・同じRoot音を持った「メジャー」「マイナー」の3和音がそれぞれで出てきます。
・さらにそのRoot音の間隔を見ると → [C, E♭,G♭, A] という [ディミニッシュの間隔] で出現します。

通常のスケールでは同じRoot音を持った「メジャー」「マイナー」コードが出てくることはもちろん無いです。

ですので「メジャー」「マイナー」コードが同時に導かれてくるこの【移調の限られた旋法 第2番】を使って作曲すると、サウンドが「メジャーキー」なのか「マイナーキー」なのかわからない全く新しい世界観のおもしろさが出ます!

最後になってしまいましたが【移調の限られた旋法】の "移調の限られた" という部分は、この旋法からは「3種類」しか導くことができません。

先ほど書きました [C, E♭, G♭, A] という [ディミニッシュの間隔] でコードが出現するというということと関係し、
Cから始まる【移調の限られた旋法 第2番】は、E♭から始めても、G♭から始めても、Aから始めても結局は同じ音の並び替えになります。

平均律の世界では「1オクターブは12音」なので、12 ÷ 4 = 3 となり【移調の限られた旋法 第2番】は「3種類」しか導くことができないということです。

3種類の【移調の限られた旋法 第2番】

[C, E♭,G♭, A] のグループ、
[C#, E, G, A#] のグループ、
[D, F ,A♭, C♭(B)] のグループです。
「1オクターブは12音」あるのに、結果的にCから、C#から、Dからの「3種類の音列」に限定されてしまうので【移調の限られた旋法】なのです。

ちなみに、
バルトークの【中心軸システム】も [トニック軸] [サブドミナント軸] [ドミナント軸] は [ディミニッシュの間隔] で出現するので、興味深い共通点と考えることもできます。

このような、作曲者自身によって考えられた興味深い「音楽理論」と共に音楽を楽しむのもまたおもしろいのではないかと思います!
お読みくださりありがとうございました。

UN.a 宇津木紘一


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