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ニューロマンサー読み始めました(随時更新)
はじめに
「読むことは決まっているけど、それがいつなのかは決めかねている本」というのが結構ありまして、ニューロマンサーもその一冊でした。
何故かって、AKIRAだってマトリックスだって攻殻機動隊だってアンドロイドは電気羊の夢を見るのか?だって1984だってCyberpunk 2077だってエッジランナーズだって好きなのに、ニューロマンサーを読んでいないだなんて、界隈の方たちに顔向けができないから。
今回はKindleです。他にもいろいろと読み散らかしている本があるのと、そもそもこの本は一気に読み進められる自信がないので、隙間時間を使って少しずつ気長に読むつもりです。読書をテキスト(note)で実況するなんて変だけど、なかなか読み進められないような気がしたので、自分のモチベーションの維持と、頭の整理のために始めてみました。なお、過去にはDark SoulsⅢのゲームプレイで同じような事をやりました。何でもいいのでコメントを頂けるときっとうれしいです。
1.SFは好きで苦手、でもサイバーパンクな世界観がうれしい[5月16日:2%]
意気揚々と表紙のページをスライドしたら、目次を見てさっそく出鼻をくじかれました。やっぱりSF苦手かも…
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続く1ページ目はこんな感じ。書き出しの「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。」は、なかなかいい。TVの砂嵐からは、デジタルとアナログとが混在した、人工的かつ無機質で、陰鬱な雰囲気を連想させる。サイバーパンクな世界への入り口として、申し分の無い書き出しだ。
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でも、それ以降は…。なんなんだろう、この突き放されたような読みにくさ。SF全般なのか、著者なのか、訳者なのか。はじめの1行がなかったら、1ページ目ですでにくじけそうになってたと思う。
その一方で、始まって数ページから、何の解説も無し電脳空間だとか、ナイト・シティーだとか、マトリックスなんかの用語が出てくるのがうれしい。もちろんマトリックスという言葉を共感覚幻想やら電脳空間という意味で利用したのはこの小説が初めてで、映画マトリックスのルーツとも言える。この小説の舞台には、ネオとかルーシーとか少佐とかジャッキーがどこかに住んでそうな気がして、この感覚は好き過ぎる。ちなみに、この小説では職業的なハッカーのことを電脳空間カウボーイと言うのだけれど、この表現はさすがにダサいwww、ネットランナーの方が断然いい。電脳空間に没入も悪くはないけど、電脳ダイブのワードのインパクトに比べちゃうと弱い。とりあえず、全体的に中二病が炸裂したような文書で読みにくいんだけど、物語のストーリーとは全然関係ないサイバーパンクな世界観の部分で楽しめるからありがたい。
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2.基本設定の理解と類似とケイス[5月19日:4%]
読書は苦手じゃないのに、異常なまでの読みずらさにびっくりしている。このクセは、翻訳者のせいじゃないのか??と思って黒丸 尚 を検索すると、その代表作の一つにダグラス クープランドのジェネレーションXが。言われてみれば、これでもかというほどにルビを多用するクセと、このシャープな文書は、ジェネレーションXと同じだ!だからどうというわけではないけど、変に納得させられました。
さて、本作の主人公の名前はケイス 24歳 男です。元電脳空間カウボーイ(www)。「マトリックスにジャック・インするときに身体から意識が離れるという感覚に高揚感を感じている。」とか「生身の肉体を「牢獄」と呼んで軽蔑している。」などの表現から、重度のネット中毒者であることがうかがえます。また、伝説のハッカー(フラットライン)に師事したことや、企業との大きな取引を捌いて高額な報酬をえていたことから、そのハッキング技術もそうとうであるらしい。しかし、22歳のとき、盗んだ情報をさらに盗むという規約違反を犯し、クライアントに捕まり、その制裁として神経系に損傷を与えられ、二度と電脳空間に没入することが出来ない身体になってしまった。何人もの闇医者に診てもらうが、治療法はまだ見つかっていない。そのため、ネットの高揚感を求めて、ドラッグに頼るようになる。そのためにはお金が必要で、危険だけど大した報酬が得られない仲介屋の仕事をしながら空虚な日々を送っている。
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なるほど。私の中のサイバーパンクな知識とリンクして、非常に楽しい。エッジランナーズでは、生身の体にサイバーウェアを移植するアンドロイド化を進め過ぎてしまうと、その拒絶反応のような副作用により、だんだんと自我が保てなくなるサイバーサイコシスという症状を発症する。手の痙攣など、サイバーサイコシスの症状が出始めたら、ドラックを使ってそれを抑制するのだが、必要なドラックの量はどんどん増え、肉体も精神も蝕まれていき、最終的には自我を失ったサイバーサイコと化し、危険人物として処理される対象になってしまう。デイビッドやメインは、その狭間で苦悩していた。ニューロマンサーのケイスは、人体改造はしていないようなので事情は異なるが、ドラッグへの渇きという点ではよく似てる。それからもう一つ、Cyberpunk 2077のVは、破損した<relic>というチップに接続をしたせいで、コンストラクタといわれる、別の人格(ジョニー・シルヴァーハンド=キアヌ・リーブス)が脳内に共存し、その侵食を防ぐために、技術力の高い医者(リパードク)を探している。こちらも、事情は異なるが、損傷した神経系を修復し、再度電脳空間に没入するために闇医者を探しているというケイスによく似ている。そして何よりも、これらの物語の中心である共通の町、ナイト・シティーがエモい。ニューロマンサーでは「つまり、〝夜の街〟は住民のためにあるのではなく、故意に無監視にしたテクノロジーそのものの遊び場だというのだ。」と書かれている。まさかその所在が千葉市だったとは知らなかったけど。
3.フィクサーとコブラ[5月20日:8%]
どんだけゆっくり読んでるんだってペースなんだけど、一度帰りの電車の中で数十ページ読んだんだけど、全然頭に入っていなくて読み返してる。
電脳空間に没入することができないケイスは、危険で手短な仕事ばかり受けている。借金もあり、素行もあまりよろしくないようで、同業者から命を狙われている。そのことをバーの仲間から忠告される。古いつきあいと思われる仲間からの人望はあるようだ。首のまわらくなったケイスは、ジュリアス・ディーンという生姜の漬け物が好物な老いぼれに相談に行く。135歳の富豪でナイト・シティーで一定の影響力を持つ老人(ただし大金を注いで老化を防いでいるので、見た目は若い)のようで、ごろつき同士のトラブルや仕事の斡旋をしてくれる。ヤクザなのかもしれないけど、これはCyberpunk 2077のフィクサーなんじゃないかと思った。年齢的にはワカコ・オカダだろうか(さすがに135歳と一緒にしたら消されてしまいそう…)。
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命の危険を感じたケイスは、護身用の銃を調達しようとするが、それが思うように手に入らない。銃なんて簡単に手に入る世の中なんだと思っていたから、これは意外だった。で、そんなケイスが銃の代わりに手に入れた武器がコブラ。このコブラの描写がまたわかりにくくてさっぱりイメージが出来ないからネットで検索するも、どうやらわからないのは私だけで無く、世界中で大論争になっているようだ。伸縮式の警棒の様なモノ、または鋼バネの鞭のようなモノ、などの意見があるが、最新の考察ではうさぎのアレという説もあるそうだ。
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女はカウンターの下から横長の箱を出してきた。黄色いボール紙の蓋には、首の膨れたコブラのとぐろを巻いた粗末な絵が捺してある。箱の中には、薄紙包みの同じような筒が八本あった。ケイスの眼の前で、茶色のしみだらけの指が、一本から紙を剥ぐ。女はそれを差し出して見せた。鈍色の鋼鉄の筒で、一端に革紐、もう一方の端にはブロンズ色の小さなピラミッドがある。女は片手で筒を握り、もう一方の手の親指と人差し指とでピラミッドをつかんで、引いた。固く巻きこんだコイルばねが三本、油まみれに伸び出して、噛みあった。 「コブラ」 と女が言う。
ケイスは向き直り、ジャケットを着ると、コブラをぎりぎりまで飛び出させてみる。ここのドアは閉まっているから、追っ手はケイスが蹴り開けた部屋にはいったと思うに違いない。コブラのブロンズ色のピラミッドがゆるやかに上下する。鋼製ばねの軸がケイスの脈拍を増幅している。
なるほどわからん。この後ケイスは銃を手に入れて、コブラはゴミ缶に葬り去ったとさ。
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4.リンダとケイスとV[5月22日:12%]
リンダ・リーは、ケイスの元彼女。この小説ではじめて登場する女性だが、どうやらこの物語のヒロインではなさそうだ。腐れきったケイスと生活を共にし、その影響で麻薬中毒になった。覚醒剤を注射する彼女の姿に蟷螂(カマキリ)を重ねるのはエグい。
ケイスの眼前で、リンダの人格は破片と化し、氷山のように分離したかと思うとかけらは漂い去り、最後には剥き出しの欲求、中毒による飢えの枠組を露呈させた。眼前でリンダが注射痕に次の一発をうつときの集中ぶりを見せられて、ケイスは、滋賀通りの露店で売っていた蟷螂を想い出した。
化粧スティックで縁どりした灰色の目。色褪せた軌道作業服(青いジップスーツ)の両袖を肩のところで切り取って着ている。新品の白色のスニーカー。黒い髪をひっつめて、絹のプリント地(その柄は”マイクロサーキットのような” や”マイクロチップの模様”あるいは ”市街地図の模様”と表現されている)を紐のようにして縛ってある。すでに死亡フラグが立っているリンダだが、容姿のディティールが描写されていて、そこからサイバーパンクな世界の想像が膨らむ。
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それからケイスの話。どうしてもCyberpunk 2077のVと重なっちゃう。でもって、私がVを女性キャラとしてプレイしたもんだから(男性も選択できる)どうしてもケイスが女性な気がしちゃって混乱する。それは私の問題なのでしょうが無いけど。なお、Cyberpunk 2077の女性Vの声優がとてもよい。腐れきったナイト・シティーで、フィクサーや企業から依頼(主に殺し)を受ける腕利きの傭兵であり、また、残りわずかな寿命という悲劇的な人生を背負っているのに、その声からはVの人の良さと悲壮感が滲み出ている。今のところケイスにはそれほどのプラスの印象はない。元カノをカマキリに見立てるナイト・シティーらしいクソ野郎だ。
5.モリイと村上春樹[5月28日:16%]
ケイスを付け狙っていたのは、仕事敵ではなくアーミテジという依頼人からケイスを連れてくるようにと派遣されたモリイという凄腕の傭兵だった。モリイは、さまざまな身体改造を施している女サムライで、きわめて戦闘力が高い。アーミテジが何者なのかはよく解らないが、Cyberpunk 2077の世界で言えば、ジュリアス・ディーンとはまた異なる、フィクサーまたは依頼人の一人のようだ。ケイスは損傷した神経系を治してもらうことを条件に、アーミテジの元で仕事をすることになる。ケイスと行動を共にするモリイ。治療直後でまだ身動きのとれないケイスとの濡れ場が急に始まる。
返事代わりに、モリイはうしろに手を伸ばし、ケイスの両腿の間に手を入れると、親指と人差し指とで柔らかく陰嚢を包んだ。
おい、ノルウェイの森かっ!
モリイが滑りおりてケイスを包みこみ、ケイスは痙攣するように背を反らせる。そのままモリイは、貫かれたなりに、繰り返し繰り返し滑りおり、やがてふたりとも達した。ケイスの絶頂は、時を越えた空間に青く花開いた。空間の広大さはマトリックスにも似て、いくつもの顔は引き裂かれてハリケーンの回廊に吹き飛ばされる。モリイの内腿が、濡れて力強く、ケイスの腰に密着していた。
ケイスとモリイとの距離が近くなるとはそういうことで、案の定リンダが死んだ。
反吐が喉にこみあげる。眼を閉じて、深く息を吸い、眼をあけると、リンダ・リーが通り過ぎた。灰色の眼は恐怖に盲いているようだ。相変わらずフランス製の作業服を着ている。 そして消えた。影の奥だ。 純粋に無意識の反応で、ケイスはビールとチキンを投げ棄てて、それを追った。名前を呼ぶべきだったかもしれないが、よくわからない。 赤光がひと筋、髪の毛ほどに細く走った残像。薄い靴底の下に灼けたコンクリート。リンダの白いスニーカーが輝く。もう彎曲した壁に近い。またもやレーザの微光が眼の前を横切ったが、ケイスが走っているので、揺れて見える。
・・・
リンダを見つけた。コンクリート柱の基部にほうり出され、両眼は閉じている。焦げた肉の臭いがする。
でも、その原因がいまいち読み込めていない。ケイスの激やばチップ(日立製のRAM)をディーンに売りさばこうとしたことで、ディーンに目を付けられて殺されたわけだが、リンダはお金のためにケイスからチップを盗んだのか?そのために、「仕事敵から命を狙われている」とケイスに嘘をついたのか?リンダは何故お金が必要だったのか?薬のためか?ナイト・シティーを出るためか?もう一回読み直さないと解らない…この小説は説明が少なすぎる、突然場面がころころ変わるしさ。モリイは、ケイスにとってリンダがどのような存在であるかは調査済みだ、そのリンダを殺めるように指示をしたディーンのことを始末したのは、ケイスへの優しさなのか…
モリイは血飛沫のついた生姜漬けの袋を手渡した。その手も血でべたついている。奥の暗がりで、誰かが湿った音をたて、死んだ。
ともかく、ケイスは元カノであるリンダの最後を目の当たりにする。切ないよぉ…。ディーンも死に、これまでのしがらみとは一切の縁を切って、これからは、アーミテジの元でモリイとともに傭兵として働くのだ。神経系の手術は成功した、数日の後には再び電脳空間に没入が出来るようになる。そんな場面で第一部の幕が閉じる。アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?や1984とは違った、なかなかにドラマチックな展開で続きが楽しみだ。おぉ、リンダ…
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6.スプロールとチームアーミテジ[5月30日:20%]
第二部の舞台は、残念ながらナイト・シティー(千葉市)ではない。ケイスの出身地であるスプロール。合衆国東部三都市が統合された巨大ドーム都市で、ハッカーの聖地のようだ。モリイとともに、ボスであるアーミテジとともに行動をしている。ケイスはアーミテジとの交換条件により、すでに損傷した神経系の治療が完了している。その代わりに、ハッカーとしてアーミテジの仕事を手伝うのだ。ところが、アーミテジは治療の際にケイスの体に細工をしていて、もしもケイスがアーミテジを裏切ったら命はないといういう。だから全然対等な関係ではない。
それから、治療ついでにドラッグに染まったケイスの肝臓や腎臓も交換をしたようだ(しかも今後ドラッグを吸収できないようにされた)。そもそも、アーミテジがケイスに条件を持ちかけたときのやりとりが非常に興味深い。
「われわれの人物像によると、きみは世間を欺いて、自分がよそを向いているうちに殺してもらおうとしているらしい」「人物像って……」「われわれは詳細なモデルを組み上げた。きみの、ひとつひとつの変名について情報を買い、軍用ソフトウェアで洗い出してみた。きみには自殺性向があるんだよ、ケイス。モデルによれば、あとひと月の命。医学予測でも、一年以内には新しい膵臓が必要になる、と出てる」
ケイスは1ヶ月後には自殺をすること、そうでなくてもドラックに染まった体はあと1年と持たないことをプロファイルから予測をしている。なんだか凶悪犯罪を予知してあらかじめ防止するというマイノリティ・リポートのようだ。このような小ネタがディテールとなってサイバーパンクな世界観を演出してくれるからいい。
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なお、モリイもアーミテジのことを信頼しきっている訳ではない。アーミテジが誰の後ろ立てで活動をしているのかをバレないように探っている。そしてケイスの治療には膨大なお金がかかっており、腕利きのハッカーというだけでは理由が説明が付かない。ケイスを引き込んだ本当の目的は何なのか?思いの外、続きの気になるストーリーで面白い(でも読みにくい)。
7.初仕事、センス/ネット社を襲撃[6月18日:25%]
アーミテジから指示のあったスプロールでの初仕事は、センス/ネット社にあるROM構造物(メモリー)の奪取。そのROM構造物に何が入っているかと言うと、ケイスのハッキングの師匠であり、伝説のハッカーとして名高いフラットラインの擬似人格データである。例によって説明がすごく雑なんだけど、フラットラインという人間はすでに死んでいて、でもその脳みそに相当する人格はデータとしてROM構造物に保存され、センス/ネット社で厳重に保管されているらしい。アインシュタインは脳みそをホルマリン漬けにしてたけど、この世界ではROM構造物として保管することができる。これはCyberpunk 2077でも見慣れた技術だ。Cyberpunk 2077ではソウルキラーという魔技術を使うことで、人格をコンストラクタと呼ばれるデータにすることができ、コンストラクタが埋め込まれた特殊なチップを<relic>と呼んだ。つまりセンス/ネット社から盗もうとしているのは、フラットラインのコンストラクタが入った<relic>というわけだ。
身体改造をしている女サムライであるモリィが突入部隊で、ケイスは自宅から専用の装置を使ってハッキングによる後方支援を担当する。電脳空間に没入をするためにはデッキと呼ばれている装置を利用するが、ケイスに宛てがわれたのはオノ=センダイ・サイバースペース7というモデルの装置。これにホサカのコンピューターやソニーのモニタを繋いでいる。なお、電脳空間に入るとき、マトリックスや攻殻機動隊では首筋に、Cyberpunk 2077では手首にケーブルを差し込んだが、ケイスは生身の人間なのでそんなことはできない。平べったい皮膚電極を額につけて没入する。それから、デッキを使って他人の視覚・聴覚・触覚などの感覚を共有することができ、これを疑験(シムスティム)と呼ぶ。この技術も全てのサイバーパンクな世界でお馴染みだ。以下は、初めてケイスがモリィの体に疑験したときの一コマ。
「どんな感じだい、ケイス」という言葉が聞こえ、モリイがそれを発するのも感じ取れた。モリイが片手をジャケットの内側に入れ、指先で、暖かい絹地の下の乳首を撫で回す。その感触に、ケイスは息を呑んだ。モリイは笑い声をあげる。けれども、このリンクは一方通行。ケイスには返事のしようがない。
男であるケイスが味わったことない、女が乳首を撫で回したときの感触を、モリィがいたずらに体験させたのだ。これは攻殻機動隊に比較すると随分とマイルドな表現だ。攻殻機動隊でも同じような描写があったが、そのときには男であるバトーが、レズプレイ中だった少佐の神経に接続して「ナメクジの交尾のようで気持ちが悪い」といった発言をしたために、少佐の遠隔操作によって、バトーの拳でバトーの顔面を思いっきり殴るという一コマがあった。
なお、スプロールではフィンと呼ばれる仲間が増えている。フィンは情報屋兼機材屋で、ケイスやモリィをサポートする。ケイスのデッキを調達しセッティングしたのもフィンだ。詳細はガッツリと省略するが、ケイスとモリィとフィンのチームワークでもって、無事にROM構造物を取得する。でも、決して簡単な仕事だったわけではない、パンサー・モダンズと呼ばれるスプロールの不良少年集団を雇って陽動作戦を展開したし、モリィはこの作戦で重症を負っている。なお、パンサー・モダンズは、耳には大量のマイクロソフトを挿し、擬態ポリカーボンを着込んでいる。マイクロソフトとは知識などを記録したシリコンチップのことで、マトリックスにてネロがカンフーなどのスキルをインストールしていたのと似た感覚だと思う。また、擬態ポリカーボンというのは、まさに攻殻機動隊の光学迷彩のことだ。初めて読む小説なのに、あちこち既視感がエグい。
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8.イスタンブールの新たなお友達リヴィエラと、ウィンターミュート[7月12日:37%]
アーミテジの指示で、一行はイスタンブールへ向かう。そこでリヴィエラという新たな仲間を迎える(というか拉致する)。彼は、神経系に埋め込まれた特殊なインプラントにより、他者の視覚にホログラフィックな幻影を作り出す特殊な能力を持っている。要するに、他人の視覚をハッキングすることができるのだ。これまでケイスのハッキング技術は、主に諜報活動のために利用されていたが、リヴィエラのそれはずいぶんと違う。桃太郎のように、特殊な能力を持った仲間が集まってきていて、次の展開への期待が高まる。
アーミテジは、何か大きな目的を果たそうとしている。そのために、モリイもケイスも、フラッドラインのROMもリヴィエラも集められたようだ。モリイは、アーミテジが誰の指示で、なんの目的で動いているのかを詮索しているのだが、ここでその一部が解明する。
フラッドラインの力を借りつつ、ケイスのハッキングにより、二つの真実を突き止める。アーミテジの正体が、極秘作戦「スクリーミング・フィスト」の失敗により廃人となった元軍人コートであったこと。そして、冬寂というAIが、廃人と化したコートを操って、今のアーミテジが存在していること。
冬寂の目的はまだわからないが、テスィエ=アシュプール財閥と何らかの関係があることが示唆される。そして、アーミテジは、テスィエ=アシュプール財閥の本拠地である宇宙ステーション「フリーサイド」への潜入計画を皆に明かす。これまでの仲間集めの目的は、すべて「フリーサイド」への侵入計画のための準備だったようだ。
ここで第二部 買物遠征の幕が閉じる。第三部からがいよいよメインのストーリーとなるようだ。面白い。面白いはずなのに、全くページが進まない。まったく不思議な本だ…
なお、リヴィエラの視覚をハックする能力について紹介しよう。これはあらゆるサイバーパンクな世界でおなじみの能力だ。戦闘にも陽動にも悪戯にも使える。本作でも、いたずらにこの能力を利用するシーンがあった。
一度だけ、機が海上で傾斜したとき、 ケイスはギリシャの島の町の、宝石のようなきらめきを眼にした。これも一度だけ、飲み物を取ろうとして、バーボンの水割りの底に、巨大な人間の精子のようなものが瞬くのを見た。モリイがケイスごしに体を伸ばして、リヴィエラの顔を一発ひっぱたき、「おやめ。悪戯はしないの。そういう識閾下ごっこをあたしのまわりでやったら、いやってほど痛めつけるからね。傷ひとつ作らずに痛めつけられるんだよ。それが楽しみなんだ」ケイスは無意識に振り返ってアーミテジの反応をうかがった。なめらかな顔は落ち着き払い、青い眼に油断はないが、怒りの色もなく、「そうだよ、ピーター。やっちゃいけない」 ケイスが眼を戻すと、かろうじてごく一瞬、黒薔薇をとらえた。花弁が革のようにぬめり、黒い茎には鮮やかなクロームの棘があった。
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つづく