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2段目〜私と編み物

中学1年の2学期の終わり、丁度今頃だろうか、家庭科の課題が編み物だった。
思いおこせば、女だけが家庭科をする最後の年度で、家庭科室には2クラス分の女子が集まった。

家庭科の先生は、体育の先生でもあった。何故体育と家庭科。非常に不思議であったが、とにかくちょっと怖い女の先生が、かぎ針編みのやり方を教卓の前で教えてくれた。針一本で簡単に編めるという。
そして、コースターか何か忘れたが、作り方の説明書きのようなものをもらい、皆同じものを一斉に作り始めた。

私はどうしても2段目にいけなかった。
1段目のやり方はわかる。針で糸を手繰りよせる、その感覚がわかり、横に編めたのだが、上にいけない。やり方がわからない。

家庭科は1つのテーブルに6人で座る。多分隣の人に聞いたのだと思う。どうしてもわからないと。彼女は自分の毛糸と針を使い、実演してくれたのだと思う。「わかった」できるような気がしてそうは言ったが、やはりわからない。何をどこに引っければ2段目にいくことができ、編めるのか。それ以上聞くことは出来ず、私は1段編んでは糸をほどき、ただ時間を潰した。

その一週間後の家庭科の時間、今度は別の人に聞いたのかも。しかし、やっぱりわからない。その時も1段編んではほどいて、また編んでを繰り返し50分やり過ごした。

編み物の時間はみな自由だ。手を動かしながら話も弾む。普段は厳しい先生もそれを咎めない。私にはおしゃべりを楽しめるような友だちがいなかった。編んでほどいてを繰り返しても誰にも気づかれない。皆はわかる、皆は楽しそうなのに、自分はわからない、楽しいとか、楽しくないとかそんな感覚さえよくわからない。ただ時間が過ぎるのを一人待つ。待ち望んだチャイムに「えー、もう終わりなの〜」と陽気な声が重なる。

あの時、教室でおしゃべりしながら編みものをしていた人たちは、今、どうしてますか?きっと高校も、それからも、誰かとおしゃべりしながら何かを楽しめましたか?

私はね、今ね、ようやくね、楽しめているような気がします。普通におしゃべりできるようになった気もします。でも編み物はまだできません。ただ、もしかぎ針を渡されて、2段目にいけなくて困ったとき、その時は結構しつこく何度も聞くかもしれません。わかるまで、諦めずに聞いて「なんだー、簡単じゃん」って笑いたいです。

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