教育✖️福祉=∞ のドラマ①小学生への認知症サポーター出前授業
そのドラマは小学校の職員室からかけた一本の電話から始まる。
「こんにちは!社会福祉協議会の綿谷です。」
歯切れの良く明るいトーンの女性の声が受話器から聞こえた。若干、緊張して声が上ずりそうになるのをグッとこらえて、口角を上げ、第一声を届ける。
「初めまして。このたび4月に赴任した林檎小学校の谷山です。小学校の総合的な学習の時間に福祉学習を取り入れたいと考えています。まちの福祉の現状が良くわからないので、ご相談に乗っていただきたいと思いまして。お時間いただけますでしょうか。」
「そうでしたか。それは、丁度よかったです。一昨年、隣の蜜柑中学校で認知症サポーター養成講座を実施しまして、今年はぜひやりたいと思っていたので、小学校の先生方と生徒さんにも知っていただけると嬉しいです。」
講座の大まかな内容を聞くと2時間を要するという。大人向けの説明が多い授業では子供は飽きてしまう。そこで、どんな講座の流れなのか、誰が行うのか、テキストはあるのかなど、詳しく知りたいと事前打ち合わせをお願いした。
紹介された講師は、「キャラバンメイト」という認知症サポーター養成講座を普及している会長の川崎さんだった。メンバーの中でも伝える力は群を抜いているとの説明にワクワクして、福祉施設に面会に伺った。
「初めまして。川崎です。」
推定30代前半の精悍な風貌の若者だったことに驚いた。手短に要望を伝える。
「サポーター養成で規定の2時間は取れないのです。基本的な理解の説明に1時間。もう1時間は高齢者疑似体験セットをお借りして体験をさせたいのです。子供の中にもっと調べたいという気持ちが生まれたら、その後の学習のまとめでお釣りがきます。いかがでしょう?」
「わかりました。小学生は初めてですが、子供達にわかりやすく伝えるよう最善を尽くします。」
そして、迎えた授業。講師の川崎さん、世話役の綿谷さんに加え、ゲストが2人、計4人が来校。なんとも贅沢な出前授業になった。
その当時、パワーポイントで出前授業をする講師は珍しかった。12人の子供たちは冒頭から釘付けになり、聴き入っていた。
「認知症の方には、3つのことに気をつけて。」
一つ一つを丁寧に、そして、テンポよく、確認しながら次へ進めていく。「一時に一事」の対応の原則を守っている。教師でも、なかなかできない技を難なく使いこなす伝える力の高さに驚いた。
福祉の現場で毎日、利用者の方に丁寧に対応する中でその力を身につけたことは明白だった。先生が子供に接するように、毎日、根比べをしている中で勝ち得た力。
教育と福祉の共通点に心底触れた瞬間だった。
授業後、世話役の綿谷さんと出前授業の素晴らしさについて話す中で、その興奮が双方に伝わり、「またの機会を作って研修をやりましょう」と意気投合した。
その時は、その研修機会が実現するとは思ってもいなかった。この授業を通して、子供の中に、あったかい気持ちが育まれたことを肌で感じた。ただ、ただ、それが嬉しかった。