両側乳がんラプソディ #6 乳管がん
こうやって当時のことをまとめてみると、なぜ乳がんだと覚悟をしなかったのだろうと思うけれど、その状況になっても、私はあまり深刻に捉えてはおらず、乳腺線維腺腫の治療や手術になるだろうと勝手に予想していた。
だって、まさかね。
でもやはり、がんだったのである。
それも両側が。
診察室に入るや否や、医師は、モニターに映る検査結果を見せながら、柔らかボイスで乳管がんでしたと私に告げた。
右胸は針生検がうまくいかなかったため、がんと判定されていないが、自分のこれまでの経験から間違いない、とそこだけは声に力を込めて話す。
再び柔らかボイスに戻ると、両胸ともに女性ホルモン受容体が陽性タイプの「穏やかな」乳管がんでステージが1だと思われること、今後は手術をしてホルモン治療薬を飲むことになるだろうと言う。
「仕事は大丈夫でしょうか。」
思わず、口から出た言葉に対して、
「仕事内容にも寄りますが、大丈夫です。手術翌日から働けます。」
と、先生はこともなげに答えた。
驚く。
遅れてやってきた、乳がんであることの衝撃に、「穏やか」という例え、自分のイメージする闘病像との隔たり、風邪でしたよ、点滴打って薬飲んで寝ていれば治りますよ程度の告知の軽さが覆い被さって、むしろ冷静な驚きをもたらす。
しかし、そんな冷静さを吹っ飛ばしたのは、医師から出た次の言葉であった。
「左胸はがんが散らばっているので、全摘になります。右胸は、部分切除でいけるかもしれませんが、胸が変形するので全摘の方がいいかもしれません。」
ちょっと待ってくれ。
「穏やか」さんタイプでステージ1で、仕事もできちゃうほど初期なんじゃないの。
全摘ってそれはないでしょう。
両胸なくなるってことだよね。
医師が言うところによれば、乳がんは、初期だからこそ手術で摘出、治療ができるのであり、原発巣の場所や大きさによって、悪性度に関係なく部分切除になるか全摘になるかが決まるそうである。
妙に味のある上手い乳房の絵を描きながら、医師は説明を続ける。私の場合、左胸は乳首に比較的近い脇側胸上方に散らばるようにがんが存在し、右胸は脇と乳首を結んだあたりに一センチほどのしこりがみられる。
二センチほどの余白を残して切除する必要があるため、右胸は変形ですんでも、左胸を残すことは難しいと言うことであった。
正直に話せば、両胸全摘の宣告は乳がんであること以上のショックであった。
なんでだろう。
日頃から、女性性を胸に求めるなんてことに批判的で、そこから遠いところにいると思っていたのに、胸がなくなることにショックを受ける自分にも大ショックである。
胸に執着やこだわりはないつもりだったことの「つもり」だけが宙に浮く。
医師は、言葉を失っている私に大丈夫(とは言わなかったと思うけど)だと声掛けするように、言葉を加えた。
「全摘の場合、再建することができます。」
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