両側乳がんラプソディ #7 再建という選択肢
乳房再建には、人工物を入れるインプラント再建と自分の背中や腹などの組織を移植する自家再建があり、ともに保険が適応される。
インプラントは身体への負担や手術回数、入院期間が抑えられるのに対し、自家再建はあたたかみや加齢に伴う下垂が生じるという強みがあるそうだ。
さらに、摘出手術と同時に再建にも取り掛かる乳房再建は、一次一期再建と一次二期再建に分けられるという。
一次一期とは、乳腺の摘出と同時に再建まで一回の手術で終えることを指し、一次二期は、乳腺の摘出手術時にティッシュ・エキスパンダーと呼ばれる皮膚拡張器を入れ生理食塩水を追加しながら皮膚を伸ばし、半年程度経った頃にインプラントか自家再建の手術を行うものである。
乳がんと診断されたばかりで、右も左もわからない初心者マークの頭に、情報が染み込んでいく。初めましての世界が広がる。
「ただし」
医師は、少し間をとった。
「この地域で現在、一次一期再建ができるのは、G施設だけです。」
どこにあったっけ、G施設。ハテナマークが浮かぶ。
「私は、今、M病院の所属ですが、この春までG施設で働いていました。G施設だと、一次一期再建を行えるだけではなく、先生方の治療技術も高く信頼できます。中にいたからこそ、G施設を薦めます。」
「ここの病院では、残念ながら摘出手術はできても再建手術は難しいと思います。」
その言葉を聞き、前回の医師の話を思い出した。
だから、非常勤という含みを持たせたのですね、先生。
理由を確認して、特段の問題がなければ、病院を移る必要があることを伝えたかったのですね。
心の中で、納得していると、
「ただし」
同じ言葉が重なる。
「G施設は混んでいるので、手術まで2ヶ月以上待つことになります。」
それは長い。
「そんなに手術を先に伸ばしても大丈夫なものなのですか。」
「このタイプの乳がんの場合は、問題ありません。」
大体の入院日数、術後の回復期間、退院後の生活など、私が思いつくままにぶつける質問に対し、医師は、柔らかボイスで次々に応答する。
半刻の間に、がんの告知から再建方法、摘出方法の種類、治療施設や治療のプロセス、日常生活の注意事項まで、知っておくべき知識や情報をまとめて簡潔に教えてくれた先生の素晴らしさよ。
その後、私はネットや書籍を読み漁ることになるのだが、正直、この時の情報以上に得たものはあまりなく、この時の情報が私の治療選択を支えたと言っても過言ではない。
もちろん、医師の話を鵜呑みにしたわけではないけれど、遊泳方法を独学で身につけるのと、コーチについて練習するくらいの違いはあった。
溺れる経験をすることはなかったから、泳ぐことを嫌いにならずにすんだ。
少なくとも、一次一期再建を選択肢に入れることができたのは、この先生のおかげである。
そして、選択肢という希望が見えたことで、全摘告知のショックからも立ち直り、平常心まではいかないけれど、その後、落ち込むこともなかった。
その時の私は、なかったことにしたかったのだと思う。
乳がんと言われ、全摘になって心身ともに変わってしまうことが怖かった。
日常にすぐに戻れれば、乳がんであれ、なんであれ、それは一時的なものだ。
再建は以前の自分につながる分岐器で、乳がん患者である自分を元に戻す手段であった。
そうやって自分を奮い立たせ、落ち着かせ、なだめた。
人によって気持ちの切り方は違えども、私にとってはこの方法が有効であった。
覚えたての知識で脳が膨れ上がっている私を前に、先生は言う。
「では、右胸の針生検をもう一度やりましょう。今度はもっと太い針ですが。」
柔らかボイスに乗る文言はきつい。