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#内省009 ひとりごち


ネガティブなことはあまり吐露しないほうがいいと思って普段は取り繕っているのだけれど、人生一寸先は闇なので他山の石としてください


妻との一日の会話の量がTwitterの制限程度になり数ヶ月がたった たまには会話をすることもあるが、中央値でいえば140文字がいいところで「おはよう」とか「いってきます」の挨拶しか交わさない日も珍しくなく、そういった日常の挨拶もいつも私からであり、妻から先に声を掛けられるということはまずない

子供たちは妻にべったりなので、いつもわちゃわちゃと会話をしているのだが、そんな子供たちもいつの間にやら妻と同じ様に、私に何かを話しかけてきたり挨拶を先にしてくることは殆どなくなった

それどころか、ときどき私の声が家族に届かないことさえある 私の発した声が空中で分解して排気口に吸い込まれてしまっているのか、見えない壁にでもぶつかって砕けて散ってしまっているのか、喋っているつもりでも声帯がちゃんと振動をしていないのか、届いているのに無視されているのか、理由は解らない

例えば家族そろって食卓を囲んでいるとき、私が『今日は立冬だね、どうりで寒くなってきたわけだ』といっても、誰かがそれに返事をしたり、私に視線を向けるようなことはない

『トランプが大統領に決まったんだって?』とか『イラクがイスラエルにミサイル打ち込んだの知ってる?』とか『近所の公園のイチョウ並木が色づくのは来週末頃になるのかね?』のように、問い掛けるような形で話をすると、気だるそうに妻が『わからない』と返事をしてくれる 妻に何かを話しかけたとき、それがオープンクエッションであれ、クローズドクエッションであれ、ひとまず最初の回答はいつも『わからない』なのである

いつだか、タイミングを合わせて同時に『わからない』と声を合わせて言ってみたところ、空気が一瞬ピリついたのと同時に、ナイフのように鋭い一瞥の眼差しが飛んできて、左目の斜め下2センチのところを4針縫う傷を負ったことがある 冗談を言うときはTPOをわきまえないといけない

しかし、そうなる原因は私にあって、家族は世の中のことになんてまったく興味がなくて、ヒカキンやちいかわの新しい動画のことだとか、担任の先生や校則がいかに理不尽でクソな話だとか、潰れた銀杏がゲロ臭いことだとか、そんな話にしか興味がないのだ それなのに「百年の孤独が文庫になった」だとか「安部公房展をやってるだとか」だとか「日経平均が最高値を更新した」だとか「紅葉と楓の違い」だとか「イスラエルのアイアン・ドームの性能の話」だとか、そんな興味の無い話を持ち出されては、知識マウントだとうざがられても当然なのだ だかといって学校の様子を聞こうにも『わからない』と返ってくるので難しい まぁ、それでも子供たちとはゲームだとか趣味の話題に振れば会話できるのでまだマシだけれど

話しかける内容に慎重になって、話しかけるタイミングを窺いすぎて、寝静まるまで残業をしてから帰るのが当たり前になると、せいぜい交わす会話が140文字になり、そしてそれさえも無意味に思えてくる こちらから話しかけることを止めてしまったら、それこそ会話がなくなっちゃうのに

コロナの少し前までは、みんなでキャンプに行ったり、モノポリーやカタンやカルカソンヌを囲んだり、マリオカートのトーナメントで盛り上がったり、夜は同じベッドで寝てたのに、春の夜の夢のごとく、そんなのはずっと続きはしなかったな

こんな状況にもそこそこ慣れてきているし、こんな状況だってそんなに長く続くとは思ってないんだけど、それでも時には滅入ることだってあるので、そんな私にどうか、どうか、慈悲のリアクションいただけると幸甚です


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