学習の転移と算数科のオーセンティックな学び
1 学習の転移
皆さんは、教育分野で「転移」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?
辞書で意味を調べると、次のような意味になります。
前に行なった学習が,あとの学習効果に影響を与えること。あとの学習を促進する場合を正の転移,妨害・抑制する場合を負の転移という。学習転移。
学習したことがつながり、教科を超えて転移してくれれば、教師にとっては願ったり叶ったりと良いことづくしです。
子どもにとっても、知識と知識がつながることで学習する意義を感じられるようになるのではないでしょうか。
この「転移」ですが、鈴木(2022)は転移の可能性について次のように指摘しています。
学習場面で用いた事柄(例題)と似ていれば転移は起こりやすいが、それと似ていなければ転移は生じない(その確率は低い)。
この指摘から、学習場面が変わると転移は起きにくいことがわかります。
ですが、「転移」が魅力的なことを踏まえると、どうにかできないかと思ってしまいます。
オーセンティックな学びに着目し、小野(2022)は文脈を一貫させることによる転移の可能性を示唆しています。
まずは、小野(2022)が述べる「文脈」は何を指すのか見ていきたいと思います。
学習や思考は常にある文脈に乗った状態で生じます。
文脈に乗れている状態
:その時間の問題がどんな「お話」を土台にしているのか腑に落ちているとき、または、その時間の問題に関わる既有知識が活性化しているとき
国語では単元を貫いた言語活動がありますが、算数は単元を通して学ぶ意識を子どもにあまり持たせることがないように感じます。
全ての領域において「このために学ぶ」というものが感じにくいため、子どもが文脈を感じることができないのではないでしょうか。
そのような算数科の教科特性を踏まえて、小野(2022)は次のように述べます。
ならばいっそのこと、一つの単元を一つの文脈で一貫させてみてはいかがでしょうか。
文脈をまたいだ知識の転移が難しいなら、そもそも最初からその知識を活用させる文脈で学べばいい、という発想。
算数科においては、オーセンティックな課題であるか否かにかかわらず、教師が本質的な構造の系統性を意識すること。また、同時にその構造の系統性を、子どもたち自身にも気付きが得られるように学びを組織することは、知識の転移の点から考えると大切なことです。
「他教科を巻き込み単元を貫くオーセンティックな課題に取り組む」こうすれば文脈は一貫するはずです。
総合的な学習の時間を中心にカリキュラムを編成し、その過程で算数を学ぶ学校などもあります。
そうすることができれば良いのですが、そこまでするのは現任校では無理です。
学校全体がある教科を軸に据え、カリキュラムマネジメントをするなら可能性はあると思いますが。。
現実的に考えると、国語・算数・社会・総合などの教科を使い、学期に1回くらい実施できればよいのではないでしょうか。
そうすると、算数で1つの場面で考えるときに比べると、教科横断的に考える機会が増えるため転移の可能性は高まると考えます。
2 算数科における課題
知識・技能に偏った算数科の危険性を、小野(2022)は次のように指摘しています。
本来は「問題」をつくり出すことにこそ自由度が大きいはずの算数科が、特に知識・技能の習得のみを目指すと、「問題」をいつも受動的に出題されて、後手に回って答えるばかりの構造になってしまうのは皮肉なことです。
これは考えさせられることが多いのではないでしょうか。
これまでの自分の授業を振り返ると、一見流れているような算数授業でしたが、いつの間にか子どもを受け身にしていたように思います。
子どもは有能な存在である立場に立つと、自分で問題を作り出すことはできるはずです。いや、できます。
算数では統合・発展が求められるます、発展はまさしく問題を作り出す姿そのものではないでしょうか
では、子どもが問題を作り出す経験をしてこなかった場合、教師はどのように支援すればよいのでしょうか?
思いつくままに、書き連ねてみます。
・普段の授業から発展的に考える場面を作る
・最初から子どもたち自身で発展させていくことは難しいので、教師が数値を変えるなどして発展的に考える場面を見せる
・発展的に考えることを価値づける
・発展的に考える視点を与える、選択できるようにする
・「だったら」というような発展的に考える姿勢を価値づける
・発展的に考えている友達と交流できるようにする
教師が発展的に考えることを見せ、徐々に子どもに任せていくことが考えられます。
そもそも、教師が意図しないと子どもが勝手に発展させないこともわかります。
発展させていたとしても、教師が意図していなければ見逃してしまうでしょう。
参考文献
小野健太郎(2022)「オーセンティックな算数の学び」東洋館出版社
鈴木宏昭(2022)「私たちはどう学んでいるか 創発から見る認知の変化」ちくまプリマー新書