百円玉で買えなくなった温もり
風が吹けば寒さで身体が震えるこの季節。温かい飲み物を飲んでホッと落ち着きたくなるときがある。
お昼過ぎての午後3時。そんなホッとした瞬間を味わいたくて自動販売機へ向かった。
お目当ては、ミルクティー。
今の僕がこの世で一番好きな飲み物だ。ちなみに、ただのミルクティーではない。ぬるーいミルクティー、それが重要なのだ。
毎年寒い季節がやって来て自販機に「 あたたかーいシリーズ 」が登場すると、あたたかーいミルクティーを買う。
買ったら即、両手で握ったりポケットに入れてカイロ替わりにして暖をとるのだ。これがなんとも心地よい。
だが、時間が経てば恋も熱も冷めるもの。徐々にミルクティーは冷めてぬるーくなる。
適度にぬるーくなって、両手でもずっと握ってられるようになったときが飲み頃。
体温と同じくらいになったミルクティーを飲むと、ミルクティーの甘さがものすごく際立つのだ。口いっぱいにじわ〜っと広がる幸せな甘さ。この感覚は、熱すぎても冷めすぎては感じることができない。
適度な温度、つまり、ぬるーいミルクティーでなければ感じることができないのだ。
今年もそんな幸せを感じられるぬるーいミルクティーが飲める季節になったので、ルンルンしながら自販機へ向かったのだった。
だが、いざ目的地に着くとガッカリ。お目当てのタイプのミルクティーがなかった。
確かにミルクティーはあるにはあるのだが、僕が求めていたのは缶のタイプのミルクティー。さらに、商品名を言ってしまうなら「 白の贅沢 」。
しかし、その自販機にあったのはペットボトルタイプオンリー。
ペットボトルでは、心なしか甘みのクオリティが下がる気がする。なので、出来れば缶のミルクティーなのだ。
それに缶だと割と値段が安い。だいたい100円くらい。
一方のペットボトルは値段が高い。今日僕が発見したものは130円だった。
味、値段、ともに行き着いたのが缶タイプの「 白の贅沢 」というミルクティーだったのだが、無いものは仕方がない。
それならばと、100円で買える缶コーヒーを探すことにした。缶コーヒーでも温まれるし。
そういえば、尾崎豊の「 15の夜 」という曲の歌詞で「 100円玉で買える温もり 熱い缶コフィ握りしめ〜 」というフレーズがあったなぁ。
そんなことを考えながら自販機に表示された値段のレーンを左から右へと上から順に眺めた。
だが、ここでも問題が。
なんと、100円玉で買える温もりがないのだ。1番安くても120円なのだ。
くっ、、、時代なのか、、、
昔の歌を聞くと、「 ポケベルが〜 」とか時代を感じさせるようなモノが登場することがあるけど、金銭感覚でも歌の時代って感じられるんだなと、ちょっとした発見があった。
それと、現代日本では、盗んだバイクで走り出しても100円玉だけで寂しい夜を過ごせないということも知った。
好物のぬるーいミルクティーもなければ100円で買える温もりもない。
自販機のラインナップと時代にガッカリしながら、僕は何も買わずに自販機コーナーを後にした。
結局、出費もなく一日を過ごせた僕の財布だけが温かかった。