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"高校野球経験なし"から、一軍の切り札へ −異色の経歴を持つ、千葉ロッテ・和田康士朗に"今だから"注目すべき理由
昨今の情勢により、様々なスポーツで大会・試合が中止となっています。
それによって、プロのスカウト陣に向けてアピールする場を失い、進路を切り替える選手が出てきている、というニュースも耳に入ってきます。
これを書く私自身、高校時代、怪我によって現役をやめた経験があります。
競技継続はおろか、思い切りスポーツをすること自体難しくなった悲しみややるせなさは、今でも忘れることがありません。
夢・目標が絶たれ、未だどうするべきか悩み続けている選手も多いと思います。
そんな今ご紹介したいのが、プロ野球(NPB)・千葉ロッテマリーンズに所属する外野手、和田康士朗選手です。
(2つ目は2:49~和田選手)
経歴の珍しさやプレースタイルから、ドラフト時よりちょっとした話題を集める選手です。
そのため、「名前を聞いたことがある!」というプロ野球ファンの方もいらっしゃるかもしれません。
その和田選手ですが、先日入団3年目で待望の支配下登録選手となりました。
支配下登録後、現在4試合連続で盗塁を成功させる(※投稿日時点)など、一軍の切り札として活躍しています。
今話題沸騰の和田選手。
大会中止が相次ぐ今だからこそ、知ってもらいたい選手でもあります。
幕張の新星スピードスター
まずはじめに、和田選手はどんな選手か軽くご紹介しましょう。
公式プロフィールはこちらです。
#63 和田 康士朗(わだ こうしろう)
21歳/185cm/77kg
外野手/左投左打
(※全て記事公開時点)
2017年のドラフト会議にて、BCL・富山GRNサンダーバーズ(BC富山)から育成ドラフト1位で千葉ロッテに入団。
ドラフト会議にて育成1位指名をいただいた #千葉ロッテマリーンズ と #和田康士朗選手が契約を行いました。「フルスイングを貫いて、支配下を目指します!」と意気込んでいました!#富山GRNサンダーバーズ#chibalotte pic.twitter.com/Kv9fPgBcwv
— 富山GRNサンダーバーズ【公式】 (@T_birds) November 19, 2017
写真でも分かる通り、非常に線が細い選手でした。
なかなか体が大きくならないことも、悩みの一つだったそうです。
それでも地道な食トレや練習を続け、体づくりを行いました。
185cmという背の高さもあり、現時点でも細身な選手です。
しかし、入団当初とくらべるとかなりプロの選手らしい体つきになってきました。
持ち味は、体がねじ切れそうなほどのフルスイング、そして50m5.8秒の俊足。
愛称は、福岡ソフトバンク・柳田選手をなぞらえて、前所属・BC富山でチームメイトがつけた「和ギータ」です。
その身体能力の高さが評価され、育成選手の時点からキャンプやオープン戦でも積極的に起用されてきました。
ロッテの「ワギータ」がシート打撃で本塁打!育成ドラフト1位の和田康士朗外野手(19)のスイングはソフトバンク柳田が手本。愛称「ワギータ」。埼玉・小川高校時代は陸上部に所属し、野球はクラブチームで続けたという異色の新人です。#千葉ロッテマリーンズ #chibalotte #npb #和田康士朗 pic.twitter.com/Uj5eLcZvwB
— 日刊スポーツ野球取材基地 (@nikkan_yakyuude) February 6, 2018
高校野球経験なし!異色の経歴
そんな和田選手、なんと高校野球を経験していません。
中学時代は地元中学の軟式野球部に所属。
選抜選手に選ばれるなど、当時から頭角を現していました。
しかし、故障や選抜チームで感じた他の選手との実力差から、「高校では続けられない」と自信を無くしてしまいます。
結果として、和田選手は一度野球から離れることになります。
そして、進学した高校では陸上部に所属。
陸上部では走り幅跳びの選手でした。
そんなある日、テレビでふと目に入ったのは、小中共に戦った同級生が地方大会でベンチから声を出して頑張っている姿。
「自分もまた野球をやりたい」
そう思った和田選手は、陸上部を退部します。
出身校・小川高校は野球部の人数が少なく、より高いレベルでのプレー環境を求めて外部のクラブチームに所属しました。
そこで入団したのが、地元の硬式クラブチーム・都幾川野球倶楽部です。
高校卒業後は進学を検討していたそうですが、ここでも転機が。
腕試しにと受験したBCリーグトライアウトで、持ち味の俊足とフルスイングが評価されたのです。
結果、前所属・富山GRNサンダーバーズから、1巡目で指名を受けました。
BC富山で少しずつ力をつけた和田選手。
その俊足とフルスイングは、NPBスカウトの目にも留まりました。
それから約1年後。
2017年のNPBドラフト会議で、今度は千葉ロッテマリーンズから育成1位で指名を受けます。
育成から支配下登録、そして代走の切り札へ
NPBに所属するプロ野球選手とはいえ、あくまで育成選手という立場。
契約期限は3年間、一軍の試合への出場権はありません。
少ないチャンスの中努力を重ね、徐々に成績を伸ばしていきました。
足の速さはもちろん、さらに豪快なスイングから繰り出される長打にも磨きがかかっていきました。
そして迎えた2020年、入団3年目。
春の石垣島キャンプでは、二軍スタートでした。
それでも和田選手は、地道にアピールを続けました。
そしてついに、対外試合遠征メンバーとして一軍帯同を勝ち取ったのです。
一軍帯同メンバーとして試合に出場し、和田選手は数多くの盗塁や好走塁でチームの勝利に貢献しました。
そうやって順調に結果を出してきた和田選手に、大きな壁が立ちはだかります。
3月に入り、鳥谷選手の獲得・入団。
育成契約で入団したフローレス選手の支配下登録決定。
70人までの支配下登録枠は、この時点で残り2。
シーズン中の補強可能性を考えると、かなり厳しい状況でした。
それでも、主に代走出場と少ない出番ながらアピールを続けました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、オープン戦が中断。
育成3年目の貴重な約2ヶ月間、アピールすることも叶いませんでした。
この時期について、支配下登録後の取材で「耐えるしかなかった」と話しています。
せっかく結果を残してきたのに…という思いは強くあったことでしょう。
しかし、練習再開後の紅白戦で、和田選手は2ヶ月前と同じように輝きました。
そして紅白戦の翌日、球団は和田選手と支配下選手契約を結びました。
支配下選手契約を結んだ和田選手。「嬉しいです!いつも励ましてくれた両親に感謝の気持ちを伝えたいです。」と喜んでいました。(広報) #chibalotte pic.twitter.com/hLGc5TWyUa
— 千葉ロッテマリーンズ (@Chiba_Lotte) June 1, 2020
和田は自分の力で支配下選手契約を勝ち取りました。一番の魅力は足。十分に1軍戦力として貢献してもらえると思っていますし、だからこそ、開幕前の時期に支配下選手契約にしてもらいました。打撃も豪快で非常に面白い。6月2日から始まる練習試合でアピールをして、次は開幕1軍の切符を手に入れてほしいです。
−2020/06/01 井口監督談話
井口監督の言葉通り、まさに「自分の力で支配下選手契約を勝ち取った」選手なのです。
現在、一軍で主に代走の切り札として積極的に起用されています。
千葉ロッテの外野手争いは、現在非常に熾烈です。
しかし、得点に絡む印象的なプレーを多く見せており、シーズン開幕後も代走の切り札として大きな期待を寄せられています。
代走のコールだけで場内が盛り上がる、そんな選手になる未来は近いかもしれません。
将来的には外野の一角を担うレギュラー選手として、活躍してほしいですね。
"諦めないのが 僕らの道標"
和田選手の凄さは、この諦めない姿勢にあると思います。
一般的な選手とは異なるルートでも、続けていればいつか大きな花が咲く。
やり抜いたことが、結果として形になりました。
私はファーム施設見学が好きでよく足を運ぶのですが、そこでいつも和田選手が練習に励む姿を見てきました。
俊足や高い身長といった才能の持ち主ではありますが、それ以上に努力の人だと強く感じます。
ほぼゼロからの体づくり、硬式野球経験の穴埋め。
そこから始まった選手が、今一軍選手として生き残りをかけた戦いに挑んでいます。
努力量は計り知れません。
私は、怪我をきっかけに、プレーヤーとしてスポーツに関わることはできなくなりました。
でも、あのとき「部活を辞める」以外の選択肢を取っていたら…?
部活を辞めても、違う道を考えていれば…?
和田選手を見ていると、そんな可能性について考えさせられます。
「諦めないで」と簡単に言うことはできますが、私自身プレーを諦めざるをえなかったため、正直無責任なことは言いたくありません。
(もし当時の私がそんな言葉を聞いたら、余計に落ち込むと思いますし)
しかし、「他のルートがあるかもしれない」と考えることはできるのではないでしょうか。
道は一本ではなく、一見逸れているように思えても、どこかで夢・目標につながっているかもしれません。
人より出遅れてしまっても、十分取り返すことができるかもしれません。
“僕ら何度でも 何度でも 立ち向かえるさ”
和田選手が使用する登場曲、Green boys/GreeeeNにこんなフレーズがあります。
掴みたいんだろう 笑いたいんだろう 自分の足に 限界なんて 誰が決めたんだ⁉︎
-Green boys/GreeeeN
自らの"足で掴み取った"支配下登録。
和田選手にぴったりだな、と今改めて感じます。
怪我と挫折から、人とは違うルートで歩みはじめたプロへの道。
選択肢はひとつではないです。
和田選手の活躍から、そう感じてくださる方がひとりでも増えれば、私も嬉しく思います。
人は悲しみが多い程 遠回りする事もあるだろうが
まだ道は途中 逃げないで 今以上に『自分』自身抱き締めんだ
ほら大丈夫 いつだって 足跡が背中を押してくれるさ
この道を 進んでいこう
-Green boys/GreeeeN
最後になりますが、和田選手の今後一層のご活躍をお祈りしております。
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参考記事