両側乳がんラプソディ #16 形成外科
翌週、私はG施設を再訪した。
形成外科の予約を入れてもらっていたためである。
9時半からの予約であったが、診察室の前の待合スペースには、すでに数名の患者が待っている。
形成外科だから乳がん患者とは限らないと思うが、待っているのは全員、女性であった。
30分程度待ち、私の名前が呼ばれた。
担当のO先生は、乳房再建について一通りの説明をしてくれた。
すでに、病院内で視聴したビデオや配布された冊子で予習済みであったが、それでも再建の種類や方法、メリットやデメリット等を改めて確認することができた。
O先生に希望を聞かれたので、乳腺科のI先生に伝えたように乳頭乳輪温存乳房切除術でインプラント再建を希望していることを話した。
私は一度もインプラントを見たことがなかったので、実物を触らせてもらいたいことも合わせてお願いした。
インプラントにもさまざまな種類があるという。
2019年にアラガン社のテクスチャードタイプ(表面がざらざらタイプ)に問題が生じ、自主回収騒動が起き、保険適応の対象が限られている乳房再建術に大きな混乱を巻き起こした。
O先生が見せてくれたインプラントは、シエントラ社のしずく型のテクスチャード対応であった。
「テクスチャードタイプの方がスムーズタイプ(表面がつるつるタイプ)より、トラブルが起きやすいと言われていますが、その割合は低く、テクスチャードタイプの方がズレないため、私たちはこちらの使用を推奨しています。」
「どんなトラブルが起きるのですか。」
「リンパ腫などの発生の可能性が高まります。」
「その場合はどうすれば良いのでしょうか。」
「インプラントを取り出して治療します。」
「取り出せばいいんですね。」
O先生の説明を聞き、テクスチャードタイプでの再建に気持ちが傾いた。
初めて触るインプラントは寒天ゼリーのような硬さで、ガチガチでもないがプルンプルンでもない塩梅である。
「下垂しないので、片側だと健側との違いが生じてきます。」
「その場合、両側だとバランスが取れて良いですね。」
自虐的、否、ポジティブ返答である。
「もう一度、来週、診察に来てもらうので、そこで正式に決めてください。」
O先生の言葉に間髪入れず返す。
「やはりインプラントでお願いします。」
「いえいえ、決定は来週で結構です。」
患者が術式を検討する時間をとるというマニュアルがあるのだろう。
インプラントにするか、背中やお腹の脂肪から自家再建するかでは、その後の道に大きな違いがある。
決断を悩む患者がいても当然であるし、そのための措置なのだと感じた。
翌週の形成外科の予約を入れ、病院を後にした。
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