両側乳がんラプソディ #11 情報の海に溺れる
次の診察までの2週間、私のプライベートの大部分は乳がんのさまざまな情報をネット上で漁り、書籍を読むことに費やされた。
まずは乳がんの基本情報から学び始めた。
乳がんと一口に言っても、乳管や小葉など、がん細胞が発生する箇所はさまざまであること、非浸潤と浸潤があり、非浸潤は乳管や小葉に止まっているもので、浸潤はその周囲に広まっているということを知った。
乳がんでステージ0というのは非浸潤を指すということなので、私のがんも非浸潤であってほしいと願った(ちなみにこの時の願いはのちに違う形で叶えられることになる)。
浸潤がんはさらに分類でき、ホルモン受容体やがん細胞の増殖度合いなどによって、主に4つのサブタイプに分けられるという(詳しくは検索してもらいたい)。
私が告知の時に驚いた「穏やか」という表現は、このうちのルミナルAタイプに対してよく言われるものであるらしい。
さらに、これらのサブタイプによって中心となる治療方法が異なるため、乳がん患者や治療を一括りにして語ることはどうやら難しいこともなんとなく理解できた。
さまざまなサイトを渡り歩き、いろいろな情報を触れるのだが、なかなか説明が頭に入ってこず知識が定着しない。
がんに代表されるような命に関わるかもしれない大きな病気の大変さは、医療用語を読みこなすことにあるのではないか。
私だけかもしれないが、病気や治療に関する用語や説明を読んでも難しくて細かくてわかりづらい。
カタカナが多くて覚えられない。
仮に理解した気になっても、その後、自分でうまく説明できないから、また検索するというループに私は陥った。
しかも、治療が細分化されているということは選択肢が多いということでもあるから、その治療の意味を分かっていないと選択にもたどりつかない。
情報リテラシーで振り落とされる。
結果的に、私は一次一期再建の方法を選択することになるのだが、その施術ができる病院は限られていることをたまたま出会った医師に教えてもらわなかったら、病院選びも違ったものになっただろうし、再建方法も変わったはずである。
G施設で手術をする際にサポートしてくれた乳腺科の医師が言っていた言葉を思い出す。
病院によってできること(やっていること)や治療の進め方はかなり異なるため、どこにアクセスできるかどうかが鍵になる、という話である。
まずは医療用語を使った病気や治療の説明を理解し、その上で、自分にとって何が最善の治療なのかを考え選び取る、それは決して簡単なことではない。
他方、医師の視点から考えてみると、右も左も分からない患者に病気や治療について専門用語を使用せずに説明するのは根気のいることだろうとも思う。
しかも、診察や手術を待つ患者は次から次へと現れ、一人当たりに避ける時間もそれほど多くない。
ネット上にはいろいろな情報が溢れているから、そこで知った知識に対する患者の疑問や誤解を解消する手間もかかる。
ネット社会やそこで得られる知識はがん患者にとって本当にありがたい。
それは間違いない。
孤独や不安から救ってくれるから。
情報を取捨選択し、正しく冷静に理解する力が求められるのはもちろんだが、病気を前に心身ともに弱っている時、それが発揮できるだろうか。
考えなくても学ぶ努力をしなくても、年齢問わず誰でもアクセス可能な情報伝達手段があれば医療従事者にとっても患者にとっても良いのだろうが、言うは易し行うは難しなのだろう。
こんなことを考えるのもがんを経験したからに違いなく、当事者になってみないと見えてこないこともあると知った。
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